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ワークスタイルとしての「ノマド」

「ノマド」と言う言葉を聞いたことがあるだろうか。英語で遊牧民という意味で、まるで遊牧民のように時間・組織・場所に縛られないワークスタイルを比喩的に表した言葉である。「ノマディズム」、あるいは「ノマドワーカー」という風にアレンジが加えられて使用されている場合も多い。

文脈としては、IT革命による産業構造の変化、技術的な進歩によってそれまで場所・時間・組織に縛られていたものとは異なるワークスタイルが可能になったため、それに「ノマド」の名が冠されたわけである。具体的なイメージは、ノートパソコン片手にお洒落なカフェ(場所に縛られない)で、ゆったり(時間に縛られない)と、一人で気まま(組織に縛られない)に働いているような感じだ。

詳細は不明だが、日本では大体2000年代終盤から次第に流通してきた言葉で読者の中にも既に知っているという方も少なくないのではないだろうか。それどころか、「今更ノマドかよ!遅れてるなー!」と思う方もいるかも知れない。しかし、今回はむしろ過去を振り返ることでそこから新しい議論を引っ張り出してみたい。それによって、ある種分かった気になっている人々にもう一度「ノマド」について考えて頂けたら幸いである。

 

ノマドの系譜

実は、このノマドという言葉が文字通りの遊牧民という意味とは別の意味合いで使われ始めたのは哲学の領域においてだった。遡ること1972年にフランスで行われたニーチェに関する討論会の中で、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが「ノマドの思考という」という議論を持ち出したのである。

その討論会については『ニーチェは、今日?』というタイトルで書籍化されているので気になる人は読んでみると良いかもしれない。参加メンバー(ドゥルーズ、リオタール、デリダ、クロソウスキー)はいわゆるポストモダンと言われる思想に分類される哲学者達である。

そこで使われていたノマドという言葉はどういう意味を持っていたのだろうか?簡単に言ってしまえば遊牧民のように色々なものに縛られない自己のあり方を表したものであった。「なんだ、最近使われている意味と大して変わらないじゃん!」と思うなかれ。というより、似ていて当たり前なのである。

なぜなら、もともと近代的(モダン)な生き方に対してそれとは異なる生き方を示す言葉としてノマドという言葉が使われ始めたからだ。上で書いたように、現在使われている意味での「ノマド」は近代的なワークスタイル=場所・時間・組織に縛られたワークスタイルに対置されている。

つまり、もともと哲学の議論のなかではより広い意味を持っていたノマドという言葉を、労働という限られた領域に限定して使い始めたのが現在の「ノマド」という言葉なのである。

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