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世間は「旅」ブームですね。既存の店舗型旅行代理店は業績悪化が続いているようですが、TABIPPOTRIPPIECEMATCHAtabi-labなど旅をキーワードにしつつインターネットをうまいことつかったwebサービスやメディアが人気を呼んでいます。

「人はなぜ旅をするのか」ということに関するアカデミックな議論は実は100年以上の歴史があります。今回の記事では議論の歴史的な系譜に触れながら、現在の旅ブームの理由について考えてみたいと思います。

 

自分らしさを求めて

観光人類学における古典的な概念として「オーセンティシティ」というものがあります。これは日本語にすると「真正さ」「本物」といった意味で、私たちが日常的に使うような「〜らしさ」を表しています。

都会の喧噪や、忙しい日々、ドライな人間関係などにハリボテのような虚しさを感じたことが一度や二度はあると思います。逆に、豊かな自然、美味しい食べ物、やさしい人々といったキーワードに対して本物らしさ、人間らしさを感じる人は多いのではないでしょうか。

現代における旅ブームの原因の一つをこの「オーセンティシティ」に見ることができます。普段の生活を離れた旅先でこそ本当の自分でいられるような気がする。若い人がよく、自分探しの旅をしますよね。そういった人は旅先で「本当の自分」が見つかることを信じて旅に出るのです。

 

疑似現実を確認しに

もう一つ、観光人類学においてメジャーな概念として「疑似現実」があります。「疑似現実」というのはアメリカの歴史学者ダニエル•ブーアスティンが提唱した概念で、私たちの頭の中にある本物とは異なる現実世界のことを指します。ブーアスティンは私達が日々の生活の中でメディアから取り込む様々な情報によって疑似現実をつくりだしていると言います。そのことは芸能人や、政治家といった人物だけではなく特定の国や地域にも当てはまります。

例えば、サンフランシスコといったらゴールデンゲートブリッジ、エジプトといったらピラミッド、ボリビアといったらウユニ塩湖といったようにその場を訪れたことが無い人でもその場所のイメージとして頭に浮かんでくるものがあると思います。これがブーアスティンの言う疑似現実です。

そして、ブーアスティンは私たちがたとえその場所を本当に訪れたとしても疑似現実に縛られ続けると言います。地域に暮らす人がいて、無数の景色があるにも関わらず、観光客は旅に出る前にガイドブックによって目的地の情報を仕入れ、ガイドブックに書かれている場所へ行き、ガイドブックに載っているのと同じような写真を撮って帰ってきます。

 

当たり前の日常から抜け出すため

メディア研究者のブライアン•モーランは「オーセンティシティ」と「疑似現実」の議論をふまえながら「観光客はかつて日本社会が許したことのないすべてのことをするように誘われている」と論じています。

たしかに旅行関連のwebサービスやガイドブックを見ると、「ふれあい」「遊び」「気軽」「のんびり」「気まま」「ゆったり」といった言葉が頻繁に使用されています。これらの言葉は集団原理、競争原理が卓越するあわただしい日本社会の反転した姿として見ることができます。日本人が旅に求めているものは普段の生活とは真逆の世界なのかもしれません。

 

旅好きの人で上に挙げた議論に対して思い当たる節がある人は多いのではないでしょうか。上で紹介した議論は40年以上も昔になされたものですが、現代の日本の状況にも適用できるものだと思います。

旅に出るきっかけは人それぞれだと思いますが、最近だとfacebookで海外の写真を見て「オーセンティシティ」を感じてその場所に行きたくなったり、ブログで旅の体験記を読んで同じような体験をしたくなったりといったことがきっかけになることが多いですよね。そうして旅に出かけていき、自分が既にインターネット上で見たものと同じような写真を撮ってまたインターネット上にアップロードをするという行動をとり、それがまた誰かの疑似現実を構築する、という連鎖がこれまでより速いスピードで働いているのが現在の状況なのだと思います。

 

【参考文献】

アーリ,J、『観光のまなざし』、加藤宏邦訳 法政大学出版局、1995年

ブーアスティン,D、『イメジの時代-マスコミが製造する真実-』、星野郁美•後藤和彦訳、東京創元社、1964年

山下晋司、『バリ 観光人類学のレッスン』、東京大学出版会、1999年

[Photo by Christian Jimenez]

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