想田和弘監督×家入かずま氏対談イベント 特別レポート 『これからの「選挙」の話をしよう。』

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想田和弘監督・家入かずま氏対談イベント『これからの「選挙」の話をしよう。』が、4月14日(月)、本郷キャンパスの情報学環・福武ホールで行われました。

ドキュメンタリー映画作家として有名な想田監督と、2月の都知事選に出馬した家入さんのお二人に「選挙」をテーマに対談していただく本シンポジウムは、本社文化事業部の初事業となりました。これからの「選挙」時間変更web用.jpg

『これからの「選挙」の話をしよう。』前夜

東京大学新聞社に、デジタル事業部が発足するのと同時に、「文化事業部」が発足しました。多くの主要な新聞社には、紙面を発行する編集部や他の営業部だけでなく、文化事業部が設置されています。文化事業部の役割は、新聞社の他の事業部と協力しながら、イベントやシンポジウムを主催することです。

東京大学新聞社文化事業部では、東京大学に縁のある方々を招待して、トークイベントやコンサートを行うことになりました。文化事業部として初めての事業に決定されたのは、世界的に有名なドキュメンタリー映画作家、想田和弘監督の作品上映会+講演会。監督は、東京大学新聞社のOBでもあります。

そこで選ばれた映画は『選挙』。posterjp.jpg

想田監督の「観察映画」シリーズの第一弾です。ドキュメンタリー作品でも、大抵の場合作品の方向性や筋書きを決めてから撮影に臨むことが多いのですが、「観察映画」では、目の前の現実・対象を撮影と編集を通じてつぶさに観察し、その過程で得られた発見に基づいて作ります。

出来上がった映画には、ナレーションや説明テロップ、BGMなどを基本的に使用しません。『選挙』はベオグラード・ドキュメンタリー映画祭でグランプリを受賞し、ベルリン国際映画祭、シドニー映画祭など数々の映画祭に正式招待された映画です。2013年には続編『選挙2』も公開され、話題を集めていました。

上映映画を決定したのは東京都知事選の記憶も新しい2月でしたから、候補者の方をお呼びして対談形式にしてはどうか、ということになりました。監督にご相談したところ、「家入さんはいかがでしょう。

家入さんは『選挙』みたいな世界に違和感を覚えて立候補されたのではないかと、僕は想像しています」とのご意見をいただきました。家入かずまさんは、数々のIT企業を経営し、2月の都知事選ではネットを駆使した選挙運動によって話題を集めました。家入さんにご登壇を打診したところ、快いお返事をいただけました。

ご登壇者との打ち合わせやインタビュー、会場の予約、ポスターの掲示、映画配給会社への連絡、などで日々は慌ただしく過ぎて行きました。学外の方からも多くのチケット予約をいただき、想田監督、家入さんへの注目度の高さを感じました。イベント前に家入さんに選挙体験について伺ったインタビュー記事はこちらからご覧いただけます。

 

上映開始

そしてついに、4月14日、本郷キャンパス・情報学環福武ホールにてシンポジウム『これからの「選挙」の話をしよう。』が開催されました。第一部では、想田監督の『選挙』を上映。16時から上映開始という、やや早めのスタートとなりましたが、学外の方が多くいらしてくださいました。

『選挙』は、切手・コイン商を営む山内和彦さんが自民党公認の候補者として川崎市議会選挙に出馬し、有権者一人一人に訴える「ドブ板」選挙に挑む様子を撮影したドキュメンタリーです。

BGMやナレーションを一切排していながら、山内さんが票集めのために保育園のラジオ体操に参加したり、祭りの神輿を担いだり、声が枯れるまで自分の名前を連呼したりと、鑑賞者の笑い(苦笑)を誘う場面もいくつかあり、客席からは大きな笑い声も聞こえました。

鑑賞者の方からの感想では、「テロップ、ナレーションが無いのに、とても分かりやすい内容だった」「選挙を多角的に映していてとても面白かった」などの声がありました。

 

対談開始、の前に・・・

第二部では、いよいよ想田監督と家入さんのトークセッションです。最前列の「関係者席」には何と、息子の悠くんを連れてニコニコ笑顔でスタンバイしている山内さんがいらっしゃいます。

(司会が「山内さん、ぜひ後ほどお二人の対談に『ご乱入』を・・・」と言ってマイクをお渡ししようとしたのですが、やんわりと断られてしまいました。残念、とションボリしていたのですが、実際には全くションボリする必要はありませんでした。

想田監督と家入さんの対談に、マイクが不必要なほど大きく通る声で(選挙運動で鍛えられたのでしょうか)飛び入り参加してくださいました!)対談セッションが始まると、もう誰にも止められない勢いで、お二人(と山さん)による『これからの「選挙」の話』が繰り広げられました。

 

映画『選挙』の裏話

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想田監督:本作はベルリン映画祭で初めて上映されたんですが、もう場内大爆笑。コメディーと受け取られたんですね。結構話題にもなって、映画についての報道が映画に出ている自民党の人たちにも伝わりました。

そのせいか、その何人かからは、明らかに不評を買っていますね。小泉進次郎(衆院議員)さんとか、「映画面白かったです」と言ってくれる人もいたので、自民党のみなさん全員が怒っているという訳ではないんですが。

ただ、撮影許可はもちろん取っていました。僕と山さん(山内和彦)は東大の駒場時代の同級生なんですけど、切手・コイン商という全然政治とは関係のないことをやっていた山さんが、いきなり自民党公認候補として立候補するということを聞いた。

「これは大変だ」と思って取材を申し込んだのですが、まさか自民党から許可が下りるとは思っていなかった。許可が下りてからは、山さんにずーっと密着して、撮影を続けました。自民党側は、「当選までの足跡」というような”ヒーローもの”みたいな映画を想像していたのかな。実は山さんも、完成した映画を最初に観たときは、怒っていたんです。

山内さん:今も怒っていますよ!

想田監督:ははは。僕も最初、できた映画を山さんには見せたくなかったんですけど、ベルリン映画祭への正式招待が決まって、さすがに主役の山さんにはその事実を知らせる必要が出てきたんですね。

そこで山さんにメールをしたら、すぐに興奮した電話がかかってきて、「ベルリンって、あのベルリン?!(想田さんの住んでいる)ニューヨークに見に行くよ!」と。で、議会の日程の合間を縫って、奥さんのさゆりさんと一緒に来たんですね、はるばるニューヨークまで。それで僕もようやく観念して映画を見せた。

すると山さん、最初はニコニコ笑っていたのが、だんだん目がつり上がってきて、最後には「おい、想田、こんなの公開できないよ」と怒るわけです。それを、2日がかりで説得して。その時、もうすでに山さんは自民党から干されていて、次の選挙では公認をもらえないことが分かっていた。

そのせいもあってか、最終的には「想田の映画だし、好きにすれば?」という感じで、OKをもらいました。言っておくけれど、映画のせいで山さんが自民党から公認をもらえなくなった訳じゃないですよ。

山さんみたいなハチャメチャな人が、自民党とうまく行く訳、ないですよね。そもそも山さん、自民党に投票したことなかったでしょ。

山内さん:ない……、いや、あるぞ。山内和彦に投票したことが、1度だけありますよ。

想田監督:全く、そういう人が自民党公認で選挙に出るのがおかしいですよね。

 

家入さん、想田監督の『選挙』を見た感想は?

家入さん:都知事選では、選挙がどういうものなのかを知らない状態で出ました。僕がやらなかったことばかりがこの映画の中で描かれていて、尊敬しましたね。山さんのことを、すごいなと思いましたよ。僕は、名前を連呼するとかそういうことは、できませんでした。

僕の選挙も「みんなの党」などの議員さんが応援してくださって、「名前を連呼しろ」といったアドバイスもいただいたんですけど、恥ずかしくてできませんでした。

映画では山さん、名前の連呼や演説のせいで声が枯れていましたけど、僕は部屋の中にいてツイキャスで生放送しているだけなので、声も枯れないし、寒さ対策も何も必要なかったんです。街頭演説をしたのは最初の土曜日と最後の土曜日の2回だけ。

 

ネット選挙がなかった時代。山さんの選挙運動は・・・

想田監督:山さんは、自民党から干された後は「主夫」として子育てをしてたんですけど、震災・原発事故直後の川崎市議選挙に再出馬するんです。今度は政党とは関係なく、完全無所属で出馬して、『選挙』でやったようなドブ板的運動は何もやらない。

何もやらない山さんを追いかけたのが、昨年公開した映画『選挙2』です。街頭演説をやったのもたったの1日だけで、家入さんの都知事選と似ていますよね。この時にはまだネット選挙は解禁されてなかったから、ツイキャスで自分の意見を発信する、といったことも出来ない。

だから、握手、選挙カー、街頭演説などの「伝統的なドブ板選挙運動」をやめてしまうと、本当にやることが無くなってしまいます。というのも、選挙制度がそういうふうに作られているんですね。ネット選挙が解禁にならなかったら、家入さんも何も出来なかったのではないか。

現状では、選挙運動のメインが、名前の連呼や握手攻撃といった、政策論議と全くかけ離れたものになっているんです。候補者討論会も義務づけられてないから、普通は開かれないしね。

民主主義社会における選挙の役割とは、私たちが住むコミュニティにおける問題を挙げ、話し合い、摺り合わせ、方向性を決めることだと思うんですけど、選挙制度がその役割を果たすように作られていない。山さんの2つの選挙をカメラ越しに追いながら、何だかとても奇妙な感じに包まれました。

例えば、選挙の時にはお決まりのようにポスターを貼るんですが、あれ何の意味があるんですかね。「顔とキャチフレーズを見て投票する人を選べ」っていうことでしょうか。政策とは全く関係ないですよね。でも、あれには多額の税金が使われている。

その不条理を痛感したのが『選挙2』の時です。原発事故が起きて、まだ3~4週間しかたっていない時の地方統一選挙だったんです。僕は、「あれだけの事故が起きたわけだから、今回の選挙は事故に対するリアクション、原発について議論する場、になるはずだ、ならないとおかしい」と思っていたわけです。

だけど、選挙運動は以前と全く変わらなかった。相変わらず候補者たちは駅前に立って「おはようございます、いってらっしゃいませ」と通勤・通学客にあいさつしてる。愕然としましたよ。

 

「選挙」に参加してほしい

家入さん:僕は、基本的に自分で政策は用意せずに、「選挙期間中に政策を作っていきます」と宣言しました。ネット選挙が解禁されていたので、ツイッターでみんなから意見を聞き、議論を起こすことで選挙や政治に興味をもってもらうチャンスなのかなと思いました。

選挙に興味を持ってもらって、参加して欲しかったんです。ツイッターでいただいた政策は、最終的に4万ちょっと。満員電車が東京都民のやる気をそいでいるとか、満員電車を緩和すべき、といった小さいものまで、様々でした。

政治は、自分とは全く縁のないドロドロした世界だと思っていたのですが、出馬して、政治家の方とフェイス・トゥ・フェイスで話してみると、皆さんいい人なんです。僕と同じように、政治や選挙を自分とは遠い存在、怖い存在、と見ている人は多いだろうし、そういった感覚を壊していきたいと強く思っていました。

想田監督:今の一番の問題は、一般市民の政治参加がないことですよね。映画『選挙』でもみられるように、政党の選挙運動の核になる支援者たちだけは、ある意味ものすごく濃密に政治参加してるんですけどね。そのサークルの一歩外へ出ると、茫漠たる「無関心」の砂漠が広がっている。

ああいう変な選挙制度を維持しているのは、もしかすると主権者に関心を持ってほしくないためなんじゃないかとさえ思ってしまいます。民主主義とは、主権者一人一人が権力を行使するものだから、一人一人が参加しないと成り立たないはずなんですけどね。

家入さん:SNSを使えば、今まで声を上げられなかった人たちの声を聞き取ることができるぞと思ったんです。政治参加に距離を感じている人や、社会的弱者、マイノリティといった人たちの声を聞くには、ウェブはすごく最適だなと。

「おじいちゃん、おばあちゃんの声も聞くべきだ」という声がボランティア陣から上がってきたので、巣鴨で1度「練り歩き」をやったんです。最初は渋々だったのですが、実際にやってみると色々な声を聞くことができて、街に出るとは、1人1人と会話するとはこういうことなのかなと感じました。

ネット選挙でもSNSで一方的に発信するだけじゃなくて、双方向に会話をして選挙活動をやりたい、と考えましたね。

想田監督:家入さんの選挙のスタンスは、僕が「観察映画」で目指している態度と共通するところがあると思います。つまり、まずは耳を傾ける、ということです。ドキュメンタリーといえども、先に台本ありきの作品が多い。先に結論があって、それに現実を押し込めるように撮影をする。

でも、それだと決まり切ったことしか撮れないから、発見も何もないんです。僕はそれが嫌で、対象について一切リサーチをしないで、打ち合わせなしで、カメラを持って中に入り、行き当たりばったりで撮っていく、という方法論を実践しています。

その時に重要なのが、よく聞き、よく見るということ。それは本来、政治にも必要不可欠な態度だと思うんですけど、現実には恐ろしく欠落している。

 

選挙にでようと思ったきっかけは

家入さん:もともと選挙には興味なかったんです。選挙に出ようと思ったきっかけは、政治を通じて居場所を作るという挑戦をしてみたくて。ちょっと心が弱い、学校からドロップアウトしちゃったような子の「駆け込み寺」のような、そこに住みながらプロジェクトを仕上げていくシェアハウスを日本各地に運営しています。

そういった活動のなかで共同体が作られていくんですけど、日本の中で共同体を作ると言っても、結局、政治を無視することはできないなと実感したんです。条例や法律がどんどん厳しくなっていくし、このまま何十年かたったら、僕らにとって生きづらい国になっていっちゃうな、と。

「共同体を勝手に作る」と言ってきたけれど、政治側から居場所を作ることも1つの戦略かなと考え、都知事選出馬を決めました。ずっと悩んでいたんですけど、自分で出馬しなければ、結局僕自身もまた選挙について深く考えないままに時を過ごしてしまうだろうと思ったんです。

他の候補者の中に応援したい人もいなかったし、自分で出てみよう、という気持ちになって。

 

選挙は・・・「楽しい」?

家入さん:自信を持って言えるのは、「選挙は本当に楽しかった」ということです。どんどん仲間が集まってきて、「お祭り感」ですよね。選挙事務所を構えて、ボランティアさんが集まって、そこで色々なプロジェクトが始まって、それぞれ勝手に動き出すような、お祭り感が半端じゃなかったなという思い出があります。

ただ、もちろんもっと改善できた点は多いですよ。僕らのSNSで意見を集める政策は、告示の前からやりたかったのですが、選挙管理委員会に聞いたら「それは事前活動に当たるかもしれない」と返答されて。「選管的にはセーフだけど、警察的はアウトかもしれません」といった言い方をするわけですよ。そしたら、こっちはお手上げです。

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SNSでこれからの選挙はどう変わる?

家入さん:僕は、実は選挙の途中まで「若い人は、僕に入れなくてもいいから選挙に行ってくれ」と言っていました。とりあえず皆で投票に行って投票率を上げて、若い人が選挙に行かないというイメージを変えよう、と考えていたんです。

けれど、投票の3日前に、「お前を応援してくれるやつらがいるのに、『誰に入れてもいい』っていうのは、おかしいのではないか」という指摘を受けて、「誰でもいいとかじゃなくて、僕に入れるべきだということをちゃんと言っていかなきゃ」と思い直したんです。

東京都の人口は、実は30代が一番多いんですよ。つまり、20~40代の層の厚みは、すごいんです。ネットでの対話を通じて応援する人を決めることができれば、医師会とか労働団体といった支持基盤を持っていない候補者が戦うことも可能になって、選挙がフラットになる。

支持基盤なんかに左右されるのって正しい民主主義なのかな、と疑問に思いますね。ネット投票ができれば、間接民主主義の中で直接民主主義的なことができるようになるんじゃないかなと思っていたんです。それを推進したいと、「インターネッ党」という団体を作ったところです。

想田監督:今後、東京23区の各区で候補者を立てていくんですか?

家入さん:実はまだ、僕らのチームの中でも議論しているところで、そう決まっているわけではないのですが・・・。

山内さん:江戸川区在住なので、江戸川区ならやりますよ!

(会場から大きな笑い声)

想田監督: 最近の社会を見ていて、「消費者民主主義」という言葉を思いつきました。生活必需品から娯楽まで、僕らは何でも消費する癖がついていますよね。その延長で、政治家も商品のようになってはいないかと。税金や票を対価にして、政治サービスを買うっていうイメージですね。

で、「ろくな商品=候補者がないから買わない」、つまり「投票しない」っていう人たちが低投票率を生み出している。逆に政治家の側も、誇大広告みたいな政策で、消費者の「購買意欲」を操作しようとする。

でも、民主主義を消費モデルでイメージしてしまうと、大きな落とし穴があります。例えば、投票を棄権しても、選挙で選ばれた政治家が、僕らが関与していないところで僕らの生活に影響を与えることを勝手に決定していることに変わりはないわけです。

下手すると、僕らが棄権して関心を持たずにいたせいで選ばれた政治家たちが、勝手に戦争を始めることだってありうる。「主権者」というのは「消費者」でも「お客さん」でもないんですね。

何よりも、「買って終わり」の消費者とは違って、自分の選択に責任を持たなきゃいけないんです。民主主義とは、主権者が主体的に自分たちで作り上げていくものだからです。主権者として目覚めないとまずいぞ、ということをすごく感じています。

 

対談を終えて

お二人の対談は、映画の話から選挙制度、SNSのネット選挙まで多岐に渡りました。ご来場者の方からは「1時間では短かった。もっと2人のお話を聞きたかった」「家入さんが選挙に出る前まで持っていた政治意識は、かなり多くの若者の考えを代表するものだと思います。

今の選挙システムは、若い人や斬新な考えを持つ人を受け入れようとしないように思えました。」「新しい選挙を考えるお2人の意見は貴重だった。」といったご感想をいただきました。

※今回の記事は東京大学新聞Onlineからの転載です。元の記事はこちらから

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