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【今回お話を伺った方】

株式会社ディー・エヌ・エー エンターテインメント事業本部 企画推進部 川崎渉(わたる)氏

株式会社エブリスタ 編集局 川崎龍一郎氏

電子書籍界を牽引

2012年の出版市場は、1兆7398億円(内訳:書籍:6879億円 雑誌9386億円)、紙の漫画が3766億円(内訳 単行本:2202億円 マンガ雑誌:1564億円)[i]となり、年々落ち込みを見せる。一方で、右肩上がりを記録しているのが電子書籍市場だ。

スマートフォン、タブレットの市場だけでも、2011年に112億円、2012年に368億円の約2倍と成長し続けている。[ii]この電子書籍市場を引っ張るのが、株式会社エブリスタ(株式会社ディー・エヌ・エーとドコモの合弁会社)が運営し、訪問者数1日に100万人、投稿作品数200万作品以上、そのなかから年間100冊以上を書籍化、アプリの累計ダウンロード数1200万を誇る、今年4年目を迎えたスマホ小説の「E★エブリスタ」である。

2013年の12月にスタートしてから5月に累計ダウンロード数400万を突破した「マンガボックス」を運営する株式会社ディー・エヌ・エーだ。ただし、サービスの趣向はまったく違う。「E★エブリスタ」はUGCメディアとして、「マンガボックス」は一定レベルに達している作家の作品を配信する形として運営されているからだ。設計の異なる2つのサービスは、どういう考えのもと運営されているのか。

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株式会社エブリスタ 編集局 川崎龍一郎氏 

イノベーションの組み合わせは失敗する

両サービスの違いについては、成長性という観点から話してくれた。それは、短期的な視野に立つと非投稿型サイト、長期的な視野に立つと投稿型サイトが適しているということだ。つまり、「E★エブリスタ」が投稿型サイトなのは、mobage小説から派生した文化であり、受け入れてくれる層が存在していた。

「マンガボックス」は、基盤となるユーザーが存在せず、短期的にメディアを確立するために質が保持されたコンテンツだけを掲載したということだ。加えて、マンガボックスが横読みビューワーを採用する理由として2点あげてくれた。

「1、書籍化をする際に、横スクロールの方がデータを利用しやすい 2、ユーザーの抵抗をなくしたい。」と、語るのは株式会社ディー・エヌ・エー エンターテインメント事業本部 企画推進部でマンガボックスを担当する川崎渉氏。ユーザーの抵抗とは、何を意味しているのか?次のように話してくれた。

「電子書籍×スマートフォンとなると、ふさわしい表現とは何か?の追求になりがち。しかし、そもそもスマートフォンで電子書籍を読む行為自体が、ユーザーにとってのハードルになっている。第一のハードルをクリアしたユーザーに、新たな表現というハードルをプラスしてしまうことは良くない。」

「イノベーション×イノベーションは、絶対に成功しないと思っている。新しさは、1つでいい。」

今後の展開として、スマートフォンで電子書籍を読むという行為が一般化したら、最適な表現を模索するかもしれないが、今はすべきではないと、ユーザーの状況に合わせて展開することの大切さを説く。

 

狙うは、マスメディア

「ニッチメディアを目指しているのではなく、マスメディア化を狙っているから、ペルソナ[iii]は意識していない。もちろん、マンガ雑誌を読み単行本を買う、あるいは買っていた層がコアターゲットということはある。だからといって、マンガを普段読んでいない人を排除しようとも思わない。」

(マンガボックスを担当する川崎渉氏)同じく編集局の川崎龍一郎氏も「エブリスタが掲げる、1億総クリエイター。これを実現しようとするには、ユーザー層を絞り込んでいては達成できない。ジャンルごとの読者を抱えながら、誰でも利用できるサービスを作りたい。」と語る。

事実、「E★エブリスタ」は、男54%:女46%、10代:28% 20代:35% 30代以上:37%。「マンガボックス」は、男65%:女35%、10代:20% 20代:40%、30代:20%、と幅広いユーザーを獲得しており、順調のようだ。

しかし、「本当に大丈夫なのだろうか?」という不安も残る。なぜなら、かつてのWEB漫画には、「新しいサービスだ!」ともてはやされながら収益が出せずに終了していったものがある。圧倒的な知名度が誇っていたとしても、これらの状態に陥らないとも限らない。

そういう心配はしていないのだろうか?マンガボックス担当の川崎渉氏は、「メディアとしてのマンガボックスを使いやすくしていくなどテクニカルな部分もあるが、コンテンツを扱う事業にとって、力のあるコンテンツが必要という本質のスタンスは変わらない。ここから逃げると、続いていかない。」

と、ネットというインフラがありさえすれば売れるのではなく、あくまでもコンテンツ重視という、コンテンツビジネス事業者としての姿を語ってくれた。

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 株式会社ディー・エヌ・エー エンターテインメント事業本部 企画推進部 川崎渉(わたる)氏

多様な作家を受け入れるプラットフォーム

『王様ゲーム』で560万部のベストセラーを達成、2011年に映画化、ソーシャルゲーム化され、見事スマホ小説で成功を収めた原作者金沢伸明。月間最高売上最高額200万『Perfect crime』の専業主婦作家 梨里緖さんを生み出してきたエブリスタ。

しかし、メディアミックスは売れた作品を書籍化するだけではない。なぜなら、4コマ漫画としては、評価されていなかったが、京都アニメーションが制作したアニメでブームを引きおこした『けいおん!』の事例があるからだ。では、どのように“売れる作品”を見つけ出しているのか。

エブリスタで書籍化を担当する川崎龍一郎氏は、「村上春樹さん、宮部みゆきさんらのような純文学が必ずしも万人にとって人気になるのではないのではないか。サイト上で人気の作品が、書籍でも人気作品かというと、これも違う。

書籍化にあたり判断基準としてあるのは、“エブリスタならでは”の作品かどうか。「こんな作品あったの?」と出版社の方が見つけてくることもあり、埋もれている一般作家を見出していく場だ。」と語る。

力のあるコンテンツ=面白い作品の条件としては、エブリスタ担当の川崎龍一郎氏とマンガボックス担当の川崎渉氏は、漫画、小説とはかくあるべきであるという既成概念をとっぱらった素人ならではの作品を例にあげ「突き抜けた作品であってほしい。」という点をあげた。

「突き抜けた作品であれば、既存のユーザー層に合わずともいい。女性が読んで100%面白い作品であれば、ユーザー層の65%の男性を捨ててもいい。」と驚きの発言をするのは、マンガボックス担当の川崎氏。成長途中の「マンガボックス」だからこそ、作品に対する強いこだわりを見せる。

 

未来のスター作家へ

最後に、未来のスター作家への求めるモノとしてメッセージを頂いた。

エブリスタ担当の川崎龍一郎氏

「小説の枠にとらわれずに書くこと事が、結果として新たな創作のカタチが誕生する」

マンガボックス担当の川崎渉氏、

「ネットに掲載すれば、紙では取得できない読者のデータがとれる。そのデータを見ながら、柔軟性をもって作品に反映していく意志のある作家がネットと相性がいい。」

今回の取材にあたり、企画、関係者間の調整をしてくださった皆様、本当にありがとうございました。

 

[i] 情報メディア白書2014 P66 図表I―2―1 出版市場主要指標<取次経由分>

[ii] 電子書籍ビジネス調査報告書・(株)インプレスビジネスメディア

[iii] マーケティング用語。サービス、製品の代表的な消費者モデル(年収、性別、年齢、居住地、家族構成、生活様式で判断する)

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