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現在、過去最大のエボラ出血熱(必ずしも出血症状を伴うわけではないことなどから、近年ではエボラウイルス病と呼ばれています)の感染拡大が起き、世界中で大きなニュースになっています。

日本では、厚生労働省がホームページ上で「日本国内でエボラ出血熱が流行する可能性は、現時点ではほとんどありません」と情報提供しています。(厚生労働省より

ただ、空路の発達によって人々の往来が増えた現代において、エボラ出血熱が日本に持ち込まれる可能性は残ります。今回、エボラ出血熱に関して、まとめてみました。要点は以下の3つと考えています。

・地球上の各地が航空機で結ばれている現代においては、遠い国の感染症も容易に国内に持ち込まれる可能性がある。

・エボラ出血熱自体は、致死率は高いが感染力は強くないため、先進国で流行が起きることは考えにくい。

・今回の流行の背景には、貧困や紛争などアフリカが抱える深刻な状況が関係している。

 

エボラ出血熱とは

エボラ出血熱はエボラウイルスに感染することで発症します。

<症状>
発熱、頭痛、関節痛、下痢、倦怠感、嘔吐、腹痛、そして、出血症状があります。

<発症までの期間>
感染から2-21日(多くは8-10日)の期間に発症します。

<どのように感染が広がるか>
感染し、かつ症状のある人の血液や体液に触れることで感染します。空気感染はしません。飲料水や食品から感染することもありません。症状のない感染者からはうつりません。インフルエンザやはしかに比べ、比較的感染力は弱いウイルスです。

<感染源は?>
結論は出ていませんが、エボラウイルスは、コウモリに宿るとされていて、コウモリからサルなどの野生動物に感染し、人がコウモリやサルを食べたり、接触したりすることで感染すると考えられています。

<死亡率>
ウイルスの種類にもよりますが、50-90%とされ、高い死亡率を示す感染症です。

<治療法>
現時点で確立された治療法はありません。下のポスターは、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によるものです。アメリカ国内では大きな感染リスクはないことを示しています。

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今回の流行は、何が特別か?

(1)規模が大きい

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の発表では、8月12日の時点で、患者数1848名、死者数は1013名にのぼるとみられており、過去最大の流行となっています。

世界保健機関(WHO)の報告では、これまでの最大の流行は、2000年、ウガンダで発生したもので、患者数425名、死者数224名だったことと比べても、今回の規模の大きさがわかると思います。

8月8日、WHOが「緊急事態」との宣言を出しました。これは、その感染の収束に国際的な協力が必要という宣言です。

(2)流行地域がこれまでと違う

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上の図をみてください。(文献1より)

紫色の楕円で囲まれた地域が過去にエボラ出血熱の流行がみられた地域です。中央アフリカに集中していたことがわかります。オレンジ色の楕円が、今回流行している地域です。今回は、初めて西アフリカで流行が発生しました。

(3)首都でも患者が出ている

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出典:Centers for Desease Control and Prevension 

上の図を見てください。今回(8/7の時点)の流行地域をより細かく示した図です。オレンジ色の地域が流行地域です。国境を越えて広がっていることがわかります。緑色の点で示された町(ギニアのコナクリ、シエラレオネのフリータウン、リベリアのモンロビア)は、各国の首都です。

いずれもオレンジ色の地域に入っていることがわかります。首都には国際空港があります。首都において特殊な感染症が感染拡大することは、そこから海外へ感染症が広がる可能性を示唆します。

 

なぜ大規模な流行となったのか?

今回の大規模な流行の理由として、以下が考えられています。

・エボラ出血熱の流行の経験がない地域なので、医療者や一般市民の知識がなく、適切な対応がとられにくい。患者の血液や吐瀉物、排泄物への接触によって感染が拡大するという知識が乏しく、患者のケアにあたった現地の医療者や家族からさらに感染が広がるという事態が起きている。

・死体に手を触れる葬式の方法があり、患者の死体に触れることで新たな感染を生んだ。

・アフリカ内の道路の整備によって、人々の移動が増えた。

・近年の社会不安で保健システムが脆弱になっている。

 

アフリカが抱える事情

今回は西アフリカで初めての流行、かつ過去最大の流行が発生しました。流行地域であるシエラレオネやリベリア、ギニアは国連による報告では、187カ国中183位、175位、179位とそれぞれ世界最貧国の一つです。また、シエラレオネやリベリアは紛争によって情勢が不安定です。

これらの国々で流行が拡大した背景には、アフリカが抱える深刻な事情があります。

<貧困と感染拡大>
貧困によって人々が森林のより深い場所まで狩猟に出かけたり、木材を伐採にしにいくようになります。そして、エボラウイルスのような、動物との接触が感染源となる感染症にさらされる危険が増します。貧困地域では十分な医療設備がないため、感染は今回のように拡大します。

<伐採焼き畑農業>
今回流行が起きた地域では、非常に困難な経済状況などを背景に伐採焼き畑農業が行われています。この影響で気候や環境が変化し、ウイルスが宿る可能性のあるコウモリの生息域が変化したのではないかという推測もされています。

今回のエボラ出血熱感染拡大をめぐる一連のニュースは、人々が世界中を旅するようになった時代が生んだ新たな脅威と、一方で長い目で国際社会が向き合わなければならない根の深い問題との交錯の結果といえるのではないでしょうか。

流行は恐らく数ヶ月で沈静化するでしょう。しかし、アフリカの抱える状況はその期間では改善しません。先進国では流行にならないような感染症が、アフリカでは流行してしまいます。

そこには貧困、医療資源の不足、知識不足、衛生状況の悪さ、栄養問題など様々な要因が関係しています。今回のエボラ出血熱の流行が鳴らす本当の警鐘は、その点にあるのかもしれません。

[参考文献, webページ]
1, Heinz Feldmann「Ebola-A Growing Threat?」『The New England Journal of Medicine』2014.
2, Amesh A. Adalja 「Ebola in West Africa: A Familiar Pattern?」『Biosecurity and Bioterrorism: Biodefense Strategy, Practice, and Science』 vol.12, no. 4, pp.161-162, 2014.
3, Daniel G. Bausch「Outbreak of Ebola Virus Disease in Guinea: Where Ecology Meets Economy」『PLOS Neglected Tropical Diseases』 vol. 8, no. 7, pp.1-5, 2014.
4,「GDP per capita (2011 PPP $)」http://hdr.undp.org/en/content/gdp-per-capita-2011-ppp(2014/8/12アクセス)
5, 「WHO Ebola virus disease (EVD)」http://www.who.int/csr/disease/ebola/en/(2014/8/12アクセス)
6,「CDC 2014 Ebola Outbreak in West Africa」http://www.cdc.gov/vhf/ebola/index.html?s_cid=cdc_homepage_feature_001(2014/8/12アクセス)

header Photo by Army Medicine

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