【読了時間:約 7分

夏祭りシーズンが到来し、御神輿の列もたびたび見かけるようになりました。まさに、日本の夏を感じさせる光景かと思います。祭りに参加することで、自分と地域社会との繋がりを再確認することもあるのではないでしょうか?

今回は、そんな日本ならではの祭り文化を通して、人々のつながり、「ソーシャル・キャピタル」についてとりあげてみたいと思います。

 

ソーシャル・キャピタルとは?

ソーシャル・キャピタルは、大雑把にいうと、「人々のつながり、信頼関係」という意味になると思います。日本語訳は、社会資本、社会関係資本になります。

まだ定まった定義はなく、代表的なものとしてOECD(経済協力開発機構)によるもので、「networks together with shared norms, values and understandings that facilitate co-operation within or among groups」(=あるグループ内、もしくはグループ間の協力を促進するような、共有される共通見解、価値そして理解を伴うネットワーク 筆者訳)があります 1)。

言葉は古く、1900年ごろにはアメリカの文献で登場しています。現在は社会学、社会疫学、政治学、経済学などの分野でよく使われている言葉です。

このソーシャル・キャピタルを高めることは、

・経済成長を高める

・治安の改善

・地域社会を活性化

・災害に強いコミュニティをつくる

などにつながるといわれており、各分野で注目されています。

確かに、近所同士の信頼関係が強いコミュニティのほうが、好ましいことは容易に理解できますね。ただ、強い結束は同時に排他(を生む可能性もあるという指摘があり、これには注意が必要です。

 

世界に誇る日本の祭り

日本には、「向こう三軒両隣」という言葉もあるように、昔からお互いに助け合って生きていく気持ちが根付いていました。阪神淡路大震災や、東日本大震災の際の地域住民の助け合いの姿勢は、世界を驚かせました。

そんな日本において、祭りは、ソーシャル・キャピタルを高める役割の一部を担ってきたと考えられています。

米パデュー大学政治学准教授のDaniel P. Aldrich氏は、New York Times紙の記事の中で、ソーシャル・キャピタルの向上のために、アメリカにおいても日本の祭りのような、世代を越えて隣人が集まることのできる催し物を地域で開催すべきだと書いています。

実際に、ソーシャル・キャピタルを向上させることによって災害に強い町をつくることを目標とし、サンフランシスコやシアトルなどの都市では日本の祭りをモデルとした催し物が行われていることが、同記事の中で触れられています。

日本の祭りがソーシャル・キャピタル(=人々のつながり、信頼)の形成につながる事由として、

・住民の地域コミュニティへの参加を促すこと

・毎年受け継がれるイベントであること

・町内会という既存の組織の中で、祭りに向けて様々な役割や責任を地域住民が分担すること

・世代を越えた交流が生まれること

・審議のうえ、地域の中でのリーダーを決めるプロセスがあること

・祭りが持つ儀式的な意味合いへの共通の愛着が生まれること

・祭礼組織が、日ごろから住民を市民活動などに積極的に参加するように呼びかける社会的組織としての役割も果たしていることなどが指摘されています 2)。

 

最近の祭りへの参加意欲の傾向

では、最近の傾向として、祭りへの参加意欲はどうなっているでしょうか?少しデータが古いですが、NHKによる調査の結果を示します。

1

上のグラフは、1978年と1996年の2回、NHK放送文化研究所が行った調査の結果を示しています。オレンジの棒グラフが、調査間の「あなたは地元の行事や祭りには積極的に参加したいと思いますか」の問いに対して「はい」と答えた人の割合の変化を示しています。

中心の水平線よりも下向きに伸びていると、1996年にかけてその割合が減ったことを示します。地方を中心に、減少傾向が目立つ印象です。

このデータだけで言い切ることはできませんが、全体的に祭りなど地域の行事への参加はやや消極的になっている可能性は示唆されます。それは、日本が守ってきた「人々のつながり」を希薄にさせてしまう可能性をはらんでいます。

 

ソーシャル・キャピタルと健康

最後に、ソーシャル・キャピタルの大きさは、寿命とも関係があるという分析について紹介します。

 

2

文献3)

上のグラフは、アメリカからの報告で、地域住民への信頼(=ソーシャル・キャピタル)が低い州のほうが、死亡率が高いという結果を示しています。(グラフの中の小さい点は、各アメリカの州を示しています)

このソーシャル・キャピタルと寿命の関係は現在では社会疫学の分野で広く認識されています。そして、戦後日本がこれだけの長寿国になったのは、医療や衛生、栄養の充実だけではなく、もともとあった人々のつながり(=ソーシャル・キャピタル)の強さが大きく影響しているのではないか、という考察をする海外の研究者もいます。

地域を信頼し、人々のつながりを大切にする社会の土壌は、日本が誇るべきものです。

しかし、今後それが希薄になっていく可能性が示唆されています。

今年の夏は、地域のソーシャル・キャピタル向上に貢献すべく、夏祭りに参加してみてはいかがですか?

[参考文献]
1) Katherine Scrivens, et al. Four Interpretations of Social Capital: An Agenda for Measurement. OECD Statistics Working Papers 2013
2) Roshan Bhakta BHANDARI, et al. Building a Disaster Resilient Community through Ritual Based Social Capital: A Brief Analysis of Findings from the Case Study of Kishiwada. Annuals of Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ. 2010;53B:137-148.
3) Ichiro Kawachi, et al. Social Capital, Income Inequality, and Mortality. American Journal of Public Health 1997;87:1491-98.
4) イチロー・カワチ. 命の格差は止められるか. 小学館新書. 2013

Photo by Miki Uchida

Credoをフォローする