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国内感染デング熱の報告

過去60年以上ぶりのデング熱国内感染例の報告がニュースになっています。

最初に留意していただきたいのですが、この記事は日本におけるデング熱の脅威をあおることを意図しているわけではありません。

厚生労働省のホームページにあるように、デング熱は稀に重症化しますが、比較的予後良好な感染症です。

デング熱は蚊を媒介して感染しますが、流行の中心となる「ネッタイシマカ」は日本国内に生息しておらず、「ヒトスジシマカ」という流行を起こす可能性の低い蚊のみが生息しています。そのため、大きな流行は起きにくいと考えられています。

デング熱の詳細情報は、上記の厚生労働省のホームページをご参照ください。

 

人類最大の敵、「蚊」

デング熱の国内感染例報告を受け、にわかに「蚊」が注目されています。

下の図をみてください。
1出典:http://www.gatesnotes.com/Health/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week 

この図は、ビル・ゲイツ氏のブログに掲載されている、人間を死に至らしめている生物のランキングです。

人間を死に至らしめている生物のダントツの1位が「蚊」です。人間の最大の敵は、蚊なのです。

2位が「人間」であることは、悲しい事実です。3位はヘビ、4位は犬(狂犬病)と続いています。

 

蚊が媒介し、人間を死に至らしめている病気の代表は、マラリアです。

WHOの発表では、2012年のマラリアによる世界の年間死者数は、約627000人となっています。死者の多くは、アフリカのサハラ砂漠以南の地域の5歳未満の子どもたちです1)。

デング熱も蚊によって媒介されます。WHOによる世界の年間デング熱患者数の推定は、5000万-1億人で、うち約50万人が重症化し、2.5%が死に至るといわれており、その多くは子どもたちです。また、医療設備が整っていれば致死率は1%以下に抑えられるとされています 2)。

その他、蚊によって媒介される感染症に、西ナイル熱、日本脳炎、黄熱などがあります。

 

蚊との戦い

現時点でマラリアやデング熱に対する予防接種はなく、蚊に刺されないことが感染予防に重要となっています。マラリアには予防薬がありますが、その効果は100%ではありません。

また、デング熱は過去50年で30倍に増え、現在、世界の人口の約40%が罹る可能性があるといわれており、蚊が人類に与える影響は増している傾向があります 2)。

そんな出口の見えない蚊との戦いの中、開発中の技術の一つに、「遺伝子組み替え蚊」があります。遺伝子を組み替え、寿命を短くさせた蚊を実験室で作り、それを自然に放つことでその地域の蚊の数を減らそうという手法です。

まず、自然界における蚊の生活環を下の図で示します。

2
ウェブサイト 3)より 

次に、遺伝子組み替え蚊の場合を示します。
3ウェブサイト 3)より

遺伝子組み換え蚊によって自然界に持ち込まれた「短命の遺伝子」によって、蚊は成虫になる前に死にます。そのことで、感染を媒介する可能性のあるメスの成虫が減り、蚊を介した感染症が減るというしくみです。

その他、性に関する染色体に変化を加え、生まれてくる蚊の95%をオスにする遺伝子組み替え蚊も開発されています 4)。

この「遺伝子組み替え蚊」を用いた研究は、イギリスの民間会社を中心に進められており、ブラジルやケイマン諸島(西インド諸島の一つ)で実際に自然の環境を使って試されています。

 

ただ、問題はその安全性がまだ確立されていない点にあります。

人工的に遺伝子を組み換えられた昆虫を自然の中に放つことの長期的な影響や、ある地域の特定の昆虫を減らすことによる生態系への影響、違う種類の蚊の大発生を生む可能性などはまだはっきりとわかっていません。安全性が未確立の状態で実際に自然の中で試験を行うことへの倫理的批判もあります。

 

今後、この革新的な技術の適応に関する国際的な議論が進むことが望まれています。

蚊は人類にとって脅威です。有効な対策を世界中の研究者が模索しています。

同時に、科学の暴走が招く危険には十分気をつけながら、人間はこの最大の敵に立ち向かわなくてはいけません。

[参考文献]
1) WHO. World Malaria Report 2013. Geneva, World Health Organization, 2013.
2) WHO Dengue and severe dengue (http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/) 2014/8/30アクセス
3) One in seven people worldwide is affected by a neglected tropical disease. (http://oneinsevenpeople.wordpress.com/2011/11/08/gm-mosquitoes-buzz-off/) 2014/8/30アクセス
4) Roberto Galizi, et al. A synthetic sex ratio distortion system for the control of the human malaria mosquito. Nature communications. 2014
5) Kenneth A. Oye, et al. Regulating gene drives Regulatory gaps must be filled before gene drives could be used in the wild. Science. 2014;345:626-628
6) Angela F Harris, et al. Field performance of engineered male mosquitoes. Nature Biotechnology. 2011;29:1034-1037

Photo by Wikipedia

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