【読了時間:約 6分

7月に、マクドナルドがチキンナゲットに賞味期限切れの鶏肉を使っていたということで、大きな問題になりました。

”日本マクドナルドは25日、「チキンマックナゲット」など中国製の鶏肉商品8種類の販売を中止した。同社がナゲットを調達していた中国の食肉加工会社、上海福喜食品(上海市)が使用期限切れ食肉を使っていた問題で、消費者に中国製の鶏肉商品の不安が高まっているためだ。”

引用元:2014年7月15日 日本経済新聞

ここまで騒動が大きくなった理由の一つとして、マクドナルドが日本全国に店舗を持ち、巨大な工場から加工された食品を一括輸入する巨大産業であるということがあります。

この産業には、実際にマクドナルドの商品を口にする全国の消費者だけでなく、莫大な数の工場労働者や流通業者、原料生産者が関わっているのです。今回の記事では、社会に対して大きな影響を持つようになったファストフードと私たちの食文化の関係について、文化人類学の観点から考えてみたいと思います。

 

ファストフードはなぜここまで広がったのか

マクドナルド、ケンタッキーフライドチキンなど現在私たちが日本で見ることができるファストフードチェーンの多くはアメリカで誕生しました。アメリカには、ハンバーガー、ピザ、チキンなどのファストフード店が多く展開しています。

ファストフードチェーンが大きく成長した理由の一つに、アメリカの文化的背景があると言われています。

race_in_america

アメリカンの人種構成(2000年頃) 引用元:きっずせみなあ2010

ご存知の通り、アメリカには多様な人種と文化の人々が暮らしています。文化が異なれば食の好みも異なるので、ある文化圏の人が好む料理でも、その他の文化圏の人々は全く好まないということがありました。

ファストフードと言えば、強い塩味やうまみなどが特徴でありあまり文化的背景に左右されない味付けがされています。それ故に、ファストフードは多様な文化的背景を持つ人々に好まれ、産業として大きく成長していったと言われています。

 

ファストフードと文化帝国主義

さて、そんなファストフードですが、これまで文化人類学においては「文化の敵」としてとりあげられることがよくありました。ファストフードが批判される文脈では、「文化帝国主義」という概念がよく用いられてきました。

Weblio辞典によると、文化帝国主義は次のような意味を持っています。


文化帝国主義(ぶんかていこくしゅぎ、Cultural imperialism)とは、ある文化または言語を別の国に植えつけ、発達させ、他文化、言語との差別化を図るなどの政策方針、あるいはその行為そのものを指す。通常、文化を植え付けるのは経済的にまたは軍事的に強大な国(列強先進国)で、後者は小国、あまり力を持たない国(開発途上国)である。

引用元:Weblio辞典

すなわち、文化人類学においては、ファストフード産業に対して「経済的、軍事的にも強大であるアメリカの産業が他の食文化へ侵略している」という批判がなされてきたのです。

たしかに、ファストフードをみんなが食べるようになると、その国や地域の伝統料理は衰退してしまう可能性があります。実際にこういった批判は現在でも有効なのでしょうか。

 

これからのファストフードの話をしよう

筆者の感じるところでは、上に述べたようなファストフードの文化帝国主義批判は現在では力を弱めています。その最大の理由は、「伝統文化の自明性が失効しつつあること」にあります。

すなわち、伝統文化が過去から形を変えずに連綿と受け継がれてきたものである(だから大切にするべきである)という前提が否定されているのです。例えば、イギリスの歴史学者であるエリック•ボブズボームは著書『創られた伝統』において、儀礼や文化などの「伝統」が発明されるという現象が19世紀以降に現れたという指摘しています。

具体例としては、スコットランドの伝統文化の象徴となっているタータン・チェックのキルト(スカート状の民族衣装)は、近代になってイングランドとの伝統の違いを強調するスコットランド・ナショナリズムによって捏造された伝統であるといった事実が挙げられています。

たしかに、ユネスコに無形文化遺産に登録された日本食も古来から受け継がれた日本の伝統のように捉えられがちですが、実は100年前の姿からかなり変更が加えられていると言われています。(参考:「日本食が文化遺産になった理由とは」)

こうした知見を前提として、文化帝国主義によって壊されてしまうとされていた伝統文化そのものが、既に創られたものだという主張がなされています。そのことから発展して、ファストフードのような外来文化によって新たな文化が創られるというポジティブな語り方がされることもあります。(極端な例ですが、ハンバーガーと照り焼きが融合して照り焼きバーバーが生まれました)

文化人類学者の山下晋司は、現代社会においては本来あった文化が消滅してしまうという「消滅の語り」ではなく、多様な文化が混ざり合うことによって新しいものが生まれるという「生成の語り」をするべきだと論じています。

 

まとめると、「守るべきものとされていた伝統文化が、そもそも創られたものである」という主張と、「文化が混ざり合うことによってより新しいものが生まれることもある」という主張によって、食文化を破壊するものとしてファストフードを批判することは難しくなっているのが現状です。

このように、文化帝国主義的な側面からファストフードを批判するということはなかなかやりづらくなっています。もちろん健康に対する影響や、貧困を助長してしまうなどファストフードに対する批判には様々な側面があります。今回はその中であくまで文化人類学的な側面からファストフードについて考えてみました。

[参考文献]
•エリック・ホブズボウム・テレンス・レンジャー・Hobsbawm, Eric・Ranger, Terence・前川啓治・梶原景昭,1992,『創られた伝統 』文化人類学叢書』紀伊国屋書店.
•山下晋司,1999年,『バリ 観光人類学のレッスン東京大学出版社.

Photo by Mike Mozart

Credoをフォローする