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増えない臓器移植

2010年に改正臓器移植法が施行され、4年が経過しました。

この法改正によって家族承認のみによる脳死下臓器移植(15歳未満も含む)が可能になりました。(改正前は、本人の明確な意思表示がなければ脳死下臓器移植はできませんでした。)

臓器提供件数の増加を目指した法改正でしたが、今のところ移植総数の変化はみられていません。

「一般的な死」は、心臓が停止すること(心停止後)をいいます。一方、「脳死」とは、脳だけが活動を停止し、心臓を含むその他の臓器は機能を保った状態を指します。呼吸をする中枢は脳にあるので、人工呼吸器をつけなくては生命を維持できません。その後の臓器移植を念頭においた死の定義です。日本では、1997年に脳死後の臓器提供を可能にする「臓器の移植に関する法律」が施行され、それ以降、脳死下の臓器移植が可能になりました。

心停止後の臓器移植に比べ、脳死下の臓器移植は、心臓が止まっていた時間がない分、より多くの臓器提供を可能にします。世界的に少ない日本の臓器移植数を上げるためには、脳死下の臓器移植を増やす必要があるのです。

下のグラフは、日本における移植件数の年次推移を示しています。

図1

出典:日本臓器移植ネットワーク

この図から読み取れることは、「改正法後、脳死下での臓器提供は増えたが、移植総数は変化がない」ということです。

法律の改正があり、家族の承認だけで脳死下の臓器移植の判断ができるようになったため、当然脳死下の臓器提供数は増えました。しかし、それでも移植総数が変わっていないということは、日本人が潜在的に持つ臓器移植への意識はこの数年間あまり変化 がないことを反映しているといえます。

より脳死、臓器移植の判断が下しやすい状況になったことで移植数が増えることが予想されたにも関わらず、移植数は増えていないのです。

 

世界的に少ない日本の臓器移植数

図2

出典:日本臓器移植ネットワーク

上のグラフは、年間臓器移植数を日本とアメリカで比べたものです。

アメリカの人口は日本の約2倍ですが、臓器移植数は約70倍にものぼります。

アメリカとの比較だけにとどまらず、日本の臓器移植数は世界的に低い数字です。

 

日本の問題点

なぜ日本の臓器移植数は増えないのでしょうか。

先ほども述べたように、心停止後臓器移植よりも、脳死下臓器移植が多いほうが移植数が増えますので、移植数と「その国の脳死に対する意識」は関係があることが推測されます。

脳死に対する意識は、「人はいつ死ぬのか」という問いと関わってきます。宗教、文化、国民性・・・様々な影響を受けます。もちろん、正解などはありません。

この記事の意図は、日本の臓器移植が増えないことを問題視することではありません。もう少し上流に、日本が抱える問題の一つがあることを指摘することを意図しています。その「上流にある問題」について説明します。

下の図は、「脳死は“ヒトの死”の妥当な診断基準という考え方がありますが、あなたはこれについてどう思いますか?」という問いに対する回答を国別に示したものです。

 

図5

出典:文献(3)

日本は、欧米諸国に比べ「妥当」と回答した人の割合が低いのです。そしてもう一点注目すべきは、「脳死がわからない」と答えた人が他国に比べて多い点です。

次に2013年の内閣府の調査結果を示します。「家族や親しい人のうち誰かと臓器提供について話をしたことがありますか?」という問いに対する回答です。

図4

出典:内閣府(臓器移植に関する世論調査)

この結果、臓器提供について話をしたことがある人は、36.5%にとどまっていることがわかりました。

日本の移植数が増えないということを議論する前に、まずはこの国の中で脳死や臓器移植に対する理解を深め、家族内での会話を増やす必要性があるのではないでしょうか?

この点が十分でないことが、日本が抱える問題点の一つといえます。

 

突然迫られる判断

なぜ、何もないときに「脳死」について考える必要があるのでしょうか。それは、脳死が誰にでも、誰の大切な人にでも、突然訪れる可能性があるからです。

日本で行われた脳死判定症例150例の分析結果を示します。まず、臓器提供者の年齢分布です。

提供者年齢分布

 

出典:日本臓器移植ネットワーク

年齢層は幅広く分布しています。20代、30代など比較的若い世代も提供者の中にみられます。

次に、脳死に至った原因の疾患です。

1位 くも膜下出血   60人
2位 蘇生後脳症(一旦心拍が停止した後、心拍が再開したものの、脳の活動は戻らなかったもの)    33人
3位 脳出血    25人
4位 頭部外傷    24人
5位 脳梗塞    6人
6位 脳腫瘍    2人

となっています。蘇生後脳症や脳腫瘍は場合によりますが、原因疾患の多くは、急に起こるものです。例え、その人が前日まで健康であってもその日が来る可能性があります。

そして、入院から脳死とされうる状態の診断までの平均日数は、5.8日でした。これらの結果が示すことは、

家族は、今まで健康だった大切な人が突然倒れるという受け入れがたい状況を前に、わずか6日足らずで臓器提供を行うかどうか究極の問いを突きつけられる」ということです。

 

法改正によって、本人の意思表示がなくても、家族の承認で脳死下臓器移植が可能になりました。家族には選択肢が増えました。これは同時に「選択を迫られるようになった」ともいえます。明確な意思表示がなかった場合など、家族は答えのない問いに悩まされます。

大切な人を失う人がいます。そして、その人の臓器移植によって、誰かの大切な人が救われます。その環の中に、声なき人の声があります。その声を聞くことは、予想を越えて困難なはずです。

まずは、家族の中で「脳死・臓器移植」に関する会話を持つことから始めませんか。

 

[参考文献]
(1)内閣府大臣官房政府広報室, 2013, 「臓器移植に関する世論調査」, 内閣府ホームページ, (2014年9月11日取得, http://www8.cao.go.jp/survey/h25/h25-zouki/).
(2)公益社団法人日本臓器移植ネットワーク, 2014, 日本臓器移植ネットワークホームページ, (2014年9月11日取得, http://www.jotnw.or.jp).
(3) 峯村芳樹ら,2010,「生命観の国際比較からみた臓器移植・脳死に関するわが国の課題の検討」『保険医療科学』59(3):304-312.
(4) Aric Bendorf, et al. “An International Comparison of the Effect of Policy Shifts to Organ Donation following Cardiocirculatory Death (DCD) on Donation Rates after Brain Death (DBD) and Transplantation Rates,”PLOS ONE, 8(5): 1-7.

Photo by Allan Ajifo

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