シリーズ「耐性菌との終わりなき戦い②」なぜ耐性菌は増えているのか?

【読了時間:約 7分

「風邪を引いたけれど、すぐ治したいから抗生剤が欲しい」

「熱が出ても抗生剤をくれない医者には行かない」

そのように考えている方は意外と多いのではないでしょうか?

抗生剤は、一般的に風邪には効果がありません。そして、不要な抗生剤を使用すればするほど、耐性菌が増えてしまいます。

耐性菌とは、最初はある抗生剤が効果的であった細菌が、抗生剤を使用していくなかで、その抗生剤に対して「耐性」を獲得し、抗生剤が効かない細菌に変化したものをいいます。

この個人レベルでの抗生剤適正使用認識の重要性に関しては、「耐性菌との終わりなき戦い①」の記事の中で紹介させていただきました。

今回は、シリーズ第二弾です。なぜ耐性菌が増えているのか? その社会的背景について紹介したいと思います。

 

食べ物と耐性菌

Antibiotics-for-agriculture

 出典:Microbe Wiki

不必要な抗生剤の使用が、耐性菌の増加を加速させます。

①の記事では、人間に対する適正抗生剤使用について触れましたが、じつは畜産業界の関与も大きいといわれています。

上の図のように、「家畜が感染症にならないように抗生剤が使用され、その家畜の中で耐性菌が生まれ、その肉を食べた人間にも耐性菌が移行する」というしくみです。

食肉の安定供給のために、抗生剤が大量に使用されています。

名称未設定出典:文献2

上の図は、先進諸国の中で畜産業界における抗生剤使用が最も多い国といわれているアメリカにおけるデータです。

人間に使用される抗生剤の約6倍が、家畜に使用されていると指摘されています。(この量について、正確な数字はわかっていません。しかし、相当量が使用されていることは確かであるといわれています。)

程度の差はあると思いますが、日本でもこの状況は変わりません。

問題は、グラフ中にもあるように“治療目的以外の”抗生剤使用が、多いという点です。

本来、細菌による感染症の治療に使用する抗生剤が、畜産業界においては予防的に投与されることが多いのです。(家畜の成長促進を目的として使用されることもあります。)

家畜を感染症から守ることは確かに重要なことかもしれません。

しかし、家畜に対して予防的に使用された抗生剤によって、耐性菌が生まれ、それが人間に伝播し、感染症の治療を困難にしているとすれば、それは問題です。

このことを受け、ヨーロッパ諸国やアメリカ、日本では、特定の抗生剤を家畜に使用しないようにする対策がとられています。(文献3)

新興国と耐性菌

もう一点、耐性菌に関わる話題をご紹介します。

lancet

出典:文献4

この世界地図は、2000年から2010年にかけての抗生剤使用量の増減を国別に示したものです。

青系の色は、使用量が減少していることを示しています。北米、ヨーロッパ、日本など少しずつ抗生剤適正使用の意識ができている地域では青色が目立ちます。

他方、赤系の色は、使用量が増加していることを示しています。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれる近年経済成長が著しい新興国での増加が目立っています。

2000年から2010年の10年間で世界的に抗生剤の使用量は増えました。そのうち実に76%はBRICS地域での増加が関与しているとされています。(文献4)

これらの地域(特にインド)では、以下の理由で抗生剤の使用量が増加しています。

・抗生剤を処方することにより、医者や病院側の利益につながるため処方が増えてしまっている

・規制が緩いため、薬局でも簡単に抗生剤を購入できる

そして、感染症を減らすために、まず衛生の改善や予防接種の普及など優先事項があるにも関わらず、それらが十分に行われない中で抗生剤の使用が増加している背景があります。

このまま不必要な抗生剤の使用がBRICSを含め世界各地で増えてしまえば、耐性菌の増加は避けられないとして、その適正使用に向けた対策の必要性が叫ばれています。

耐性菌は国境を超える

耐性菌は国境を越えます。

「ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ 1 (NDM-1)産生多剤耐性菌」という多剤耐性菌(複数の抗生剤が効かない耐性菌)があります。

この多剤耐性菌は、カルバペネムという切り札的な抗生剤も含めほとんどの抗生剤が効かない、非常にやっかいな耐性菌のグループです。

日本でも数人の患者から検出されています。(海外渡航歴のない人も含む)

この耐性菌は、“ニューデリー”という名前の通り、インドに関係があります。インドのニュ ーデリー市内で医療行為を受けたスウェーデン人からスウェーデンに帰国後にこの耐性菌が検出され、その存在が明らかになりました。その後の報告でインド、パキスタン、バングラディッシュでこの耐性菌が蔓延している可能性が指摘されています。(文献1)

イギリス、ベルギー、フランス、オランダ、スウェーデン、アメリカ、カナダ、オーストラリア、香港などからも既に検出の報告があります。

新興国での抗生剤の濫用が生み出した多剤耐性菌が国境を越えて持ち込まれ、先進国の中で拡散するという事態が起きているのです。

 

以上、今回は耐性菌が増加している社会的背景について畜産業界の関与新興国での抗生剤の濫用という2点に関して紹介しました。

耐性菌問題は、個人の抗生剤適正使用への認識はもちろんのこと、社会全体、ひいては地球規模で考えなくてはならない“目には見えない”大きな問題なのです。

 

次回は最終回です。これからの耐性菌対策について説明したいと思います。

 

[参考文献]
1: Kumarasamy KK, et al. 2010, “Emergence of a new antibiotic resistance mechanism in India, Pakistan, and the UK: a molecular, biological, and epidemiological study,” Lancet Infect Dis, 10(9): 597-602.
2: Mellon M, et al. 2001, “Hogging it: Estimates of antimicrobial abuse in livestock”  Union of Concerned Scientists, Cambridge, MA, USA.
3: Sharon Levy, 2014, “Reduced Antibiotic Use in Livestock Environmental Health Perspectives,” EHP, 122(6): A160-165.
4: Thomas P Van Boeckel, et al. 2014, “Global antibiotic consumption 2000 to 2010: an analysis of national pharmaceutical sales data,” Lancet Infect Dis, 14: 742–50.

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