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住宅メーカの動画で話題になった「家事ハラ」

ヘーベルハウスの「共働き家族研究所」が公開した「妻の家事ハラ白書」という映像があります。問題は、この動画に抗議が殺到したことから始まりました。以下はその動画です。

 

そもそも「家事ハラスメント」の定義とは?

動画はユーモラスで、これだけでは何が問題なのか見えてきません。

実はこの言葉を最初に定義したのは、和光大学教授の竹信三恵子さんです。竹信さんは2013年出版の『家事労働ハラスメント』で、この言葉を初めて使いました。

日本社会では、家事労働は無視され、時に蔑視され、これを担った人々は(男女に関わらず)、十分に外で働けないため、経済力や発言力を奪われがちな状態が続いています。これが、『家事労働ハラスメント』です。

引用元:岩波新書HP(太字はライター注)

 

具体的な「家事ハラ」の例

竹信さんは具体的な例をあげています。以下は中堅企業の技術者だった松田さんの場合です。

「育児休業法が試行された一九九二年に長男が誕生、共働きの公務員の妻が育児休業を取った。それなら保育所の送り迎えは自分が、と決意した。」

引用元:『家事労働ハラスメント』P. 130

「送り迎えのために育児時間を取らせてほしい」と頼み込んだ松田さんに、部長は「そんなに仕事が暇なのか」と言い放った。なおも談判し、賃金カットつきの一時間半の短縮勤務を認めてもらった。だが、同僚からは「妻の尻に敷かれている」と陰口をたたかれ、保育所のお迎えに行かねばならない夕方五時から、意図的に会議を始めるいじわるまで出てきた。絵に描いたような「家事労働ハラスメント」だ。」

引用元:同, p131

このように家事や育児、介護などに関わる人が職場などでイジメなどの差別を受ける、それを「家事労働ハラスメント」と定義しています。ここでは、女性ではなく男性が会社から嫌がらせをされていることを例に挙げています。竹信さんは、女性だけでなく、男性や若者にまでこうしたハラスメント(=差別)が広がっていることを危惧しています。

 

家事・育児・介護などへ関わる人への差別

日本の会社は、このような家事や育児や介護にかかわる人間の身分を下に見ており、国も法で守ろうとはしてきませんでした。

1985年に制定された「男女雇用機会均等法」ですが、性差別や年齢差別がいまだにはびこっているのが日本です。有名なのは歯科衛生士です。年収ラボによると、2013年の統計では100%が女性。こうした現状では、歯科衛生士になりたいという男性が勉強しても仕事を探すのはとても難しいです。また、ホームヘルパーという業種では女性が76.7%を占めます。しかし平均年収が289万円と極端に低いため、結婚して家庭を築きたい男性は「寿退社」していくしかないのが介護業界の大きな問題の一つとなっています。

前述の「均等法」は1999年に改正され、女性に対する深夜労働・残業や休日労働の制限(女子保護規定)が撤廃されました。ところが今度は、女性が夜通し休む暇もなく16時間以上の勤務及び残業をし、賃金も安く、妊娠することさえ難しいような時代が来てしまいました。

アメリカでは1967年に「雇用における年齢差別禁止法」が成立したため、履歴書には差別につながる年齢、性別、国籍、顔写真等を載せません。逆に中国では、国籍、民族、宗教、共産党員か等の記入欄があり、共産党員であれば優遇されます。

アメリカに遅れること40年、日本では2007年に雇用対策法が改正され、募集・雇用における年齢差別が禁止されました。ところが、この法的義務を知らない雇用者や経営者も多く、例外があるためにいくらでも言い訳のできるため「ザル法」と言われています。求人広告にはいまだに「女性活躍の職場」=「男性不可」や、「20~30代の方が活躍中」=「40代以降お断り」という暗黙の了解など、法律に触れないようなかたちの「人権侵害」=「差別」が後を絶ちません。

7月に放映された村上龍さん原作のNHKドラマ『55歳からのハローライフ』では、尾形イッセーさん演じる出版社をリストラされた中年男性が、体力的にも厳しくない「一般事務」の仕事を探します。ところが「一般事務」は、日本では女性の現場。ドラマ冒頭で、ハローワークで事務の仕事を探しますが、何度も断られ、結局肉体的に厳しい労働を始めるシーンが出てきます(反響が大きく、2014年10月18日深夜〜ドラマの再々放送があります)。

また2012年に発表された自民党の憲法改正案の第24条には、「家族は互いに助け合わなければならない」と追記されました。これは現状の日本で家事・育児、介護などを担っているのは主に女性であり、国民の最低限の人間らしい生活を保障するのは国ではなく、女性にすべてを押し付けるのか!と激しく批判されました。

ちょうどアメリカと中国の中間に位置する日本は、男女年齢関係なくできる仕事であるにも関わらず差別が存在する社会なのです。

 

日本の女性の地位は105位

こうしたなか、内閣府の男女共同参画局では、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を紹介しました。日本は136カ国中なんと105位です。「日本が優位な妊産婦死亡率などの指標が評価された結果」と内閣府のコメントが添えられていますが、医療の指標がなければもっと低かったわけです。

ジェンダー・ギャップ指数(2013)主な国の順位

(グラフ:内閣府男女共同参画局より)

また国税庁の2012年発表の民間給与実態統計調査では、働く男性の10%の年収200万円以下に対し、働く女性の43.5%が年収200万円以下です。これもまさに性による給与差別であり人権侵害であり、こうした社会こそ「家事ハラ」の結果であると言えます。

実際、この調査では年収が200万円以下の人数が1090万人を超えており、所得格差も進んでいます。まじめに働いてさえいれば、食べていける時代ではなくなってきているところに、男女差別が追い討ちをかけます。

 

家事ハラを越えた社会へ

「家事ハラ」という言葉は、女性差別というセクハラであり、また男性優位の社会におけるパワハラ(権力による嫌がらせ)であり、道徳的に「家事・育児・介護・低賃金労働はぜんぶ女性にしてもらう」という道徳が唯一正しいのだ、というモラルハラスメントを総合的に表現した言葉といってよいでしょう。

いずれにしても、日本は多くの人が家事労働はたとえ共働きでも女性がすべきことであり、男性は「手伝う」立場でよい、という偏見に満ちた社会であることを物語っています。

「家事ハラ」の定義に関しては、衝突してしまったヘーベルハウスですが、実はよりよい夫婦関係のために家族で料理を作れるようなキッチンを提案しています。これは、一級建築士の男女比で男性が93.6%を占める日本では、非常に画期的です。

つまり、今までの日本の建築は男性目線で作られており、キッチンには「主婦」一人が立てれば良い、という設計がほとんどだったわけです。これからは夫婦仲良くキッチンに立ち、家族や友人みんなで楽しく食事を楽しめる暮らしを作っていこうという点では、竹信さんの願いとも一致するはずです。

残念なことに、このような偏見やイジメに満たされ、家事労働をきちんと評価できない法制度や、経済的構造は今も続いています。それを根本から考え直し、誰もが幸せに生きていける社会を願って、竹信さんが渾身の力で定義したもの、それが「家事労働ハラスメント」なのです。

[参考文献]
伊勢崎馨,2014,「旭化成、三菱電機、ライオン…“家事ハラ”アンケートに騙されるな」,リテラ,(2014年8月22日取得,http://lite-ra.com/2014/08/post-375.html)
厚生労働省,2007,「募集・採用における年齢制限禁止について」,厚生労働省,(2014年10月14日取得,http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/08/tp0831-1.html)
小林美希,2010,「介護業界で“男の寿退社”が相次ぐワケ」,日経ビジネスオンライン,(2014年10月14日取得,http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100326/213634/)
自由民主党,2012,「日本国憲法改正草案」,自民党HP,(2014年8月20日取得,http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf).
共働き家族研究所,2014,「妻の家事ハラ白書」,旭化成HP,(2014年8月10日取得,http://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/kajihara/)
内閣府男女共同参画局,2013,「『共同参画』2013年12月号」,内閣府男女共同参画局HP,(2014年8月20日取得,http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2013/201312/201312_06.html).
年収ラボ,2013,「平成25年 歯科衛生士の平均年収」等,年収ラボ,(2014年10月14日取得,http://nensyu-labo.com/sikaku_sika_eiseisi.htm).
湯浅誠,2008,『反貧困――「すべり台社会」からの脱出』岩波新書.
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