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まず初めに、ヘイトスピーチの定義を説明する。

ヘイトスピーチ(Hate Speech)とは、人種・宗教・性的志向・性別などの要素に起因する「hate(憎悪・嫌悪)」を表す表現行為を指す語であり、いわゆる「差別用語」に加え、偏見や憎悪に満ちた文章・発言のことを指す。

引用元:小谷順子「Hate Speech規制をめぐる憲法論の展開―1970年代までのアメリカにおける議論」『静岡大学法政研究』第14巻1号(2009)

さらにこのヘイトスピーチは人種差別撤廃条約4条において、差別思想の喧伝を禁止する法律を制定するよう加盟国に義務づけている。

20世紀の半ば以降、過激な人種差別思想の台頭に直面した国々は、これを深刻な事態として受け止めた。そして、こうした差別思想にもとづく憎悪表現を規制すべく、人種差別撤廃条約4条において、差別思想の喧伝を禁止する法律を制定するよう加盟国に義務づけた。 現在、イギリス、フランス、ドイツ、カナダなどでは、この条文を履行すべく憎悪表現を規制する法律を設けている。一方、アメリカは、表現の自由の保障を最大限に保障しようとする判例法を背景に、第4条に留保を付して表現規制を回避するかたちで条約本体に加入しており、現在も憎悪表現を規制する立法は行っていない。アメリカ同様、日本も同条に留保を付して加入しており、憎悪表現を規制する立法を行っていない。

引用元:憎悪表現(ヘイト・スピーチ)の規制の合憲性をめぐる議論 小谷順子 / 憲法学|SYNODOS

 

ヘイトスピーチの原因

このようなヘイトスピーチの原因を断定することはできないが、ヘイトスピーチがネガティブな意識に起因していることは確かだ。そのような意識はいくつかの概念によって説明する事ができる。

  • エスノセントリズム

これは日本語で自民族中心主義、自文化中心主義と訳される。言葉通り、自分たちの保持している文化が他国の文化より優れているという考え方であり、このエスノセントリズムは自分たちの文化は全ての現実において中心に位置しているという仮定の基、成立している。エスノセントリズムを定義したウィリアム・グラハム・サムナーは著書「Folkways」のなかで以下のように述べている。

各集団はそれぞれ固有の自尊心や自負心をもち、自己を優れたものとして誇り、その神性を称揚し、よそものを軽蔑の眼で眺める。それぞれの集団が自集団のフォークウェイズのみが正しいものと考え、もし他集団が違ったフォークウェイズをもつ場合は蔑みの感情を起こさせる。(フォークウェイズとは集団の共有する観衆・習俗を示す言葉である。)(文献1)

  • 素朴実在論 (Naïve Realism)

我々は普段、世界には我々の知覚や思考から独立した対象があり、我々の感覚的経験はその対象についてのものであると考えている。たとえば、今私が窓の外の木を見ているとしたら、私の経験は私の心から独立した現実に存在する外的な対象である木についてのものであり、私はその木に直接気づいていると考えている。ここでは、このように、我々の経験は心から独立した対象についてのものであり、我々はそれに直接気づくことができると考える立場を素朴実在論と呼ぶ。

引用元:素朴実在論、幻覚、選言説 横山幹子(Mikiko Yokoyama)

  • ステレオタイピング

ステレオタイピングは上記の二つに比べて聞き覚えがあるのではないか。エスノセントリズムはステレオタイピングと供に語られる事がよくある。このステレオタイピングは自分の文化以外の文化圏の人々を不公平に、集団的に、ネガティブにカテゴライズする強い傾向を持つ。

この概括は文化圏の全ての個人に適用される。(在日朝鮮人は全員悪いやつだ。)そしてこの概括はある事件や経験、人によって定義される。(在日朝鮮人は全員悪いやつだ。なぜならあのような殺人事件を起こしてしまうから。)

ステレオタイピングはネガティブな感情だけではなく、ポジティブな感情も含まれている。しかしながらたいていのステレオタイプは人種、宗教、民族起源、国籍、性別、社会経済的ステータスなどに基ついていることが多い。

ステレオタイピングを定義したアメリカのジャーナリスト、ウォルター・リップマンは以下のように述べている。

事件そのものと思い込んで語っているものが、実はその事件の変形であったりすることが非常に多い。意識の中にある事実が、与えられた事実そのままである場合はごく少ないように思われる。意識の中にあるほとんどの事実は、部分的に潤色されているように思われる。

私たちは見てから定義しないで、定義してから見る。(文献2)

これらがヘイトスピーチ、クライムを起こす全ての要因と断言することはできないが、対象についてネガティブな意識を構成するプロセスのなかで少なからず影響を及ぼしている。

 

認識が悪を生み出す

2001年のアメリカ同時多発テロの直後、イスラム教徒たちのアメリカ国内でヘイトクライムの被害者数は前年と比べて160倍に上昇したと言われている。

参考:2001 FBI Hate Crime Statistics Act (HCSA)

全イスラム教徒がテロを起こすわけではないとわかっていても、このデータから事件の前後でアメリカ人のイスラム教徒への認識は大きく変化している。このテロ事件は、一部のイスラム教徒によって行われた。

しかしながら、イスラム教徒基本的な理念として(それが予期せぬことであっても)自殺行為は禁止されている。(文献3)つまりこの事件を起こしたは一般的なイスラム教徒であるとは言えないはずだ。このヘイトクライムの上昇は集団を一部の個人(過激派)によってネガティブに定義した結果であるように思える。

 

[参考文献]

1:Sumner, W., & Keller, A. (1940). Folkways; a study of the sociological importance of usages, manners, customs, mores, and morals, by William Graham Sumner … with a special introduction by William Lyon Phelps. Boston, New York [etc.] Ginn and Company [c1940].
2:Lippmann, W. (1997). Public opinion / Walter Lippmann. New York : Free Press Paperbacks, 1997.
3:Iftikhar, A. (2011). Islamic pacifism: Global Muslims in the post-Osama era. Lexington, KY: [Arsalan T. Iftikhar?].

Photo by 週刊金曜日ニュース

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