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インタビュー企画の第5回として、日本学術振興会特別研究員PDでいらっしゃり、新宿歌舞伎町のフィールドワークを通じて地域社会の論じ方を研究されている社会学者の武岡暢さんにお話を伺ってきました。

前編では武岡さんが主張される地域社会の論じ方について主にお話を伺いました。今回お届けする後編では実際のフィールドワークの内容と、それらの研究を通じて見えてきた歌舞伎町という町の性格についてお話を伺いました。

(>>前編はこちらから)

歌舞伎町のストリート

武岡  お店の次には歌舞伎町の通り(ストリート)にいる人たちを調査しました。具体的に言うといわゆるキャッチやスカウトの人たちですね。それぞれ1名ずつのキャッチとスカウトにインタビューしたほか、ストリートの活動に関しては普通に通りに立っていれば見ることができるので、街頭に立って知り合いの人と立ち話をしながら客引きしている様子とかスカウトをしている様子とかを見ているということをそれぞれ20時間ほど行いました。

山崎 素朴な疑問なのですが、武岡さんがインタビューされた風俗店の従業員や経営者の方々は、一般的に「怖い世界の人たち」という印象があります。彼らをインタビューすることは簡単ではなさそうだと思ったのですが、どのようにお願いしたのでしょうか?

武岡 それは全部人づてですね。インタビューした人にまたさらに紹介してもらうというかたちでした。あと、インタビューを受けてくださった方々はあまり怖くはなかったですね。インタビューを続けていく中で怖い目にあったこともなかったですし。もちろんストリート調査をしているときに、興奮しているというか酩酊しているような人がこちら近寄ってきたりしたようなことはありましたが(笑)

キャバクラに関しては昔からキャバレーの組合がありまして、そこがさきほど話した商店街振興組合とつながりがあったので簡単に紹介していただけました。ホストクラブも同様ですね。あとは、調査をする中で知り合ったキャバ嬢に知り合いのホストを紹介していただいたりとか。

そうやって紹介していただくとインタビューはうまくいくことが多いのですが、やはり突撃取材というのはうまくいかないですね。何回か試みたのですが、「なんだこいつ」と警戒されてしまいます。

ヘルス、ソープに関しても実は組合が有るのですが、そこが非常にコンプライアンスを重視していまして、社会貢献として車いすを寄付したりとかしている。それでもやはり「自分たちは日陰者だ」という控えめな意識もあったりするのですが、歌舞伎町商店街振興組合とのツテでインタビューをお願いしたところ、よろこんで協力してくださいました。そのツテができるまでも色んな方面から取材を試みていたのですが、とても難しかったですね。 デリヘルに関してはインタビューに協力してくださったスカウトの人に紹介していただきました。

ほぼ全部人の紹介などで、総勢50から60人ほどにインタビューしました。決して数が多いわけではないので、そこは問題といえば問題です。

山崎  フィールドワークを進める中で、もともと歌舞伎町について持っていたイメージとのズレを感じたり、意外に思ったことはありましたか?

武岡  ホストクラブやキャバクラが肉体労働だというのはちょっと意外でしたね。ホストクラブでは1週間くらい皿洗いをしたので色々な面が見えたのですが、とにかくホストはお酒を飲まないといけないんです。彼らとご飯に行った時に「あんなに毎日お酒を飲まないといけなくて大変ですね」と話したら「いや、もう下痢しない日はないよ(笑)」と言っていました。それだけお酒を飲むのですが、かえって彼らはアル中にはならないそうです。お酒を飲むのが嫌になっちゃうから(笑) ホストクラブではシャンパンのオーダーが入るとホスト全員で一気飲みをするのですが、あるホストが別のホストに「あいつは飲んでないじゃん。なんで俺ばっかり飲まなきゃいけないんだ」と不満を持つというような場面も実際に何度か目撃しました。

僕はホストクラブやキャバクラは客とのコミュニケーションが主な仕事である職場だと思っていたのですが、実際には飲酒という肉体労働を分担する職場という面も強くて、それが意外でした。もちろん飲めなくても売れているホストもいるんですけどね。

インタビューをやっていてつらかったのは、相手に対して感じる申し訳なさと折り合いをつけることでしたね。僕のインタビューを受けても相手には何のメリットも生じませんし、働く時間を割いてもらうのは心苦しかった。しかも調査にまつわる「権力性」といったような観点からは、僕のほうがエスタブリッシュトな立場にいて、彼らはアンダークラス的な、あるいはスティグマ化された立場にいるわけです。そういう立場で自分の研究のために彼らの時間を奪うのはすごく傲慢なことだとも感じていました。

歌舞伎町の持つ不透明性

山崎  すこし話題が変わりますが、先ほど武岡さんは都市における人々の「活動」や「場の構造」に注目して分析を行うとおっしゃっていましたね。歌舞伎町の「場の構造」という言葉が指しているものについて、もう少し詳しくお話をしていただけますか?

武岡  「場の構造」というのは若干ふわっとした言い方なのですが、もうちょっと具体的に言うと建造物の構造とか空間特性を含めた、人びとの行為や関係性、意味づけみたいなものを成り立たせている文脈や背景ですね。歌舞伎町で言えば雑居ビルが特におもしろいです。

雑居ビルという建造物は歌舞伎町という場に4つの特徴を与えています。

まず1つは「整序されていない」という点です。これは、秩序ある形で整理されていないということです。2つ目は「流動性」です。ひとつのビルの中や特定の店舗の中でも、店や従業員の移り変わりが激しいということです。次は「細分性」です。雑居ビルは建物自体も縦に細長く小規模なのですが、ワンフロアがとても細かく区切られているんです。この細かさが建物内の様子を把握しづらくしています。最後に「集積性」です。これまで言った「整序されていなくて、流動的で、細かく区切られたもの」が大量に集積しているということです。

この4つが歌舞伎町の場の構造としては重要です。この場の構造が人々に対してどう現れてくるかというと、「不透明でよく分からない町」というイメージとして現れてきます。たとえば、歌舞伎町の飲食店に対して保健所が査察を行う際には、あらかじめ警察に対して査察先や査察の日時や届け出を出していると、新宿区のある報告書に書かれています。こんなことをするのは歌舞伎町だけなんですが、なぜこんなことをするかというと、「職員の安全に万全を期すため」だそうなんです(笑) この背景には言うまでもなく「歌舞伎町は危険だ」というイメージがある。このイメージは雑居ビルが集積した透明性の低い都市空間と密接に関係しています。

また、雑居ビルが不透明であることがそれと対比されるストリートの開放感やパブリックスペースという側面を強調しています。このことがストリートにおける客引きやキャッチの活動が持つ意義につながっています。つまり、店舗空間が閉鎖的で不透明だからこそ、キャッチに対する「お客さんを連れてきて欲しい/店を紹介して欲しい」というニーズが生まれるし、スカウトに対する「自分の望む労働条件にマッチする店を紹介して欲しい」というニーズが生まれるんです。

歌舞伎町の今後を左右するもの

山崎  歌舞伎町の地権者たちは、そのような歌舞伎町の危険なイメージが地域の経済に対して悪影響を与えることを懸念する一方で、地域経済自体が雑居ビルで営業されている風俗産業に依存しているため、風俗産業にアンビバレントな気持ちを抱いているという話ですよね。[1]2020年の東京オリンピックに向けて東京の再整備が進んでいくと思われますが、歌舞伎町の「場の構造」は変化していくと思いますか?

武岡  未来を予測するのは難しいのですが、今後歌舞伎町が変化しないとは言い切れません。僕も「なぜ歌舞伎町は滅びないのか」という形で問いを立てて論文を書いたのですが、結論としては、歌舞伎町の衰亡を妨げる何らかの絶対不変の構造があるということではなく、歴史的な偶然も含めて現在のバランスが出来上がってきたのだと考えています。

歌舞伎町のバランスに大きな影響を与える要因としてはたとえば都政の方針があります。あとは、警視総監や新宿署の署長など警察の人事がどうなるかということや、暴力団の動きも影響を与えますね。歌舞伎町商店街振興組合のような草の根組織の活動も無視できない。ただ、これらの要因がどう変化するかというのは予想が難しいです。

また別の位相の要因としては、キャバクラや性風俗が今後流行らなくなっていくという可能性があります。現在の性風俗は全般的に無店舗型の営業が増えていく一方です。これに関連して重要なのは歌舞伎町の建物の老朽化ですね。歌舞伎町ではビルが取り壊されてずっとそのままにされている土地も有りますし、建物を更新すると既存の店舗型の性風俗は全滅です。というのも、建物を新しく作ると性風俗店は行政に営業届けを出さなければいけないのですが、現在の歌舞伎町ではその届け出はもう受理されないんです。

ただまあ、歌舞伎町の今後に関しては本当にわからないですね…ロボットレストランみたいな面白い店もできたりしてますし(笑)

山崎  ロボットレストランも元々風俗店を経営していた人たちが営業しているんでしょうか?

武岡  そうですね、ガールズバーだと聞いています。なぜロボットレストランの話をしたかというと、ああいう風にどこからともなく歌舞伎町に面白いアイディアを持った人々が現れて、新しい形のビジネスを始めるということが今までもあったし、これからもあるだろうという気がするからなんですね。たとえばクラブ愛っていう有名なホストクラブがありますが、あの店が開店した当時はホストクラブなんてまだまだ珍しい存在だった。それがいつの間にかホストブームが起きて、歌舞伎町にはホストクラブが増えた。この現象も後から考えれば、「女性の社会進出と結びついてるのだ」とか言えるのですが、営業が開始された時点ではこんなことは予測できないですからね。予測できたにしても、当たらないこともあり得えた予言が、たまたま当たったという程度のことでしょう。

歓楽街があればそこにやってくる客というのはなかなか途切れないもので、新しいものを作ったらそこにも客は来てくれる。で、そのビジネスが当たればそれを真似する人が続々と出てくる。そういうことに関してはわりとはしたないというか(笑)、誰にも遠慮せずにガンガンやっちゃうというのが歓楽街の特質だと思いますね。風俗産業に労働力が供給され続けて、その利用者がいる限りは、業態を変えながらも風俗産業のサービスは再生産されつづけていくでしょう。

[1] 武岡暢、 客引きとスカウトは何故いなくならないのか : 歓楽街のストリートにおける法と経済(グローバル都市研究  6 25-40   2013,3) 参照

 

武岡暢(たけおか とおる) 東京都出身。東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員PD(2013年4月〜)。立正大学非常勤講師。2010年度『ソシオロゴス』代表。専攻は社会学、とりわけ歌舞伎町でのフィールドワークに基づいた歓楽街の都市社会学。

武岡暢(たけおか とおる)
東京都出身。東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員PD(2013年4月〜)。立正大学非常勤講師。2010年度『ソシオロゴス』代表。専攻は社会学、とりわけ歌舞伎町でのフィールドワークに基づいた歓楽街の都市社会学。

 

 

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