インフルエンザはなぜ毎年流行る?大流行を引き起こす2つのモデルチェンジ 布施田泰之 2014/11/04 ピックアップ, 社会 【読了時間:約 10分】 また今年もインフルエンザがやってきます。 むかしむかし、ヒポクラテスの時代からインフルエンザはヒトを苦しめてきました。村中の人が一斉に咳や鼻水を訴えるが数か月もすれば過ぎ去っていく、その謎の感染症をその頃の人々は星の影響(influence)だ」と考えていました。これが「インフルエンザ(influenza)」の語源です。 では、 「なぜ毎年インフルエンザは流行るのか?」 「なぜ毎年インフルエンザワクチンを打たないといけないのか?」 「なぜ時折、豚インフルエンザや鳥インフルエンザなどの大流行が騒ぎになるのか?」 星の仕業と言わず「インフルエンザウイルス」を科学していきましょう。 この記事を読み終わったころには、これらの友達の疑問に答えられるようになるはずです。 インフルエンザウイルスの外見 (出典:Flickr) インフルエンザウイルスを模式化したものが上の図になります。インフルエンザウイルスは厳密にはA型、B型、C型の3種類がありますが、今回の記事で取り上げるのは流行するインフルエンザの主たる原因であるA型インフルエンザウイルスについてです。図もA型のものになります。 ここで大事なのは、「Ⅰ.表面にHAとNAという2種類のトゲトゲがあること」そして「Ⅱ.ウイルスの遺伝情報が8つに分けられて保存されていること」です。覚えておいてください。そして、これから説明するのはインフルエンザウイルスの2つのモデルチェンジ「小変異(抗原ドリフト)」と「大変異(抗原シフト)」についてです。 「小変異(抗原ドリフト)」は、インフルエンザウイルスに常に起こっている変異で、毎年のインフルエンザの流行の原因となります。 「大変異(抗原シフト)」は、数十年に一回起こる大きな変異で、新型インフルエンザの世界的大流行の原因となります。 インフルエンザウイルスの変異の流れについて、下図にまとめてみました。 (出典:著者作) インフルエンザウイルスは常に小変異を繰り返していて、時折大変異を起こす、といったイメージです。では、2つのモデルチェンジについて1つずつ詳しく見ていきます。 1つ目のモデルチェンジ「小変異(抗原ドリフト)」とは? 毎年のインフルエンザの流行をもたらす「小変異(抗原ドリフト)」とは、いったいどうやって起こるのでしょうか?それを知るためにはまず、インフルエンザウイルスの表面にあるトゲトゲ(抗原)について知らなければなりません。 インフルエンザウイルスの表面にある2つのトゲトゲHAとNAは、インフルエンザウイルスが感染する時に必要となるものです。HAというトゲは細胞内に侵入する時に必要となり、NAというトゲは増えて細胞内から出ていく時に使われます。 このHAやNAといったウイルスの表面にあり、抗体がウイルスを認識して無害化するために標的となるものを「抗原」と言います。そして、このHAとNAというトゲトゲ(抗原)に対する抗体さえ作ることが出来れば、理論上インフルエンザウイルスの感染は防げるのです。 しかし、この人間側のもくろみは失敗に終わります。なぜなら「インフルエンザウイルスのトゲトゲ(抗原)は刻一刻と特徴を変える」からです。このことを「小変異(抗原ドリフト)」と言います。 小変異(抗原ドリフト)はなぜ起こる? この記事ではもう一歩踏み込みます。 では、「なぜトゲトゲ(抗原)が変わっていってしまうのか?」つまり「なぜ小変異(抗原ドリフト)が起こるのか?」ということです。 まず1つ目の理由は「インフルエンザウイルスの遺伝情報を担当している物質が、DNAではなくRNAだ」という点にあります。 ヒトの遺伝情報は、ご存じのとおりDNAによって担当されています。RNAでは、DNAに比べて10万倍も遺伝子の読み間違いが起こり、これを変異と呼びます。インフルエンザウイルスはヒトの10万倍もの確率で変異が起こっているのです。それだけでは、ありません。 2つ目の理由として「1個のインフルエンザウイルスは一日で100万個以上に増殖する」という点が挙げられます。つまり、変異が起こる確率だけでなく、個体として変異が起こるチャンスも天文学的数字でヒトより多いのです。 この莫大な変異する確率と膨大な変異のチャンスにより、インフルエンザウイルスは驚異のスピードで変異していくのです。 この変異スピードが、過去に人間が作った抗体の大部分を無効化して、毎年インフルエンザの流行を起こします。また、この変異スピードのせいでインフルエンザワクチンは毎年作り直す必要があります。 その上、ワクチンを製品化するタイムラグの間に変異してしまうためそのことまで予想してワクチンを作らざる得ず、その予想が外れるとワクチンの効果が低くなるといったことが起こるのです。 次のページへ>>2つめのモデルチェンジ「大変異(抗原シフト)」とは? 【おすすめの記事】一日2時間睡眠でも大丈夫!? ハイテクなアイマスク「Neuro:On」とレム睡眠の科学命をかけて戦う人々、国境なき医師団の活動から見る流行地の実情【エボラ出血熱】流行間近!インフルエンザワクチンは打つべき?わずか6日で家族との別れを決断、想像できますか?【脳死・臓器移植】 Credoをフォローする @credo_mediaさんをフォロー Facebookでシェア Twitterでシェア LINEで送る はてなブックマーク