知らずに使っていませんか?「尊厳死」という言葉の意味

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脳腫瘍を患い、29歳という年齢で尊厳死を選択したアメリカ人女性のブリタニー・メイナード(Brittany Maynard)さんの事例がニュースになっています。メイナードさんは、脳腫瘍を患い、余命が短いことを宣告されました。

そして、医師から処方された致死薬を自らの意志で内服し、最期を迎えました。このニュースに関するもう少し詳しい内容については、Credoのこちらの記事を参照してください。

このニュースで使われた「尊厳死」という言葉に皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか?今後日本でも「最期の迎え方」に関する議論が深まることが予想されますので、本記事の中で今一度、その用語の定義を確認したいと思います。

 

尊厳死とは

Death with Dignityの日本語訳を尊厳死といいます。この場合、death(=死)は、死にゆく過程を示し、dignity(=尊厳)は、人間個人の資質に基づくことを示します(文献3)。言い換えると、「自分の意思を持って、その人らしく最期を迎えること」といえます。

このことからわかるように、尊厳死という言葉は「いかなる最期にも適応可能な、目指すべき最期のあり方の理念」ともいえます。そのため、かなり広い意味を持っています。尊厳死の中に、手段の分類として、安楽死、自殺幇助、延命治療の拒否など、様々な最期の迎え方が含まれます。以下の図にイメージを示します。

図1

 (筆者作成)

図中の用語を説明しますと、

安楽死:苦痛から患者を解放するために、意図的・積極的に死を招く医療的措置を講ずること(今回の記事では、簡単のため消極的、間接的、積極的安楽死の区別は用いません)

自殺ほう助:自殺を決心している人に自殺に必要なものを提供すること

延命治療の拒否:末期状態になったとき、命を長らえるためだけに行われる治療を希望しないこと

今回の事例では、メイナードさんは、医師から処方された致死薬を自らの意志で内服し、最期を迎えました。これは自殺ほう助にあたります。

 

Death with Dignity Act(日本語訳:尊厳死法)

今回のメイナードさんの判断は、米国オレゴン州の、Death with Dignity Act(日本語訳:尊厳死法)に基づいて、行われました。

Death with Dignity Actとは、「1997年にオレゴン州で認められた法律で、末期患者が、自ら死を選ぶという患者の目的を認識した上で医師によって処方された致死薬を、患者自らの意思で投与し最期を迎えることを合法化したもの」です(文献1)。

2013年の1年間で、同法に基づいて122人に致死薬が処方され、前年に処方を受けた8人と合わせて71人が実際にそれを内服して最期を迎えています。28人は処方を受けたものの内服はせずに、もとの疾患による最期を迎え、残りの31人は詳細不明となっています(文献2)。米国ワシントン州、バーモント州で同様の法律が定められています。

 

日本と欧米における“尊厳死”

先ほど、尊厳死は最期の迎え方の理念であると説明しました。ここで一つ、注意すべき点があります。日本と欧米では、尊厳死といったときに一般的に連想されるものが違うということです。

日本:末期状態になったとき、患者の自らの意思でこれ以上の延命措置を拒否し、最期を迎えること

欧米:末期状態になったとき、致死薬の処方を受けて、それを患者自ら投与し、自ら最期を迎えること

メイナードさんは、まさにこの「欧米でいう尊厳死」を選択したのです。「日本でいう尊厳死」とは違います。尊厳を持った最期という理念は共有しながらも、自殺ほう助であるか、延命治療の拒否か、手段が違うのです。このイメージの差があるにも関わらず、この分野における用語の整理はあまりなされていません。

現在日本において超党派の議員の中で、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」が提案されています。通称、「尊厳死法案」と呼ばれるものです。

これは、「終末期にある患者が延命措置を望まない意思を明らかにしている場合に、延命措置の不開始または中止をした医師を免責とすることを法律で定めるべき」という内容の法案です。

欧米でいう尊厳死、「尊厳死法」とは別物であるにも関わらず、同じ用語が一般的に用いられているのが現状です。人生の最期のあり方の議論が世間に対して投げかけられている今、言葉の意味を整理しておくことは、大切なことではないでしょうか。

Photo by Youtube

[参考文献]
1: Oregon Health Authority, 2014, “Death with Dignity Act,” Oregon. gov,  (Retrieved November 4, 2014, http://public.health.oregon.gov/ProviderPartnerResources/EvaluationResearch/DeathwithDignityAct/Pages/index.aspx).
2: Oregon Public Health Division. 2014, “2013 DWDA Report.”
3: Peter Allmark. 2002, “Death with dignity,” J Med Ethics, 28: 255–257.

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