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ヤフーが遺伝子検査事業へ参入

11月8日付けの朝刊で朝日新聞は、ヤフーが唾液を使った遺伝子解析のサービスを始めたと報じました。

様々な病気にかかるリスクや、体質に関わる情報を提供するようですが、同社はそれら集めた情報をもとに個人向けの広告を打つことを将来的には考えているようで、既に事業参入を果たしている企業も含め、そういった遺伝子情報の商業的利用については慎重になるべきとする声もあります。

遺伝子検査の話となると、常につきまとう「プライバシーの侵害」・「慎重さが必要」との声。一体なぜなのでしょうか。それは遺伝子がまさしく究極の個人情報だからです。

 

遺伝子が果たす役割

「遺伝子は人体の設計図」と表現されているのを聞いたことがあるかもしれません。これは極めて単純明快な例えです。なぜなら遺伝子に関して「人体の大部分を構成するタンパク質が、遺伝子という設計図をもとに組み立てられている」からです。

実際には遺伝子はDNAという形をとって人間のあらゆる細胞内に、同じものが納められています。そしてその細胞内で設計図が読み取られ、タンパク質を合成するということが体内で起きていることです。

ただタンパク質を作っているだけか、と侮ってはいけません。例えば人間のたくさんの機能をコントロールしている「ホルモン」だってアミノ酸(タンパク質の素)からできています。人間の新陳代謝を司る「酵素」だってタンパク質からできています。およそ人間の体の状態はタンパク質によって左右されているといっても過言ではないでしょう。

しかし時にはその人体の設計図と言われる「遺伝子」にも誤字・脱字が生じます。これが病気として体に現れるのです具体的には、本来作られるべきタンパク質が作れられない状況が起き、これが病気を引き起こしてしまいます。

 

究極の個人情報としての遺伝子

さて、遺伝子がタンパク質を介して人間の体を支配していることはわかりました。そうすると、その設計図である遺伝子を他人に見られることを”気軽”にはするべきではないということがおわかりいただけたと思います。
具体的には、遺伝子情報をもとに「身長・体重などの体つき、太りやすさなどを含むあらゆる身体的特徴」や「様々な病気にかかる確率」、はたまた「その人の性格」などということまで解析できてしまう可能性があります。そうなるとどういった事態が生じうるでしょうか?

経済産業省は「遺伝子検査ビジネス実施事業者の遵守事項」という通達文の中で、遺伝子検査が雇用や保険面での差別を増長させる可能性を示唆しています。つまり、ある人が心臓病にかかるリスクが非常に高いと解析されてしまえば、その人の民間保険料は高くならざるを得ないし、また雇用者としては雇用することに尻込みしてしまうかもしれないということです。

こういった可能性を踏まえて、遺伝子というのは人の肉体的・精神的・社会的脆弱性に関連した情報を含んだ究極の個人情報と表現され得るのでしょう。こういった貴重な個人情報を安易に色々な場所で提供するべきではないというしっかりとした消費者側の危機管理意識がとても重要なのではないかと考えます。

 

遺伝子検査との付き合いかた

やはり情報管理の観点から、遺伝子検査を提供する側もされる側も慎重になる必要があります。遺伝子情報のやりとりによって起こりうる現在予想されている事態としては、上にも述べたように「保険・雇用の面で社会的差別を増長させかねない」ということが挙げられます。

また解析された遺伝子情報を元に、例えば太りやすい人にはダイエット食品のWeb広告、高血圧の人には減塩食品のWeb広告を表示させるといったような戦略を「消費者の健康管理、健康意識の向上のため」といったように一面的に語ってしまうことには注意が必要でしょう。

そしてこれらの遺伝子情報に「遺伝の法則」を適用すれば、血縁者の遺伝子情報までもが予想できることになり、検査を受けてもいない血縁者にもこういった有害事象が起きうるということが問題視されています。

さらには議論されうる最悪の事態として、「遺伝子情報によって出産そのものが左右されてしまうのではないか」というものがあります。例えば出生前の遺伝子検査がより広く普及したとして、胎児が不治の病に罹るリスクを指摘された時に出産を諦めてしまう親がいるかもしれません。

このように対策を取るべき点はありますが、そうは言ってももちろん遺伝子検査には医学的にかなりの有用性があり、その有用性を情報管理の観点から無いものにしてしまうのは得策とは言えないでしょう。

例えば、癌というのは早期発見ができて早い段階で外科治療してしまえば、完治する可能性が高いものもあります。また糖尿病などの慢性疾患に対しても患者に早くから危機感を持たせ、良好な疾患コントロールを促すことが可能かもしれません。

「病気になる前に事前に防ぐ、あるいは重症化する前に治す」といった予防医学の観点からすれば、遺伝子検査というのが大きな力を発揮することは間違いありません。

こういった事情から、「様々な注意事項、遵守事項や倫理的指針を良く理解し、守った上でビジネスの利用・展開をしてください」というのが現在の国の方針と言えるでしょう。わたしたち消費者側に必要とされるのは、貴重な個人情報を安易に色々な場所で提供するべきではないというしっかりとした危機管理意識となるでしょう。

photo by flickr [参考文献]

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