産経ソウル支局長裁判、韓国が世界から批判されている理由

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韓国の朴槿恵大統領の私生活に関するうわさを報じたコラムで大統領の名誉を傷つけたとして、情報通信網法の名誉毀損罪に問われた産経新聞・加藤達也前ソウル支局長の公判が27日、ソウル中央地裁で始まりました。

韓国の情報通信網法(情報通信網利用促進および情報保護などに関する法律)では、「人を誹謗する目的で情報通信網を通じ、公然と偽りの事実により、他人の名誉を傷つけた者は7年以下の懲役、10年以下の資格停止または5000万ウォン(約495万円)以下の罰金に処する」と定められていて、かなり重い罪です。

 

発端となった記事

問題とされたのは、8月3日付で産経新聞のウェブサイト掲載された「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」と題された記事です。記事内では、4月に旅客船セウォル号が沈没した際の大統領の所在や行動を国会審議で問われた、大統領府秘書室長がまともに答えられなかったことが紹介されています。

また、韓国紙・朝鮮日報のコラムを引用し、大統領が自身の元秘書室長・チョン・ユンフェ氏と会っていたという「ウワサ」があることを紹介し、同コラムによる「国政運営で高い支持を維持しているのであれば、ウワサが立つこともないだろう。大統領個人への信頼が崩れ、あらゆるウワサが出てきているのである」との指摘を引用して、「朴政権のレームダック(死に体)化は、着実に進んでいるようだ」と説明しています。

普通に読めば、韓国紙による大統領に関するコラムを、加藤氏が日本人向けに紹介した記事であり、それ以上でもそれ以下でもありません。ところが、韓国の市民団体が加藤氏の記事を名誉毀損だとして告発したため、ソウル中央地検が加藤氏に出頭を求めたことで大きな問題に発展しました。

8月18日に加藤氏が出頭した際には、在韓国海外メディアで構成される「ソウル外信記者クラブ」が「(捜査に)高い関心を持ち、注視していく」との懸念を大統領府報道官に口頭で伝えました。

その後、加藤氏の再度の出頭時には、米紙ウォールストリート・ジャーナルや、世界のジャーナリストによる非政府組織「国境なき記者団」から韓国政府への批判の声が上がり、国際世論は加藤氏の不起訴を求めました。しかし、検察は起訴を強行し、今回の裁判へと至ったわけです。

 

何が問題とされているか

本件には様々な問題があります。第一に、市民の知る権利に寄与する報道を行っている記者が、安易に公権力によって訴追されてもよいのかという点です。

メディアには様々な機能が求められますが、その中の重要な一つとして政治権力の行動を明らかにする機能、いわゆる「ウォッチドッグ機能」があります。共同通信元編集主幹・原寿雄氏は、「およそ公共情報の分野では、事実の報道も論評も、現実に対する批判性がなければジャーナリズムの機能を果たしえない」としています。

今回加藤氏が報道した、セウォル号が沈没した際の大統領の所在に関する記事は、公人中の公人である大統領の緊急時の対応を問うものであり、非常に公共性の高いものであると考えられます。それ故、大統領がその所在の曖昧さを批判されたとしても当然であると言えます。そうした記事によって訴追されることは、フリープレスの国ではあり得ません。

また、加藤氏が訴追されたにもかかわらず、「元記事」を書いた朝鮮日報の崔普植記者はお咎めなしというのも事実です。

高麗大大学院教授・朴景信氏は、朝鮮日報と加藤氏の記事の違いは、「朴大統領とチョン・ユンフェ氏が会ったということを明示しているか否かだ。朝鮮日報の記事の場合は、わかる人が読めば、朴大統領と会っていた人物はチョン氏だろうと読めるが、事情を知らない人はそのように読まないかもしれない」としています(11月27日付産経新聞電子版)。

こうした非常に微妙な違いによって、起訴される者と全く罪を問われない者とに分けるという検察の判断は、恣意的と批判されても仕方がないかもしれません。

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