映画「ザ・インタビュー」表現の自由をめぐるアメリカと北朝鮮の戦い

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ソニー・ピクチャーズエンターテインメント(SPE)は17日、12月25日に予定されていた映画『ザ・インタビュー』の全米公開を中止すると発表しました。

この映画は、米国のテレビプロデューサーらが北朝鮮の金正恩第1書記にインタビューすることになり、米中央情報局(CIA)から暗殺を依頼されるというストーリーのコメディーです。

 

 GOPによる攻撃

公開が発表された6月頃から北朝鮮は反発しており、先月下旬には「Guardians of Peace」(GOP、平和の守護者たち)を名乗るハッカーグループがSPEをサイバー攻撃し、多くの未公開映画や従業員の個人情報、同社幹部による人種差別的発言、映画プロデューサーによる女優の悪口を含むメールなどを流出させました。

また、GOPはネット上の掲示板に、「『The Interview』が上映されたその時間、まさにその場所で、テロに楽しみを求める人間がどんな悲惨な目に遭うかをはっきりと見せてやる。プレミア上映も例外ではない。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントがどんなに恐ろしい映画を制作したのかを、全世界がもうすぐ知ることになる。世界は恐怖に満ち溢れるだろう。2001年9月11日を思い出せ。この時間は映画館には近づかないことをお勧めする」などと警告メッセージを出していました。

今回のサイバー攻撃について、米連邦捜査局(FBI)は19日、「北朝鮮政府に責任があると判断するのに十分な情報を集めた」と発表し、オバマ大統領も北朝鮮に対抗措置をとる方針を示しました。

 

 関係者の対応

SPEによる公開中止を受け、米映画関係者や政治家からは、「表現の自由に対する未曾有の攻撃に屈した」、「独裁者に屈服すれば、別の独裁者やテロリストに屈することになる。SPEは過ちを犯すな」などと批判の声が上がりました。

オバマ大統領も19日の記者会見で、「(SEPは)間違いを犯した」、「米国は、どこかの独裁者に検閲を科されるような社会であってはならない」とSPEの決定を批判しました。

一方で、「中国の映画業界が、オバマ大統領を暗殺するコメディーを作ったら、冗談として受け入れられるだろうか」、「米国には言論の自由があるが、世界にはテロリストがいる。特定の国の指導者を揶揄(やゆ)するのはやめたほうがいい」という声もあります。

米南カリフォルニア大学のトッド・ボイド教授も、ソニーが北朝鮮政府からの反撃を予期せず映画作りを進めたのは稚拙だったとした上で、「その人物をどう思うかに関わらず、存命中の人物を暗殺する映画を作るのは挑発的だ」、「コメディーでそうしたことを行うのは、傲慢で無分別、幼稚なことだ。ソニーは誤った決断の代償を支払わなければならない」(18日配信AP)と、大統領などとは別の意味でSPEを批判しています。

大統領に批判されたSPEのCEOであるマイケル・リントン氏はCNNのインタビューに答え、「間違っているのは大統領。ソニーはアメリカの人々にこの映画を観てもらうべく努力したが、映画館側が公開中止を決めた。映画の上映を決めるのは映画館側であり、ソニーが(脅迫に)譲歩したわけではない」と反論しました。

 

 表現の自由を最重要視するアメリカへの挑発

表現の自由に基づいて、権力や社会をコメディーやジョークで風刺するのはハリウッド(アメリカ映画業界)の伝統であり、問題視されるべきことではありません。ですから、脅迫に屈して映画の公開を中止することは、表現の自由を傷つける行為だとして批判されるのはやむを得ないことでしょう。

とは言え、上述のように、存命中の一国のリーダーの暗殺を映画として描くことについては、倫理的に問題があるとする主張も理解できます。

20日付産経新聞社説は、「堂々と抗議すればいい。内容に異を唱えるのも自由だ。だが、ハッカー攻撃やテロ予告による脅迫で公開中止に追い込むような犯罪行為は断じて容認できない」としていますが、この見解に尽きるのではないでしょうか。

映画の内容が北朝鮮にとっては「タブー」であったとして、まずは外交ルートで強く抗議するのが国際社会のルールです。

18日には国連総会で、日本人拉致問題を含め、北朝鮮での人権侵害の是正と責任追及を求める決議案が116カ国の賛成で採択されています。

そのような状況で、アメリカが最重要視する表現の自由を踏みにじるような行為を行う北朝鮮は、自分で自分の首を絞めている面があることは否定できません。今後の双方の動きに注目です。

Photo by Mike Mozart on flickr

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