そもそも「慰安婦」という言葉は使われない?慰安婦報道を巡る欧米メディアとの認識の差【朝日第三者委員】

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 慰安婦報道に関する第三者委員会の調査が終了

2014年12月22日に朝日新聞の慰安婦報道問題に関する第三者委員会の発表が行われました。報告書はPDFで朝日新聞の公式サイトから閲覧することが出来ます。

記者会見も行われましたが、委員会のメンバーの意見は報告書本体の方に詳しく記載されております。本稿では記者会見の内容ではなく報告書本体について、その中でも林香里委員による“データから見る「慰安婦」問題の国際報道状況 “に焦点を当ててみることにいたします。

 

 調査の概要

林委員の調査は主として1988年から行われてきた各国の報道に関して、どれだけの慰安婦に関する報道があったのかという部分の数字を抽出した調査となっていました。

まず、全体の傾向として慰安婦に関する報道量の推移について見ていき、その後欧米での報道の情報源の調査・キーワードへの言及調査、そして韓国での報道に関して朝日新聞の報道による影響が数字として表れたかどうか、という構成となっていました。

本稿では特に、この調査報告書における欧米メディアの動向について、という部分に焦点を当てていきます。

 

 欧米の報道の文脈とは

欧米の報道に関して更に詳細を見ていくべく、林委員は各キーワードの欧米での報道における取り扱われ方についてどのように言及されたかを検索でどれだけヒットするかという部分で分析しました。本稿で注目するのはその中でも”慰安婦”、”性奴隷”、そして”朝日新聞”です。

*慰安婦(comfort women, femmes de réconfort, Trostfrauen)

“慰安婦”と言う言葉は、欧米のメディア内では”婉曲表現”(euphemism )と捉えられ、歴史事実を描写する言葉ではないと理解されています。欧米の論調では、植民地における軍政下では、どのような形であれ、女性たちは”強制的”( forced, enforced )に性的サービスをさせられたという認識が一般的です。

欧米メディアがそのように捉える一方で日本政府は、第一に”狭義の強制性”はなかったというスタンスを固持しています。元慰安婦たちへの国家賠償に関しても日韓基本条約による国家賠償によって解決済みであり、現代の日本政府には直接的な賠償責任は発生しないという立場です。例として安倍首相は第一次内閣時の首相就任後の 2007 年 3 月 1 日に記者団に「強制性を裏付ける証拠はなかったのは事実」と語っています。

しかし近年の欧米の新聞記事を総合すると、安倍首相をはじめ日本の公人が歴史資料における朝鮮半島での強制性はなかったと主張すればするほど、海外ではその姿勢が慰安婦問題を軽視(downplay)し、ごまかし(whitewash)、罪の言い逃れをしようとするためではないかと受け取られ、それが原因で記事の量が増えるというサイクルに入っています。特に欧米にとって、”強制連行”へのこだわりこそ、日本政府の戦争責任への自覚のなさの象徴的言説であるとする図式が出来上がっているようです。

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これと関連して政治家の発言回数をここに記載しますと、Abe が 1141 回、Koizumi が 200 回、Murayama が 155 回、Miyazawa が 101 回となり、安倍首相の発言が引用される回数が非常に多い結果となりました。これは前述したように、安倍首相が慰安婦問題に関して強制性がないという趣旨の発言を多く行ってきたためです。

*奴隷(slave,slavery,enslavement)

慰安婦が婉曲表現であると欧米では認識されているため、その際の説明として”性奴隷”(sex slave)という言葉が用いられることが多く見られたとしています。欧米の報道の論調の多くは、慰安婦問題を普遍的・人道主義的な「女性の人権問題」の観点から位置づけようとしているものが大勢を占めるようです。

これは国際社会において女性の人権問題が近年非常に重要なテーマになってきていることを受けてのものだと思われます。

1993 年、世界人権会議の”ウィーン宣言”において、女性に対する暴力に関する断固たる反対声明が行われ、国連はこれを受けて「武力紛争の状況における女性の人権侵害は、国際的人権基本原則及び人道法の侵害である」として行動計画が採択されました。これ以降、人道的立場から女性に対する暴力を禁止する動きが活発になっていきました。

*吉田清治(Yoshida Seiji)

林委員は朝日新聞の報道が欧米メディアに与えた影響を調査するため、強制連行の根拠とされてきた吉田清治氏の証言(Yoshida Seiji)をキーワードとして検索による調査を行いました。

しかし吉田証言取り消しの朝日新聞報道に関する記事を除くと、3本のみが該当するという結果となり、吉田証言の影響があったということを認定することは出来なかったとしています。

また吉田証言を数多く引用した慰安婦問題を研究するジョージ・ヒックス氏の著書『The Comfort Women. Japan’s Brutal Regime of Enforced Prostitution in the Second World War』(1995年出版)に関する言及も少なく、4回しか言及されていませんでした。

 

 日本と欧米の認識の差

以上の調査を経て、林委員は、欧米メディアの慰安婦問題に関する論調について、朝日新聞の報道が大きな影響を与えたということを確認することが出来なかったとしています。

欧米メディアは慰安婦問題を社会構造上の女性人権問題という、東アジア限定の問題ではなく、より広い視点で考えるものでした。対して日本は慰安婦問題をそうした社会構造上の問題ではなく、個人的な経験が集まってできたイメージ、つまり局所的に考えるものが多くあります。

こうした認識の差異を元に、日本で慰安婦問題に強制性がないという発言をする度に欧米では慰安婦問題に関する報道量が多くなり、より日本への疑念が強まるという構図になっているということが判明したと林委員はしています。

この調査から分かったこととしては、朝日新聞の報道の影響が限定的なものに留まるということと、日本側が慰安婦問題が国際的にどのような視点で見られているかを改めて自覚しなければならないということです。

慰安婦問題は存在しない、強制性は認められないというスタンスを取り続ける限り、歴史問題を現代まで爪痕を残す人権問題として解決に向けて尽力してほしいと願う国際社会からは乖離していくばかりではないのでしょうか。

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[参考文献]
*林香里,2014年,データから見る「慰安婦」問題の国際報道状況(2014年12月23日,http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122204.pdf)

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