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 マクドナルド、食の安全問題で大きな痛手

マクドナルドが食の安全問題で各所から批判を受けています。2014年末から2015年始めにかけて相次いで商品に異物が混入していたという報告がSNSなどによって拡散され、2014年7月に賞味期限切れの中国産鶏肉を用いていたというニュースから信用を回復し切る時間もなく新たな問題に直面することになりました。

マクドナルドは近年、その業績の悪化が広く報じられています。今回の問題も業績に大きな影を落とすことが予想されますが、こうした状況を受けてマクドナルドの戦略は今後どのように展開されていくのでしょうか。

本稿では、一つの仮説を立ててみたいと思います。それは、

今回の問題を受けてブランドイメージが低下し経営に対して危機感を覚えるマクドナルドは、再生を図るべく改めて顧客ターゲットを絞った企業戦略を展開するのではないだろうか

といったものです。

本稿ではこの仮説に対して、“同質化戦略”“差別化戦略”という対立構図を当てはめて考察してみたいと思います。

 

 “同質化戦略”と”差別化戦略”

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(参考文献『ビジネスモデルの教科書』図表2-6より筆者が作成)

今回は上図におけるリーダー、チャレンジャーが取り得る戦略に注目します。

市場第一位の企業であるマーケットリーダーは、一般的にチャレンジャーなど下位の企業に比べて知名度・資金力が大きく、更に全国に展開するネットワークも抱える人の数も大きく差をつけている場合が殆どです。ここで説明する同質化戦略差別化戦略はこの状況から生まれる企業戦略のことを指しています。

同質化戦略とは、市場における第一位の企業が採用する戦略です。他の企業が自社に対して差別化を図ったサービスを打ち出す度に、そのサービスと競合するようなサービスを自社でも繰り出してその差別性を打ち消し、自社の企業規模による体力勝負に持ち込んで市場における優位を確立しようとするものです。確立されたブランドイメージ、潤沢な資金力による大規模な広告戦略を駆使した力押しの戦略であると言えます。

マーケットリーダーがこうした同質化戦略を取るのに対し、市場における下位の企業であるマーケットチャレンジャーは差別化戦略を取ります。同質化戦略を取るリーダーが取り入れきれないような明確に差別化された商品で自社の色を出すことが最も有効な対抗手段だからです。

 

 マクドナルドの同質化戦略

例として、まずマクドナルドがこれまでどういった同質化戦略を取ってきたのかを見てみましょう。商品そのもの、そしてその価格という二つの面から見てみます。

まずは商品そのものについてです。マクドナルドは勿論、あらゆるものを模倣してきたわけではなく独自の商品も多く展開しています。しかし、同質化を図ったと思われる事例も存在します。

一つ目はかなり時間を遡った事例になってしまいますが、モスバーガーの”テリヤキバーガー”です。テリヤキバーガーを世界で初めて提供したのは1973年のモスバーガーですが、マクドナルドは使用する原材料などに違いはあるものの、1989年に同名の商品を発売しました。

二つ目はバーガーキングを意識した”メガマック”の商品展開です。バーガーキングとは、1990年代頃に日本に進出したものの業績不振によって一度撤退し、その後2006年に日本に再進出してきたハンバーガーチェーン店のことです。

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(Photo by wikimedia)

看板商品は大型ハンバーガーである”ワッパー”ですが、時期を同じくしてマクドナルドが同様に大型ハンバーガーである”メガマック”を展開するという同質化戦略を取りました。マクドナルドの”メガマック”は限定販売商品として打ち出されたものでしたが多くの顧客の支持を得てレギュラーメニュー化し、その後発売される”クォーターパウンダー”に置き換わる2008年末まで販売されました。

*(上)メガマックと(下)ワッパー

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(メガマック: photo by wikimedia ワッパー: photo by wikimedia)

バーガーキングは依然として日本におけるはっきりとしたシェアを獲得することが出来ていません。店舗数による比較をすると、マクドナルドが全国3146店舗であるのに対し、バーガーキングは81店舗にとどまっています。

こうしてバーガーキングはブランドイメージをマクドナルドの同質化戦略によって完全に潰されてしまいました。

 

 モスバーガーの差別化戦略

次にモスバーガーの差別化戦略を見てみます。モスバーガーは効率化を掲げるマクドナルドと一線を画した高品質ハンバーガーを提供するという方針を一貫して続けてきました。

ハンバーガーがファストフードであるという印象を持たれる中、注文を受けてから出来るだけ時間をかけて相応の値段で高い質のハンバーガーを提供するというスタイルは、マニュアル化によって出来るだけコストを抑えようとするマクドナルドには決して取り入れられない差別化戦略です。

 

 メニューの価格からみるマクドナルドとモスバーガーの違い

続いて価格帯について見てみましょう。

同質化戦略を取るマーケットリーダーは下位の企業の戦略を取り入れていきます。つまり、ある程度の期間を経れば、マーケットリーダーの顧客ターゲットは自然と広範囲になるということを意味します。その影響は価格帯にも見られます。

次に示す棒グラフはマクドナルドとモスバーガーの価格に関するグラフです。両者のハンバーガー単体・セットメニューの価格を調べて、それらを割合に直しました。グラフ下軸の数字が価格帯を表しています。

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モスバーガーが高価格帯に集中しているのに対し、マクドナルドが比較的広く分布している様子が分かるかと思います。価格が示す顧客ターゲット層からもモスバーガーが差別化をしているのに対し、マクドナルドが全方位的な価格設定をしていることが読み取れます。

 

 業績で見る両企業の状況

ここまでマクドナルドとモスバーガーの企業戦略を同質化・差別化という観点で整理してきました。次にマクドナルド・モスバーガーの業績から改めて業界順位を把握していきましょう。

まず原価など商品販売にかかった費用も含めて販売で得た利益を表す売上高で比較します。

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売上高で見ると、マクドナルドは依然マーケットリーダーとして圧倒的なシェアを誇っています。モスバーガーは日本のハンバーガー業界で第二位のシェアではありますが、それでもマクドナルドには大きく差をつけられてしまっています。

続いて売上高から販売費用などを取り除いた純利益を見ていきましょう。

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売上高と同様にモスバーガーが特別に純利益を伸ばせているわけではありませんが、モスバーガーと比較してマクドナルドの昨年度の減少が非常に大きいことがはっきりと読み取れます。純利益という観点で見ると、相対的にモスバーガーは業界内のシェアを上昇させてきていると言えるでしょう。

最後に見るのは、経営の効率性を示すROA(Return On Assets)という指標です。値が大きければ大きいほど、企業が自身の持つ資産を用いてより多くの利益を獲得できているという意味になります。

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純利益と同様にマクドナルドの近年の減少率が非常に大きいことが分かります。対してモスバーガーは2011年度に値を下げてしまったものの、2013年度から2014年度にかけてROAを改善出来ています。

 

 マクドナルドは業界における地位に対して危機感を抱いているかもしれない

以上見てきた値から、本稿での仮説を立てましょう。

マクドナルドは圧倒的な売上高を持っており、マーケットリーダーという順位を失うとはとても言い切れません。しかし純利益、そして経営の効率性を示すROAの大幅な減少からマクドナルドが経営に関して大きな危機感を抱いているのではないか、と考えられます。

そして、先日の異物混入事件はマクドナルドの業績により大きな影を落とすことが予想されます。

これらから考えられる結論は、マクドナルドはマーケットリーダーとしての同質化戦略ではなく、再度ブランドイメージを確立するためにリーダーの地位を捨て、マーケットチャレンジャーとしての差別化戦略を取る可能性があるということです。

 

 マーケットリーダーとしての磐石さを取り戻すために

マーケットリーダーにとってブランドイメージは目には見えませんが非常に重要な資産の一つです。マクドナルドはこれまでにも食の安全に関して社会的に疑いの目を向けられてきましたが、今回の事件によってそのイメージは相当悪化してしまいました。そのような状況では、ブランド力によって広範囲的にマーケティングを行う同質化戦略を行うことはかなりリスキーな選択ではないでしょうか。

同質化戦略を安易に行うことが出来ないことを前提とすれば、マクドナルドが取るべき選択肢の一つに他との差別化によるブランドイメージの確立というものがあると思われます。

提供する商品の性質や価格について明確なターゲットを持たせること、具体的には男性を意識した大型ハンバーガーを低価格で提供すること、あるいは女性を意識した高品質でヘルシーなハンバーガーを高価格で提供する、などが考えられます。

マクドナルドが再び磐石なブランドイメージを取り戻すためにどのような戦略を打ち出すのか。次の一手は今後のマクドナルドの行く末を決定づけるものになるのではないでしょうか。

Photo by wikimedia [参考文献]

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