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大阪大学医学部附属病院で治療を受けていた6歳未満の女の子が13日、脳死と判定され、14日に臓器を摘出する手術が行われました。女の子は、「特発性拡張型心筋症」という心臓の動きが著しく低下する病気に罹っており、海外での心臓移植を待っている状態でした。

移植を待つ間のつなぎの医療として、人工補助心臓を使用していましたが、日本で使用が認められているものは大人用の機械であり、それをやむなく女の子に使用していたところ、血液の塊(血栓)ができてしまい、それが血中を脳まで移動して血管を閉塞し、女の子は脳梗塞になりました。

脳梗塞の範囲が大きく、数日後に脳死となりました。脳死判定を受け、ご両親は臓器提供を希望されました。そしてその心情をコメントとして公表しました。

コメントの中で、日本の移植医療の現状と、やむをえず大人用の人工補助心臓を使わなくてはならなかった状況について言及しています。

まず、小さな体で頑張った女の子への敬意と、闘病生活を支えた末に臓器提供を希望されたご両親の判断への敬意を表してから記事を始めたいと思います。

このニュースを巡っては、大きく2つの論点が指摘できます。

1) 日本では、海外で既に有効とされる医療機器の承認に時間がかかってしまう、いわゆる「デバイス・ラグ」の問題

2) 心臓移植をはじめ、日本国内での臓器供給の不足

2)に関しては、『わずか6日で家族との別れを決断、想像できますか?』という過去の記事の中で触れました。本記事では、1)の「デバイス・ラグ」について触れたいと思います。

 

 救えたかもしれない命

今回の女の子は「特発性拡張型心筋症」という病気のため、心臓の機能が著しく低下しており、心臓移植しか有効な治療はないという状況でした。

しかし、心臓移植はすぐにはできません。そのため、心臓移植を待つ間に、心臓の代わりをしてくれる人工補助心臓が必要になります。しかし、日本の現状では、人工補助心臓は大人用のものしかありません。

今回のような小児例には同じ機械をやむなく使用しています。大人用に設計されているので、人工補助心臓のポンプの容量が子どもが必要とする容量に比べて大きいため、バランスが悪く、ポンプ内に血栓ができやすくなります。

名称未設定

(筆者作製)

ポンプは体の血管と直接繋がっているので、血栓は体中に移動する可能性があります。中でも怖いのが、脳です。今回は残念ながら脳に大きな血栓が移動し血管が閉塞した結果、「脳梗塞」が起きてしまいました。

欧米では、小児用の人工補助心臓が既に広く使用されています。例え小児用であっても、人工補助心臓であれば血栓の問題は常につきまといます。

しかし、大人用の機械を小児に使用すると、その頻度はさらに高くなります。日本において小児に対して適切な人工補助心臓がないことは、以前から問題として指摘されていました。

 

 デバイス・ラグ

今回、欧米で使用実績のある機械が、日本では未承認の状態でした。このデバイス(=医療機器)認可をめぐる差(=ラグ)を、デバイス・ラグと呼びます。下の図を見てください。米国との比較を図示します。

名称未設定2

(文献1を参照に筆者作製)

デバイス・ラグは、2つの要素に分けられます。図の中にある、申請ラグと審査ラグです。申請ラグは、同じ医療機器でも、そもそも米国と日本で申請の時期が違うことによっておきるものです。

審査ラグは、申請時期が同じでも審査にかかる時間が異なるために起きるものです。この2つをいかに短くするかがデバイス・ラグ解消に必要です。

今回の小児用人工補助心臓を例にとります。もともとドイツで開発された医療機器です。アメリカでは、2007年に臨床試験(承認前に、医療機器の安全性や効果を調べる試験)が始まりました。日本では2012年です。

この時点で5年の遅れがあります。アメリカでは2011年にFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)によって公式に承認がおりています。日本では、今年の夏(2015年)に承認されることが期待されていました。1日1日という単位で病気と戦う患者さんたちにとって、この「年」という単位は決して短くはありません。

 今後に向けて

日本におけるデバイス・ラグが生じる原因として、

・臨床試験の実施や承認審査に他国より時間がかかる

・他国で承認されていても、国内の試験が終わるまで追加の期間が必要となる

・日本のマーケットが小さい、もしくは海外製造元が日本での販売に慣れていないなどの理由で日本導入がなされない

などが指摘されています。これを受け、厚生労働省もデバイス・ラグ解消に向けた取り組みを始めています。国際共同治験を行って、申請ラグを減らす試みや、産・官・学が協力し、医療機器の開発を行うこと、「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に 関する検討会」を開催し、特に医療ニーズの高い医療機器に対しては、迅速に承認を行うようにするなどの取り組みが始まっています。(実は今回の小児用人工補助心臓もこの検討会の選定を受けていました)

我が子を失うという堪え難い状況を迎え、心情を公にすることには大変な勇気が必要だと思います。

しかし、今回はそれでもなお社会に伝えたいことがあったのだと推測します。そのご両親の思いをしっかりと受け止め、安全性を担保しつつ、迅速に必要な医療機器が日本でも使用できるような未来が来ることが望まれます。

Photo by Jez [参考文献]

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