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シリアで日本人の湯川遥菜さんと見られる人物が拘束されたり、米国人ジャーナリストが殺害されるなど連日「イスラム国」に関する話題がニュースでは取り上げられています。

参考:米大統領、イスラム国打倒を宣言 「正義の鉄つい下す」 「戦闘中」で解放交渉応ぜず イスラム国、反体制派に

しかし、筆者のまわりでは”「イスラム国」とは一体何で、結局何が起こっているのかよくわからない”という声をよく聞きます。今回は「イスラム国」とは一体何者なのか、まずは基礎の基礎について説明します。

「イスラム国」とは何かということは、実は高校世界史の内容を押さえれば理解することができます。例えば、kotobankには次のように「イスラム国」についての説明が書かれています。

2014年6月29日、ISIS(ISIL)の最高指導者アブ・バクル・バグダディが樹立を宣言した国。ISIS(イラクシリアイスラム国)が制圧したシリア北部のアレッポからイラク中部のディヤラまでを領土とし、シャリア(イスラム法)に基づく、スンニ派カリフイスラム国家とうたう。バグダディは新しいカリフを自称し、世界中のスンニ派イスラム教徒に忠誠を求めている。

一読して、言葉の意味があまり一般的ではないであろうものに下線を引きました。下線を引いた、「シャリア」「スンニ派」「カリフ」といった言葉を理解することができれば「イスラム国」の基本を理解できるはずです。(ISISは一般的な用語ではありませんが、「イスラム国」の前身組織のようなものです。)

高校世界史の定番、山川出版社、、、と言いたいところですが筆者の家に無かったため東京書籍の『世界史B』の教科書を引きながら説明していきたいと思います。

■シャリア(イスラム法)

 ムハンマドの死後、9世紀以降に、イスラーム法(シャリーア)が整えられていった。それは、ムハンマドに啓示された神の言葉を集めたとされる啓典『コーラン(クルアーン)』と、ムハンマドの言行(スンナ)を伝えた伝承が基盤となっている。 (p.111)

イスラム教の始祖(始めた人)であるムハンマドに伝えられた神の言葉と、ムハンマド自身の行動や言葉を合わせたものがシャリア(イスラーム法)なのですね。シャリアにはムスリム(イスラム教徒)の義務をはじめとして、国家や政治のあるべき姿についても書かれています。

■カリフ

ムハンマドが病没すると、ムスリムは全員で後継者(カリフ)を選び、その人物に忠誠を誓って統一を保つ精度をつくった。こうして選ばれた最初の4代のカリフを正統カリフという。(p.111)

アリーが暗殺されたとき、アリーを支持していた勢力がシーア派とよばれた。その後、シーア派は、アリーの子孫だけに政治的指導権を認め(以下略)(p.115)

(トルコ共和国の)ケマルは大統領となり、1924年にはカリフ制を廃止して国家を世俗化し(政教分離)、共和国憲法を発布した。(中略)西欧をモデルとする近代国家の建設に努めた(p.346)

カリフとはムハンマドの後継者のことなのです。4代目のカリフであるアリーが暗殺されたことで、ムスリムはシーア派とスンニ派に分裂してしまいます。こうして分かれた宗派は現在も存続しており、例えばイラクでは全人口の約3分の2がシーア派であると言われています。

アリーの死後も受け継がれていたカリフ制度ですが、20世紀初頭に廃止されています。

■スンニ(スンナ)派

661年に、第4代正統カリフのアリーが暗殺されると、彼と対立していたシリア総督のアーウィヤが、ダマスカスでカリフの地位についた。(p.112)

シーア派に対し、ムハンマドのスンナ(言行)を尊重し、正統カリフ、ウマイヤ朝、アッバース朝とつづいたカリフを正統な指導者と肯定する党派をスンナ派という。(pp.116-117)

シーア派とは違いムハンマドの言行を尊重し、アリーの子孫以外でもカリフとして認める人々はスンナ派という宗派を形成しました。現在ムスリム全体で見ると、スンナ派は最大宗派になっています。

 

さて、ここまで高校世界史の内容をもとに各用語を解説してきました。これをもとに、冒頭の「イスラム国」の説明文を読み解くと次のようになります。

2014年6月29日、ISIS(ISIL)の最高指導者アブ・バクル・バグダディが樹立を宣言した国。ISIS(イラクシリアイスラム国)が制圧したシリア北部のアレッポからイラク中部のディヤラまでを領土とし、神の言葉と、ムハンマド自身の行動や言葉を合わせたものに基づく、ムハンマドの言行を尊重し、アリーの子孫以外でもカリフとして認める人々ムハンマドの正統な後継者がつくるイスラム国家とうたう。バグダディは新しいムハンマドの正統な後継者を自称し、世界中のスンニ派イスラム教徒に忠誠を求めている。

簡単に言うと、「イスラム国」というのは、バグダディという人がムハンマドの正統後継者であるカリフを名乗り、つくった国なのです。スンニ派なので、バグダディがアリーの子孫でなくても許されるのですね。もちろん組織が勝手に建国を宣言しただけなので、多くの近隣諸国や西欧の国々は認めていません。

これで「イスラム国」の基本の基本は押さえられました。なぜ1000年以上前のことを扱った高校世界史の教科書の内容によって最近の出来事である「イスラム国」について理解できるのか疑問に思った方もいるかもしれません。それはスンニ派とシーア派の対立などイスラム教をめぐる問題がそれほど歴史的に根深い問題であるからなのです。

「イスラム国」が何を求め、何を行っているのかといったさらに詳しい事柄については別の記事で解説したいと思います。

※本記事は2014年8月29日に掲載された記事を再掲載したものです。

[参考文献]
『世界史B』,2010年,東京書籍
Photo by The U.S. Army

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