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 北海道で「ノーゲームデー」が制定される

先日、北海道教育委員会が「ノーゲームデー」というものを制定しました。このことについて、NHKニュースから引用したものを見てみます。

“子どもたちの学力の低迷はゲームのしすぎにも原因があるとして、道教委などは、毎月第1・第3日曜日は子どもたちがゲームをしない、「ノーゲームデー」とするよう呼びかけています。
道内の子どもたちの全国学力テストの成績は、全国平均を下回っていて、道教委は、長時間ゲームをする子どもたちが多く、家庭学習の時間がゲームに取られてしまっていることにも原因があるとみています。
道教委・生涯学習課の浅井真介課長は、「ゲームから離れることで、家族との団らんや友人との体験学習の時間が増え、望ましい生活習慣の定着につながれば」と話しています。”

この取組みの目指すものというのは、家族団らんの時間を増やすことが前提ではありますが、NHKニュースでも指摘されているようにゲームに触れる時間を短くして学習時間を増やし、学力向上のベースアップを図ろうという目的もあると思われます。

筆者としましては、家族団らんの時間を増やす取り組みとして「ノーゲームデー」導入に肯定的な意見を持っております。

しかし学習と関連付けて考えてみると幾つか疑問を感じざるを得ませんでした。

本稿ではそうした疑問の中でも学習能力・学習時間という二つの観点から研究論文などをまとめて、「ノーゲームデー」導入の意義について、学習に焦点を置いて考えてみたいと思います。

一つ目は、ゲームをすることは学習能力を低下させてしまうのか否かということ。そして二つ目はゲームを禁止して学習時間が増やすことが出来るのか否かということです。

 

 1. ゲームは学習能力に悪影響を与えるのか

ゲームが学習能力に与える影響についてですが、このことに関して否定的な意見を持つ人達の根拠として恐らく最も有名なのは2002年に日本大学教授の森昭雄氏が提唱した”ゲーム脳”という言葉ではないかと思われます。

森氏の著作である『ゲーム脳の恐怖』からゲーム脳の定義を確認したいと思いますが、著作の中で森氏は明確にゲーム脳を定義しておりません。文章毎にばらばらな表現を行っているため、ここでは本稿筆者がまとめたものを一応の定義として以下に示します。

“ゲーム脳とは、脳波のパターンが認知症患者と似たものを示しており思考能力などを司る前頭前野がダメージを受けている状態の脳を指す”

ただし、森氏のこの主張には2015年現在、学術領域においては多くの批判がなされています。その理由については様々なものがありますが、最も核心をついた論としては「森氏の脳波に関する認識が間違っている」というものが挙げられます。

森氏は脳波の一種であるアルファ波・ベータ波を測定し、ゲームをしている最中はアルファ波に対してベータ波が著しく低下する、これは認知症患者のパターンと一致するという部分を主要な決定要因として述べています。

しかし、精神科医の斎藤環氏によれば、そもそもアルファ波・ベータ波は目を開けたり閉じたりする程度で優位性が逆転する程度のものであり、これら二種類の脳波だけで脳が異常であるかどうかを診断すること自体がナンセンスである、としています。

また森氏はアルファ波を異常脳波(徐波)として著作内で説明しているのですがこれも間違いで、徐波と呼ばれるのはデルタ波・シータ波という脳波であるようです。しかし、森氏は脳波測定においてこれらの異常脳波を計測していませんでした。

他にも様々な論争がありますが、現在の学術的な認識としては「ゲームが脳の思考能力にダメージを与えるということはない」という結論に落ち着いています。広まった要因はテレビ・新聞といったマスコミによって当時検証がされる前に大々的に取り上げられたことだと考えられます。

さて、こうしてゲームは思考能力に大きな影響を与えはしないことが分かりましたが、ゲームをすることで学習時間は減ってしまうのではないかという懸念は残ります。

続いてはこの「テレビゲームを長くプレイしているということは学習時間もそれだけ減ってしまうのではないか」という疑問について考えていきましょう。

 

 2. ゲームを禁止すれば学習時間は増えるのか

今一度確認すると、「ノーゲームデー」によってゲームをしない日を作ることで、家族団らんの時間は勿論、学習時間も確保しようとするというのがこの取組の目的でした。

実際、学習時間が増えれば学力向上につながる、という仮説にはいくつかの実証研究がなされており、有効であることが確認されています。しかし、ゲームを禁止すれば本当に学習時間は増えるのでしょうか。

この疑問について、経済産業研究所(独立行政法人)が2014年3月18日に公開したコラム『テレビやゲームの時間は子どもの勉強時間を奪うのか』から、その調査結果を引用して考えていきたいと思います。※1

この調査は、小学校低学年の子供たちを対象に行なわれました。

調査では、学習時間とテレビゲームをする時間の長さには負の相関、つまりテレビゲームをする時間が長ければ長いほど勉強時間は短くなるという結果が出ました。しかし、その影響は非常に小さかったとしています。

具体的にはテレビやゲームの時間が1時間増えても、男子で約1分、女子で約2分の勉強時間を減らすに過ぎない、といったものでした。

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(経済産業研究所の結果表より筆者作成。)※2

ゲームをする時間が長くなっても、学習時間に対して与える影響は僅か数分の学習時間を減らすだけに過ぎません。つまり、ゲームを禁止したとしても学習時間を大きく増やすことには繋がらないのです。

では、学習時間を増やし学力向上を図るために本当に必要なこととは一体何なのでしょうか。

 

 学習時間の増加、学力向上に本当に必要なもの

学習時間を増加させる策としてこの研究で示されている最も効果の高い方法とは、親が子どもの勉強に関わる姿勢を明確に示し、伝えることです。

具体的にどうすればよいのでしょうか。

研究が示す所によれば、まず子どもが勉強している横についていることは、「勉強するように言う」ことよりも重要だとしています。さらに、母親が勉強時間を決めて守らせること、父親が子どもの勉強についていることによる効果は最も高いようです。

娘に勉強しなさいと言う母親は、娘の学習時間を増やすどころか、むしろ意欲を失わせてしまっているということです。次に、父親の関与は男の子に、母親の関与は女の子により効果的であり、親の関与は同性の親子関係において特に効果的である可能性が高いという結果が示されました。

家族団らんとは多少異なりますが、子供の勉強について親が好意的に見守ってやること、親子間のコミュニケーションが重要という結果となりました。

 

 家族団らんの中で学習に関わる姿勢を育んでいくこと

「ノーゲームデー」は家族とのふれあいの時間を増やすためのものです。ですので、研究結果が示すようにそれは大いに学習時間の増加に繋がりうる取り組みだと言えます。この点については、筆者としても全面的に同意しています。

しかしここで問題となるのは、どうしてわざわざゲームをターゲットにしてしまったのか、というところです。

そもそも「ゲームをしてはいけない」というような”禁止ワード”を言うことは逆効果となってしまうことが心理学的に実証されています。(カリギュラ効果)

また、ゲームであっても“Wii Party U “(任天堂)などのように、家族皆で遊べるゲームというのは数多く存在しており、ゲームと家族団らん・学習時間の向上がトレードオフの関係のようにされていることにも違和感を感じます。

大切なのは、頭ごなしに否定することではなく、親子でゲームなどエンターテイメントとの付き合い方を考えていくことではないでしょうか。

そうした取り組みが「ノーゲームデー」によって広まっていけば、それは非常に素晴らしいことだと思います。

photo by pixabay [参考文献と注釈]

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