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イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件が最悪の結末を迎えつつある中、中国も同組織に対する危機感を募らせているようです。

 

 中国のイスラム教徒

中国の西端に、トルコ系イスラム教徒であるウイグル族が居住する新疆(しんきょう)ウイグル自治区があります。ウイグル族は1933年と44年に独立を宣言し、民族国家東トルキスタン共和国の建国を目指しましたが、1949年に共産党支配下の中国に統一され、1955年に新疆ウイグル自治区が設けられました。

同自治区では、ウイグル族と、中国政府の政策によって移住した漢族との対立に根差した暴力事件が相次いでいます。

2009年7月には、区都ウルムチ市でウイグル族の学生らが市内をデモ行進し、一部が暴徒化するという「ウイグル騒乱」が発生しました。この騒乱の発端は、同年6月に広東省の工場で、デマによってウイグル族が漢族に襲撃され多数が殺傷される事件があり、襲撃側・漢族の刑事処分が曖昧にされたことだとされています。

また、この騒乱の背景には、自治区における漢族住民とウイグル族住民の間の経済的格差や、ウイグル族固有の文化的、宗教的権利が尊重されていないとするウイグル族住民の不満があるとみられています。亡命ウイグル人組織・世界ウイグル会議によれば、この騒乱で中国当局や漢族の攻撃によって殺されたウイグル人は最大3,000人とされています。

 

 国外逃亡するウイグル族

アムネスティ・インターナショナルは、中国政府による新疆ウイグル自治区での、ウイグル語での教育の制限、イスラム教の活動制限、ウイグル人女性と少女への人権侵害などについて、「ウイグル人のアイデンティティは中国政府の民族政策によって脅かされています」と批判しています。

また、米国務省が昨年発表した、世界各国における信教の自由に関する年次報告書は、2013年の1年間で、中国が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に引き続き弾圧を加えていると指摘しています。

一方、中国政府は昨年5月、自治区内で暴力・テロ事件が相次いでいることを受け、超法規的な措置も辞さない「対テロ戦争」を展開すると宣言し、当局による一般市民に対する越権行為や武力行使も認めるとしました。

こうした状況を背景に、自治区からは長年にわたり、多くのウイグル族が国外逃亡を続けているとみられています。香港の中国人権民主化運動情報センターによれば、毎月5,000人近くのウイグル族が国外へ逃亡しているとされています。

今月18日には、中国公安省は、昨年5月以降、広西チワン族自治区や雲南省など中国南西部の国境地帯から密出国を図ったとして852人を検挙したと発表し、その大半はウイグル族だとみています。こうした密出国者の一部は、「イスラム国」などのイスラム教過激派組織へ加わっているとされています。

また、共産党機関紙・人民日報系の環球時報も、中国政府公安部の孟宏偉副部長が21日、マレーシアのザヒド内務相と会談した際に、中国人300人以上がマレーシアを経由して「イスラム国」に参加し、「聖戦」と称する活動に加わっていると述べた、と報じました。

 

 中国政府の恐れる「報復テロ」

中国政府が恐れているのは、イスラム教過激派組織に加わったウイグル族などが、中東でテロのノウハウを学んだ後帰国し、中国当局への「報復テロ」を行うことだと考えられています。評論家の石平氏は、「習近平国家主席体制になって、ウイグル族への弾圧は激しさを増している。新疆ウイグル自治区にはイスラム教徒が多く、耐えかねて、逃げ出した人々の中には、『イスラム国』に加わる者もいるようだ。こうした人々が報復してくることは十分に予想される」(31日付産経ニュース)と指摘しています。

真偽は定かではありませんが、昨年、香港の一部週刊誌は、新疆ウイグル自治区に対する迫害・虐殺に激怒した「イスラム国」が、中国政府に対して報復宣言をしたと報じました。

新彊ウイグル自治区は、ロシア、アフガニスタン、パキスタン、インドなど8カ国と接する中国で最も長い国境を有しており、中国にとっては国防の要衝だといえます。また、石油と天然ガスの埋蔵量が豊富で、いずれも中国全体の埋蔵量の3割ほどを占める、中国最大といえる貴重な資源産出地でもあります。

つまり、国防、資源の安定的確保の観点から、中国にとっては決して手放すことのできない重要な地域であると考えられます。事実、中国政府は同自治区を「核心的利益(中国の体制・政治制度・社会の安定・経済発展などを維持するために断固として保護することを明言している、同国にとっての利益)」と位置づけています。

そのような地域で、イスラム教過激派によるテロ活動が大規模化し、ロシアにおけるチェチェン紛争のようになってしまうことは、中国政府にとってはまさに「悪夢」でしょう。

現在はその可能性が論じられているに過ぎない、イスラム教過激派による中国への「報復」ですが、今回、日本が突然「テロとの戦い」に巻き込まれたように、いつ中国がターゲットになったとしても不思議ではないでしょう。中国政府には、状況を楽観視せず、自国民をテロの泥沼に引きずり込むことのないよう最大限の情報収集を行い、対策を講じることが求められていると考えられます。

Photo by futureatlas.com

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