【注意】「イスラム国」「ISIS」「ISIL」って何が違うの?

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「イスラム国」による日本人人質事件は、2名の日本人が殺害されるという最悪の結末を迎えました。安倍首相は1日発表した声明の中で、「日本がテロに屈することは決してない。中東への食糧、医療などの人道支援をさらに拡充していく。テロと闘う国際社会において、日本としての責任を毅然として果たしていく」と述べ、「テロとの戦い」での日本の役割を強調しました。

 

 イスラム教への偏見が広がる危険性

「イスラム国」による日本人、及びヨルダン人パイロットの惨殺を受け、日本国内でイスラム教徒への偏見や憎悪が高まることが懸念されます。というのも、2001年、米国で発生した同時多発テロ事件以降、同国内でのイスラム教徒に対するヘイトクライムの数が急増したからです。

イスラム寺院や学校には、電話や手紙による脅迫、落書き、投石、銃撃などが相次ぎました。また、豚の血を入れたものをモスクの入り口に置いておく(イスラム教の聖典クルアーンには「豚を食べないように」と書かれています)という悪質な嫌がらせまで発生しました。

キリスト教国であるアメリカで起きたことが、必ずしも日本で起きるとは限りませんが、その可能性を認識し、そのようにならないよう最善を尽くことが望まれます。

そのためには、今回の惨殺事件を起こしたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」と、イスラム教(イスラーム)、及びそれを信仰・実践する人々であるイスラム教徒(ムスリム)が社会の中心となって活動する、いわゆる「イスラム諸国」は全く別物であることを理解しておくことが重要だと考えられます。

 

 「イスラム国」は国ではない

「イスラム国」はその名称のため、イスラムを代表する組織であるかのような印象を与えますが、国ではなく、国際社会からはテロリスト集団と認識されています。2014年6月、シリアとイラクの武装勢力が「イスラム国」の樹立を宣言したとされていますが、これまで同組織を公式に承認した国はひとつもないことから、いわゆる「国」とは認識されていません。

同組織はイスラム教徒全体から見れば、ごく少数の過激派によって構成されているだけで、大多数のイスラム教徒は彼らの行動を支持していないとされています。

一方、以前からメディアなどで使われてきた「イスラム諸国」、あるいは「イスラム」とは上述の通り、イスラム教徒が社会の中心となっている国々を指し、エジプト、サウジアラビア、トルコなどが挙げられます。

つまり、一方はテロリストの集団、もう一方は多数の国から承認され、国連にも加盟している国々である点で全く異なる存在です。

ただ、「イスラム国」という名称は、「イスラム諸国」や「イスラム」と言い間違えやすいこともあって、日本人人質事件発生以降、メディアや政治家による誤用、あるいは意図的にそれらを混同させようとしているととられかねない発言も見られ、それが混乱に拍車をかけています。

例えば、1月25日に放送されたTBSの番組で、コメンテーター・岸井成格氏は、「…人道的って先ほどちょっと話がありましたけど、こう、言ってもですね、とにかく、イスラム国と戦う周辺国への、支援という言い方をして、2億ドル拠出を言ってますから、そうするとその、受け取る方のイスラムからすると、あ、いよいよもう、有志連合の方に、加担をしたと、我々の敵に回ったんだなっていう受け取り方をね、したということは言えるんだろうと思うんです」と発言しました。

 

 メディアは表現に関して注意が必要

これについて、最近出版された『イスラーム国の衝撃』の著者であり、イスラム政治思想が専門の東京大学准教授・池内恵氏は自身のFacebookで、「…局側の人間の発言では、『イスラム国』がいつの間にか『イスラム』になっちゃってるんだよね。確信犯なのか、そういう先入観があるのか」と指摘しています。

池内氏の指摘の主旨は、専門家からすれば、「イスラム国」と「イスラム」を明確に区別することは非常に重要な問題であるのに、それをメディアが混同することはあり得ない間違いだという点にあると考えられます。中東情勢のような、なかなか一般の人が理解しにくし複雑な事柄については、情報の伝え手であるメディアがきちんと咀嚼して伝えるべきではないか、という問題提起ともとれるかもしれません。

また、民主党の徳永エリ参院議員は1月21日、自身のFacebookで、「イスラム世界の国々は親日でした。日本は戦争をしない国、世界平和への希望の国だったからです。安倍総理がなんと言おうが、集団的自衛権の行使容認、憲法改正、武器輸出三原則の変更。国際社会は日本は変わってしまったと受け止めているのです。いくら人道支援とはいえ、資金援助を大々的に記者会見でアピールする、テロ組織を刺激したことは否めないと私は思います」と述べました。

このコメントでは、安倍首相が人道支援を表明したことによって、「イスラム世界」全体が日本を批判しているようにとれますが、実際はこれまで各種メディアで報道されたとおり、「イスラム国」が首相を批判したのであって、イスラム世界、あるいはイスラム諸国はむしろ日本の支援に感謝しています。

意図的なのか、誤ってなのかはともかく、こうした「イスラム国」とイスラム全体を混同する論説が、日本人を混乱させ、イスラムへの偏見を助長させる可能性がないとはいえません。

実際、名古屋市にあるイスラム教の集団礼拝所・宗教法人名古屋モスクは、ホームページ上の「『イスラム国』という名称の変更を希望します」と題された声明(http://nagoyamosque.com/3107.html)で、「『イスラム国』と称されている過激派組織の行いは、イスラームの教えとはまったく異なるものです」、「『イスラム国』という名称にイスラムという語が入っているために、本来の平和なイスラームが誤解され、日本に暮らす大勢のムスリム(イスラーム教徒)への偏見は大変深刻です」と訴え、「イスラム国」という名称の変更を希望しています。

 

 「ISIL」「ISIS」とは

日本政府、米国政府、国連はISIL(Islamic State of Iraq and the Levant)という名称を用いており、安倍首相はその理由を、「(イスラム国という名称は)まるで国として存在しているかの印象を与える。国として国際社会から認められている、あるいはイスラムの代表であるかの印象を与え、イスラムの人々にとっては極めて不快な話になっている」と説明しています。

宗教法人名古屋モスクは、アメリカ軍やフランス政府は「イスラム国」のアラビア語での略称「ダーイシュ」を使用しているとしたうえで、海外では、そのアラビア語の「英語訳『Islamic State of Iraq and Syria』の省略形である『ISIS=アイシス』や『Islamic State of Iraq and Levant』の省略形である『ISIL=アイシル』を用いるメディアもまだ多いようですが、日本のように『イスラム』を連呼することはありません」とし、日本のメディアや政治家などが「イスラム国」を語る際、「イスラム」が強調されることが問題である点を指摘しています。

「イスラム国」と「イスラム諸国」(あるいはイスラム世界、イスラム全体)の違いは明確に理解しているが、単純に言い間違えてしまう、という皆さんも多いでしょう。ただ、その点を理解していない人に誤解を与える可能性がありますし、日本で暮らすイスラム教徒にとっては、偏見を持たれかねない大きな問題になっていますので、今後、少なくともメディアや政治家などは、日本政府や国連にならって「ISIL」、もしくはアラビア語の「ダーイシュ」という名称を使うのがベターだと考えられます。

(※Credoでも今後は「ISIS」もしくは「ISIL」という呼称を用いていきます)

Photo by Karl-Ludwig Poggemann

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