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世界各地で男女が愛を誓いあうバレンタインデーが近づいてきました。意中の人がいる方にとっては大きなチャンスです。実際、筆者の周りでもバレンタインデーをきっかけに付き合いはじめて、結婚に至ったという夫婦が何組かいます。

さて、こうした恋愛から結婚に至るプロセスですが、実は昔は当たり前では無かったということをご存知でしょうか。

今回の記事では、日本で恋愛結婚が当たり前になっていった一つの「契機」について、「メディア」に関わる視点から捉えてみたいと思います。

 

 ロマンチックラブ

現代の日本で普通になされているような恋愛の形を「ロマンチックラブ」と呼びます。この言葉は一対の男女が恋愛関係によって結ばれることを意味する社会学上の概念です。

「ロマンチックラブ」は何らかの政治的理由は戦略的理由ではなく、男女双方の感情的な結びつきによって生まれるものとされます。

すなわち、江戸時代の政略結婚や、昨今話題になっている結婚詐欺などは「ロマンチックラブ」ではないということです。

こうした「ロマンチックラブ」から結婚に至ることは現代では当たり前になっていますが、実はそうなったのはごく最近のことなのです。まずは下のグラフをご覧ください。

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(国立社会保障•人口問題研究所「出生動向基本調査」より筆者作成)

1930~1940年代ではお見合い結婚が当たり前だったことがわかります。そして、1950年代から1960年代にかけて恋愛結婚の比率がお見合い結婚の比率を上回っています。

この逆転現象には、実はあるメディアの普及とそれにまつわるメディアイベント(マスメディアによって大きく拡散される出来事や催し事)が大きく関わっているのです。

 

 メディアイベントとしての皇太子成婚

そのメディアとは「テレビ」のことです。テレビを通じたあるメディアイベントが人々の恋愛観を大きく変えることになりました。

1953年にNHKとほぼ同時にNTV(現在の日本テレビ)が誕生し、放送をスタートさせました。当時の大卒初任給は800円で、テレビは20万円前後と大変高価だったため人々は主に街頭テレビで番組を楽しみました。

道ばたに人が大勢集まってプロレス中継に見入っている写真や映像を見た事がある人も多いのではないでしょうか。

下のグラフを見ていただくとわかるとおり、テレビは1950年代以降急激に普及していくことになります。

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(内閣府消費動向調査「主要耐久消費財等の普及率」より筆者作成)

テレビの急激な普及には当時の皇太子(現在の天皇)ご成婚が大きな役割りを果たしました。

実際、1958年4月において100万台だった日本におけるテレビの台数は、皇太子と正田美智子さんの婚約が発表された1958年末以降急増し、1959年10月には300万台を超えています。

そして、1959年4月に行われたご成婚パレードの中継はNHK、日本テレビ、KRTの三社によって行われ延べ1500万人の人が視聴したと言われています。

当時の日本の人口が9000万人程ですので、全人口の16%(1400万人)程度の人が視聴したことになります。テレビの普及率が20%(400万世帯)くらいの時代ですので、その視聴率の高さがわかります。

 

 創られた恋愛観

ご存知の通り、戦前戦中の天皇家というのはまさに「雲の上の存在」でした。しかし、このご成婚パレードを一つの転機として天皇家はある意味で「大衆化」していくのです。

現代では、天皇家に関する話題が週刊誌やテレビ番組で取り上げられることは日常的な光景となっています。

そうして映し出される天皇家の姿が国民にとって「ロールモデル」(手本、見本)となったことは想像に難くありません。

現代においてもそうした状況は受け継がれていると言えます。テレビや雑誌では頻繁に天皇家の話題が取り上げられ、関心が無い人でも日常的に天皇家に関する話題を目にする状況になっています。

皇太子成婚パレードの後も週刊誌などによって皇太子の恋愛に関する事情が度々取り上げられていくこととなります。「軽井沢の恋」(最初の出会いが軽井沢であると言われていたため)といったタイトルとともに皇太子の結婚が恋愛結婚であることが強く強調された紙面が見られるようになりました。

そうして国民の間にも「天皇のように恋愛結婚をしても良いのだ(するべきなのだ)」という認識が広がっていたのです。こうして、皇太子の結婚がテレビの普及速度を高め、またそのテレビを通して伝えられた皇太子夫婦の姿が国民の結婚観を変えるという現象が起こったと考えられます。

お見合い結婚をする際には、カップルのマッチングは親や近親者によってなされます。つまり、結婚をする当人同士の意思ではなく、当人たちを取り巻く人々によって相手が決められていたのです。

ところが、ロマンチックラブから結婚に至るプロセスでは基本的に個人の意思によって相手が決められます。お見合い結婚から恋愛結婚が当たり前になる課程で、恋愛と結婚に関わる意思決定のあり方が大きく変化したのです。

 

このように、私たちが今当たり前のものと見なしている「恋愛結婚は良いものである」(ロマンチックラブイデオロギー)ていう認識が昔から当たり前だったわけではなく、一つのメディアイベントを通して「創られたもの」としての側面があることがおわかりいただけたかと思います。

いずれにしても、恋愛は人生に潤いを与えてくれるものだと筆者は思います。それでは、ハッピーバレンタイン!

(「ロマンチックラブイデオロギー」が一般的になった背景として他にも「イエ」的共同体の崩壊や、お見合いを仲介する人の減少など様々な要因があると言われています。今回はその中でも特に強く作用したと考えられる、「メディアイベントとしての皇太子ご成婚」について取り上げました。)

Photo by Danielle Elder 【参考文献

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