【読了時間:約 8分

※前編はこちらです。

 この子は私である。あの子も私である。

橋本:先生は、著作を通じて社会へメッセージを発信されていますね。

小沢先生は、執筆活動もされている。代表作に「愛することからはじめよう」「奇跡がくれた宝物 いのちの授業」などがある。

「愛することからはじめよう」:日本初の重症心身障がい児施設である島田療育園の歴史を、創始者である小林堤樹先生(小児科医)の生涯を通して描いたノンフィクション。大月書店。

「奇跡がくれた宝物 いのちの授業」:小沢先生が伊豆市立天城中学校にて中学生に向けて行った「いのちの授業」を取り上げた本。自分が生まれた日のことを親にインタビューしてきてもらうことで、命の大切さを再確認する。そして障がい者を含めた他者への理解を促す課程を全て実際のエピソードを用いて綴る。クリエイツかもがわ。

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著作と小沢先生

橋本:2冊、読ませていただきました。とても感動しました。「愛することからはじめよう」の中で、小林堤樹先生が障がいを持った子どもたちに接する中で語った言葉として、「この子は私である。あの子も私である」が紹介されていました。とても印象に残っています。先生はこの言葉に込められた小林先生の想いをどう解釈されていますか?

小沢先生:私は、障がいを個性だと思っています。そして、人間誰でも程度の差はあれ、生きるために誰かの助けを必要とするときが来ます。その時期が早いか遅いかの違いしかないと思っています。そう考えると、障がい者を自分とは全く関わりのない存在であると考えることは間違いです。そして、私たちみなが幸せになることができるのと同じように、障がいを持った子どもたち、家族も幸せになることができます。障がいイコール不幸と思うことは間違いです。幸せのかたちは人それぞれです。人はみな幸せをつかむ権利において平等です。私は、家族の中心に障がい児がいて、本当に幸せそうに暮らす人たちを多く見てきました。自分と障がいを持った人は全く接点がない別の存在だというような、そうした間違った決めつけを社会全体がしないように、そんな願いを小林先生もあの言葉に込めたのではないかと思います。

橋本:障がい児との関わりにおいて医療者が注意すべきことはなんでしょうか?

小沢先生:医療こそ、気をつけるべきだと思っています。障がいを持った赤ちゃんが生まれたとき、医者は病名をつけることに一生懸命になって、「赤ちゃん誕生おめでとうございます」の言葉をかけ損ねることがあります。あれはいけません。障がいに対するマイナスイメージを作ってしまっている張本人は、医療なのかもしれません。

橋本:「奇跡がくれた宝物 いのちの授業」の中で、障がいを持った子どもを産んだ母親が感じる「産んだ責任」について触れられていました。私も小児科医として働く中で、自分を責める必要など全くないにも関わらず産んだことを責めてしまうお母さんに何人か出会ったことがあります。その度に心が痛みます。これは避けられないことなのでしょうか?

小沢先生:私は受け入れていく過程には2段階あると思っています。産んだ直後は、みな「産んだ責任」を感じてしまいます。これは10人中10人がそうだと思います。これは社会が悪いとか、そういことではなく、母親としての本能に近い気がします。その後時間が過ぎていく中で、「産んだ責任」などないこと、そして「私の元に産まれてきてくれてありがとう」と心から思えるような段階が来ます。しかし、一部には「産んだ責任」を感じ続けてしまう方がいます。そうさせるのは社会の責任だと思います。

橋本:なるほど。本の中では、「私には産んだ責任がある」と言って、母親が障がいのある娘を殺害してしまった事件について触れられていました。そして、先生は、その母親は娘を生んでからの30年近く、社会に責められ続けていたのかもしれないと書かれていました。悲しい事件が繰り返されないためにも、医療者を含めた社会全体が障がいを持った子どもたちに対して、「この子は私である。あの子も私である」という言葉を胸に接していくことが大切なのですね。

小沢先生:そう思います。

(日本には、約9万人の障がい児がいる。(平成18年、厚生労働省)この数は、出生数の低下にも関わらずほぼ不変で推移している。すなわち、子どもたちの中で何らかの障がいを持っている子どもの割合は横ばい〜増加傾向であることを示している。また、障がいの程度においてはより重症化が進んでいるという指摘もある。その背景として、高齢出産の増加、不妊治療の進歩による多胎妊娠(双子以上の妊娠)の増加、新生児医療や救急救命医療の進歩による重症の障がいを持った子どもたちの救命率の向上が考えられている。)

 

 空は青い

橋本:「奇跡がくれた宝物 いのちの授業」の中で、じっと曇った空を見上げているある自閉症の男の子に先生が「空が曇っているね」と言ったところ、男の子がしばらくの沈黙のあとに「空は青いよ」と答えたというエピソードがありました。そのとき、空の半分は雲が覆っていたけれど、その子に言われてはじめてその先に小さく広がる青空に気づいてはっとしたとありました。このエピソードはとても心に響きました。自閉症の子が持つ潜在能力をよく表していると思いました。しかし自閉症をはじめ、発達障がいを抱える子どもたちへの理解はなかなか進んでいません。

小沢先生:そうですね。私の外来にある日「(違う病院で)うちの子、自閉症って言われちゃった」と言って泣きながら入ってきたお母さんがいました。将来的にもコミュニケーションが上手にとれるようになることはないなどと、悲観的なことを訴えながら泣き続いていました。そのとき、私は横で話を聞く自閉症と診断された息子さんが涙を流していることに気がつきました。私は、「ほらお母さん、彼も泣いているよ」と言いました。「この子、お母さんが大好きなんだよ。お母さんが泣けば彼も泣く。お母さんが笑えば彼も笑うんだよ」と声をかけました。それを聞いたお母さんははっとして泣き止みました。それ以降そのお母さんの涙を見たことはありません。

2島田療育園には様々な設備が整っている

名称未設定遊びを通して子どもたちの発達を促していく

 

 出会いが大切

橋本:「奇跡がくれた宝物 いのちの授業」の中の「いのちの授業」は中学生を対象にしていました。命の大切さや障がい者への理解といったメッセージは、どうしても中学生というまだ固定観念のできあがっていない世代に向けて発するからこそ響くのではないかと思ってしまいました。本の中にはとても大切なメッセージがたくさん詰まっていましたが、固定観念を持ってしまいがちな大人たちにこうしたメッセージがどこまで響くのか、少し不安になりました。もし、大人に向けていのちの授業をするとしたら、どのような内容を考えますか?

小沢先生:内容は同じになると思います。実は大人に向けてこの「いのちの授業」について講演したことがあります。招いてくれたある学校のPTAの会長さんは最後の挨拶のときに涙していました。私は何かを伝えるのに、年齢は関係ないような気がします。あとは、伝える機会をこちらが作ることができるか、出会うことができるか、ということだと思います。

橋本:なるほど。

小沢先生:本や講演を通してなるべく多くの人に伝えたいと思っています。ただ、本を手にとってくださったり、講演に来てくれる時点で、そういう方々はもう気づいているのかもしれません。そもそもあまり興味がないという方々の心にどう届けるかを日々考えています。

橋本:そうですね。何かいいアイデアはありますか?

小沢先生:そうなるとやはり、無関心な大人にならないように、小さいときからの出会いの機会を多く作ることかなと思います。障がいを持った子どもたちとの出会いの機会を早い時期から持つことができたらいいですね。

橋本:ありがとうございました。

不登校、自閉症、障がい児・・・、さまざまな境遇の子どもたちがいます。その子たちを支える家族がいます。そして、その周りには社会である私たちがいます。それは決して分けられた世界ではなく、繋がっているはずです。お互いに対して無関心であってはいけません。誰もが幸せになることができます。そして誰もが誰かの幸せのお手伝いができるはずです。そんなことを小沢先生のお話を通して感じました。子どもたちに日々寄り添い続ける小沢先生の言葉だからこそ、心に響きました。

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