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 SonyのMusic UnlimitedがSpotifyと連携へ

日本において数少ない音楽定額配信サービスである”Music Unlimited”を提供していたSonyが、世界的に展開している”Spotify”との戦略的提携を結ぶことが発表されました。

これに伴い、現在提供されている”Music Unlimited”はサービス終了となり、今春を目安に新たな音楽定額配信サービス”Playstation Music”を開始します。しかし、”Spotify”が日本でのサービスを提供できていないこともあってか、日本でのサービス開始日は未定となっています。

ただ未定とはいえ、いずれ日本でも”Spotify”がサービスを開始することは日本の音楽市場、そして世界的な音楽市場の流れからも避けられないことだと思われます。

今や世界の定額配信サービス市場のマーケットリーダーとなった”Spotify”に対して、どのようなビジネスモデルが有効となり得るのか。そうした観点から、本稿では今後想定されうる日本での音楽定額配信サービスの形を探ってみたいと思います。

まず、”Spotify”の特徴を概観していきます。

 

 ”Spotify”の特徴は

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(Photo by wikimedia)

“Spotify”とは、2000万曲以上のライブラリーから聴きたい音楽をいつでも聴くことが出来る、スウェーデン発の音楽定額配信サービスです。

無料会員と有料会員の2つのオプションがあり、現在約2400万人のアクティブユーザーを抱えており、そのうちの約600万人が有料会員とされています。

無料会員と有料会員の大きな違いは曲をオフラインで保存できるかどうか、広告が付くかどうか、そして音質の差、となっています。曲数に制限がないのが大きな魅力の一つとされているようです。

有料会員になるために必要な費用は月額9.99ドルで、この価格は他の競合サービスと比べて特別に低いわけでもなく高いわけでもないという価格設定となっています。

音楽配信の音質ですが、最大で320kbpsという数値となっています。これはCDと全く遜色がない音質であり、月額課金で聞き放題という形式でありながら非常に高品質の音楽を利用できるというのも”Spotify”の重要な特徴の一つです。

また“Spotify”を支える魅力の一つに、ソーシャル機能との結びつきの強さが挙げられます。

*聞いた曲をSpotifyやFacebook上でシェアできる

*友達の聞いた曲がオススメとして紹介される

*Spotify上に存在するユーザーのプレイリストを分析し、「トレーニング用」「イタリアンディナー用」といった、状況やムードに合った曲が詰まっているプレイリストを提供する「Browse(ブラウジング)」機能がある

また、これに加えてユーザーにとって新しい音楽を推奨してくれる機能も持っており、”Spotify”がソーシャル機能を通じて新しい音楽との出会いを演出しようとしている、という意図が読み取れるのではないでしょうか。

このような特徴を持つ”Spotify”に対して、日本では現在どのような音楽定額配信サービスが展開されているのでしょうか。簡単ではありますがまとめてみます。

 

 日本での定額配信サービスのプレーヤーは?

冒頭でも示したように、主要なプレーヤーであった”Music Unlimited”が撤退した今、現在の定額配信サービスの中で大きな力を示しているのは”レコチョクBest”です。また運営会社のレコチョクは他社サービスにも音源を提供しており、事実上の独占状態に近いと言えます。※1

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各サービスの特徴を簡単に概観してみます。

*レコチョクBest…月額980円でJPOPを中心に150万曲を提供。より安い値段で個別アーティストだけで利用することも出来ます。

*dミュージック…ドコモの契約者に対してのサービスで、レコチョクBestと価格・サービス内容ともに大きな差はありません。

*うたパス…月額300円という抑えた価格で、自由に選曲することは出来ませんが、ジャンル別・シチュエーション別に合わせたチャンネルを選択するラジオ型音楽配信サービスです。

*ひかりTVミュージック…基本的にはレコチョクBestと同じですが、再生履歴などからユーザーの好みを分析し、新しい曲を提案してくれるレコメンドサービスがあります。

*UULA…月額490円で音楽以外にも映像コンテンツなどを利用できるサービスです。音楽配信の特徴は”Auto Play”というもので、関連コンテンツを自動的に再生してくれるというものです。

シチュエーションなどに応じたチャンネル型、レコメンドなどといった特徴がそれぞれ存在していますが、曲数・音質に差はなく、またこうした特徴は殆ど”Spotify”にも備えられており、十分な差別化要因にはならないと考えます。

そこでここからは、国内・海外、規模の大小などは関係なくコンセプトに注目して二つの他サービスを見ていき、”Spotify”に対抗するために有効なビジネスモデルはどのようなものであるかについて考えてみたいと思います。

 

 ”Spotify”に対する差別化

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各サービスのポジショニングを理解するため、図のような2軸を用いて分析を行っていきます。

横軸はサービスが対象とする顧客ターゲットを広く取るか狭く取るか。縦軸はサービスに関してコストを標準に、もしくは低くするか、対してコストが高くなったとしてもマーケットリーダーと比べてサービスを差別化させていくか、といった分け方をしております。

例えば先ほどの日本における音楽定額配信サービスは例えば次のように分けられます。

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顧客ターゲットを広く取ったビジネスモデルの中では多様性が生まれています。

しかし、これは日本で展開されている大きなサービスのみで考えた場合であり、レコメンドサービスを視野に入れ、シチュエーション別チャンネルを提供する”Spotify”と比べると大きな差別化にはならない、とここでは考えます。※2

さて、これを踏まえた上で、”Spotify”との明確な差別化を実現しているサービスを見ていきます。サービスの規模、国内外については区別しておりませんのでご了承ください。

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1.高音質志向[ターゲットは広く、サービスの差別化を行う]

世界音楽市場において”Spotify”のライバルとされているのが”Deezer”です。

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(Photo by wikimedia)

現在180ヵ国以上で展開しているこのサービスの最大の特徴は、ロスレス圧縮という手法で提供される音質の高さです。”Spotify”は320kbpsという値でしたが、”Deezer”が提供する音質は1411kbpsという値で、その情報量は2倍以上です。

その分月額料金は”Spotify”と比較して高いですが、曲数は約3000万曲と申し分ないものとなっています。

日本においても、ハイレゾ音源の販売数が好調であることからも高音質に対する一定の需要があることは間違いありません。同じようなポジションのサービスが力をつける可能性は非常に高いと思われます。※3

 

2.インディーズ集中[ターゲットを狭く、提供コストは低く]

次に敢えて顧客ターゲットを狭くしたサービスをご紹介します。それが、日本でサービスを提供している”Frekul”です。

このサービスのコンセプトは、登録してもらったインディーズアーティストの楽曲は無料で配信し、そこで気になったアーティストとのダイレクトな繋がりを持つことを支援するというものです。

登録形式なので楽曲数こそ少ないのですが、まだ見ぬインディーズアーティストと出会う、というコンセプト自体は市場のニッチ層を取り込むことが出来得るモデルではないでしょうか。

まだまだ規模は小さいですが、インターネットという場を活用したインディーズアーティストに特化した定額配信サービスはある程度の需要を取り込めると思います。

 

 対抗案として新しいモデルの提案

ここからは現在はまだありませんが、日本の文化的特色を活かした新しい定額配信サービスのありかたを先ほどのマトリクスを使って提案してみたいと思います。

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*同人音楽に焦点を絞る[ターゲットを狭くする]

ここで触れたいのは、ターゲットを絞ったビジネスモデルの新しい可能性です。特に、主にニコニコ動画上で発表がされるボーカロイド楽曲、及びその派生作品(歌ってみた)を活用した音楽定額配信サービスの形についてです。

インディーズアーティストと同様に、ボーカロイド楽曲にもかなりの需要が存在しています。

ボーカロイド関連楽曲のCDの頒布を目的とするイベントである「THE VOC@LOiD M@STER」の一般参加者数は年々増加しており、また世界最大級の同人作品即売会「コミックマーケット」でもボーカロイドは人気のコンテンツです。

現在、“Nsen”というニコニコ生放送のチャンネルで全楽曲をまとめたストリーミング配信チャンネルは存在していますが、その機能に特化する独立したサービスはまだ存在していません。

有料化するにはかなりの障壁が存在すると思われますが、無料配信で広告収入によるビジネスとするだけでも、市場のニッチ層をベースに顧客需要を取り込みうるサービスに成長出来るのではないかと思われます。

 

 日本での定額配信サービスの行方

日本における定額配信サービスの状況は、市場規模が伸びてきているとはいえ、先ほども述べたようにまだまだしっかりと特徴を押し出したプレーヤーが出揃ってきていない状況です。しかし、今後”Spotify”の進出などによって変化を強いられる局面になることは間違いないと思います。

そうして何かしらの差別化を求められたときに、それぞれどのように変わっていくことになるのでしょうか。料金を低くしてコストでの優位を取りに行くのか、それとも音質面、または幾つかのジャンルに特化してサービスの質的な差別化を図るのか。

日本はこの市場における出足が出遅れていることを今一度踏まえた上で、今後の変化の可能性を探っていくべき時を迎えているのではないでしょうか。

Photo by pixabay [注釈•参考文献]

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