佐藤慶一×小川未来×前島恵「ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集•メディア論」先行インタビュー(前編)

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Credoは2015年3月でリリースから1年を迎えます。これからはwebだけではなくリアルな場でも施策をしかけていきます。Credo night はその中の一つで、アカデミックやメディアまわりのゲストをお呼びして様々なことについて一緒に考える場です。

第一回である今回は若手編集者である佐藤慶一氏と小川未来氏をゲストにお招きし、これからライターや編集者を目指す若い層へ向けた編集論•メディア論を展開していきます(今回の主催はCredoではなく書店B&Bです)。

今回、イベントに先立って二人にお話を伺いました。前編ではイベントの主旨と二人の編集者としてのこれまでの経緯について、そして後編では現在の日本のメディア状況に対する問題意識とイベントで伝えたいことについてお話を伺いました。

 

 Credo night とは

前島
お二人とも今日はありがとうございます。まずは、Credo night開催に至った三つの理由についてお話しておきます。一つは対面のコミュニケーションの必要性を感じたこと。webでの解説だけで読者の要望に応えるのには。ですので、既に述べたCredo自体の目的を補完するものとしてイベントを考えています。もう一つは最近、ライターさん自身を応援してくれる読者が増えてきたことです。 
前島
Credo本体よりもライターさん個人の属性を強く認識してくれていて、「この人だから応援しよう、記事を拡散しよう」ということが起こってきています。そうした状況の中で、ライターさんと読者の方が直接交流できる場があっても良いのではないかということですね。三つ目はCredo自体をもっとコミュニティ化していきたいということです。せっかく様々な分野の専門家の卵が所属してくれているので、読者もゲストも含めて様々な相互作用•化学反応が起こる場にしていきたいと考えています。 
小川
なぜ第一弾のテーマが「編集」なのでしょうか。 
前島
理由として、すごく大切なテーマなのに世の中において軽んじられているということがあります。世の中の多くの人は編集に対して、ただ誤字脱字をチェックして、右からきたものを左に受け流すような行為だと思っているのではないでしょうか。それは大きな勘違いだと思っています。編集とはコンテンツに思想を混ぜ込む行為です。そういった意味では編集者のことを「クリエイター」と言っても良いと思うのですよね。 
前島
例えばシンプルなインタビュー記事ですらすべての発言を記事にするわけではなくて、情報をかいつまんで記事にするわけですよね。そこで何をかいつまむのかによって読者の印象は全く変わってくるのです。今あるものの組み合わせを変えたり、見せ方を変えたりするわけです。そういった意味では世の中で思われているよりもずっと編集はメディアのあり方に本質的に関わってくるものだと考えています。Credo自身のためにもこのイベントを通して「編集」の価値や意味について捉え直していきたいと考えています。 

 

 佐藤氏の編集者遍歴

前島
 それでは、早速ですが佐藤君から編集者としてのこれまでの経緯について聞かせてもらえますか。
佐藤
僕の編集者やライターとしての活動は大学3年生の時にNPO法人グリーンズが運営するwebマガジン「greenz.jp」でライターインターンを経験したことに始まります。そこでは週に1回ミーティングがあって、毎月2本くらい記事を書くという形でやっていました。4ヶ月のインターンの前半では海外のグッドアイデアを日本語でわかりやすく読者の方々の自分ごとになるように紹介する経験をして、後半はインタビュー記事の企画•執筆をやっていました。
佐藤
そもそも大学でも難民問題などを勉強していて、社会性の高い事業には興味があったのですが、支援にあたるNPOやNGOの情報発信がうまくいっていないという問題意識を持っていました。「greenz.jp」は4ヶ月ごとにインターンが流動していくので、インキュベーション(人を育てる組織)としての機能は高いと思います。特に初期は「greenz.jp」の理念に共感して集まって来た人が多く、モリジュンヤさんとか、植原正太郎さんなど今も活躍している人が多いですね。
佐藤
そうした中で、NPOの取り組みや社会課題について記事を書いてももともと関心のある人にしか読まれないという問題意識が生まれました。そして、商業メディアでも編集やライティングの経験を積みたいと思い、企業のコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業で編集アルバイトとして働き始めました。
前島
 非営利と商業メディア両方経験している人は珍しいかもしれないですね。二者に違いはありましたか?
佐藤
企業のオウンドメディアについては、読者とクライアントの両方を気にかけなければならない難しさは感じましたね。そういった意味では、広告的な記事の枠をどのように抜けることができるのか、ということが課題だと思います。そうした文脈で言うと「greenz.jp」はいまでは広告モデルから脱却し、コミュニティから寄付を集めるモデルに移行しつつあるので、記事や企画の自由度は高いでしょう。「greenz.jp」のインターンを経験して良かったことは、インターン中そしてインターン後も含めて、何をやりたいのかということを常に問われたということですね。
佐藤
明確な答えは出ませんでしたが、「自分は何の為にライター•編集をやるのか」という動機の部分に頭を向ける良い経験ができましたね。自分がやりたいことと編集との関わりを問う経験ができたことは今の活動にもいきていると思います。しかし、「greenz.jp」のインターン、そしてメディア企業でのアルバイトを終えてからは、就活しなければいけないとは思っていたのですが、悩み過ぎて身体が動いていませんでした。
佐藤
編集者になりたいとは思っていたので、引き続き編集関連の求人を探していると、Wantedlyで講談社・現代ビジネス編集部の人材募集を見つけて応募しました。その後一度面接をしていただいて採用が決まった感じですね。若くて数年間編集やライターの経験があったというのが大きな要因だったのだと思います。
前島
 webしかやったことがないというのは、新しいことをやろうとしている現代ビジネスにとって強みになったのかもしれないですね。ある媒体で編集をしているとその媒体の「らしさ」が自分に染み付いてしまって、なかなか新しい環境に適応したり新しい発想をしたりということができなくなるイメージがあります。現在の職場ではどのようなことをしていますか?
佐藤
今は連載してくださっている方々から届いた原稿に手をいれて編集をしていますね。自分が企画した記事に関してはアポ取り、文字おこし、写真、ライティングまで一通りやります。意識していることとしては「greenz.jp」時代から共通していて、自分にしか出せない価値は何なのかを常に問うています。
前島
 今後の目標については何かありますか?
佐藤
「横断的な編集者」になりたいですね。ジャンルや媒体を越えて経験を積んでいきたいです。そういった意味では、取材対象やコンテンツに応じて適切かつ効果的な届け方ができる編集者になりたいと考えています。今はweb媒体でやっていますが、将来的にはアプリや紙媒体でも経験を積みたいですね。あとは、世の中に出ていない人や問題を発掘して伝えていきたいので、そうしたものに日々アンテナを立てて過ごしています。

 

 

 小川氏の編集者遍歴

前島
 佐藤君ありがとうございます。それでは、次に小川君について聞いていきたいと思います。小川君は何がきっかけで編集者になったのですか?
小川
 高校3年生の3月に米光一成さんという方の編集・ライター講座に入ったのが始まりですね。今もそうですけど、自己表現をしたいという欲求は強い一方で、自分で何かを1から作るということはハードルが高い、そういった気持ちにライター•編集というものがうまくフィットした感じですね。文字を書くならぼくでもできると思って(笑) その講座は、デジタルコンテンツに対して大きな期待をかけつつも、編集の価値観みたいなものは従来の紙メディアに近いんですよね。
小川
米光さんはぷよぷよの作者で、元々はゲームデザイナーなのです。根本的に面白いものは何かということを考え続ける人で、媒体が紙なのかwebなのかということにはこだわってなかった。「コンテンツの面白さを実現するためにはどんな媒体が良いのか」という問いを持っているということですね。そういった価値観はPV主義とは明らかに異なります。僕は将来的に「越境的」な編集者になりたいのですが、その原体験はここにありますね。
前島
二人の話を聞いて、二人が言う「編集」とはどのようなものなのか何となくわかってきました。基本的にコンテンツベースでものを語っているんですね。媒体ベースでものを語ると、webだとこういう形、紙だとこういう形という風にコンテンツのあり方まで決まってきますが、コンテンツベースの考え方だとそのコンテンツに適したメディアは何なのかという具合に発想の自由度が全く変わってくる。やはり小川君が大事にしている、そうしたコンテンツをベースにした発想の自由さみたいなものはゲーム畑出身の人が師匠ということも大きいのですね。
小川
 でも、当時僕の気持ちとしてはライター寄りだったのです。編集ってよく分からなかったし、自分で直接表現したかったし(笑) ただ、米光さんから出される課題に何度も挫折して、不完全燃焼感はありました。「ライターに向いていないなら編集・プランニング系かー」くらいの気持ちになって。
小川
 それで大学2年のときに、ソーシャルゲームの会社で10ヶ月企画職のインターンをやったのですが、その時はある意味期待を裏切られました。ソーシャルゲームって一種のデザインなんですよね。どこでチャンスを起こして射幸心を煽って課金させるか、といったユーザー行動をデザインしていく。少なくとも2011年当時のソーシャルゲームはそうでした。個人的にソーシャルゲームは好きじゃないのですが、そういった嗜好とは別にがっかりしました。それで、その年の終わりに大学を休学します。
小川
色んなものを見限ったのは良いけれど、じゃあ何をやるのかというところに答えを持てていなかったのでしっかり考えたかったのです。色んなイベントをTwitterでテキスト中継していく「Twitter実況」を始めたのもこの時期ですね。最初はSFCの授業でやっていたら友達に喜ばれて、知り合いだったブロガーのイケダハヤトさんが「僕のイベントでも実況してください」と声をかけてくれました。
小川
 その後はイケダさんの友達に呼ばれてやったり、仕事として六本木アートナイトなどの大きなイベントを実況したりしました。そうした中で、Twitter実況という行為が自分の経験と結びつけられて「これも一種の編集だな」と思うようになりました。越境的なメディア編集です。その後イベント企画や電子書籍の制作・編集も経験して、やっと「自分のキャリアステップの軸としてはメディア横断的な編集で良いのかな」と思うようになりましたね。

 

 二人のキャリアプラン

前島
今後のキャリアプランとしてはどういった目標を持っていますか?
佐藤
先ほども少し触れましたが、これからやりたいことはアプリか雑誌や書籍などの紙媒体ですね。webはある程度求められるものはきれいな部分も表には見えていない部分もなんとなく掴めて来たので。今後は他の媒体をやってみたいですね。
佐藤
雑誌はやっぱり、リトルプレス(個人で発行して販売する本:編集部注)などよりは個人で旗を立てて、一人の思いや考えから始まるちゃんと手に取れるプロダクトが共感を呼んだり売れたりするのではないかという思いはありますね。webですとどうしても 読者や広告主の顔を見ながらになってしまいますが、紙だと webに比べて編集者のかたちにしたいことを実現できると思うので。
前島
今のWebの仕組み上、コンテンツの価値が極限まで低くなってしまうことは仕方ないですよね。良くも悪くも頑張って一次情報を出してもすぐにコピーされてしまうので。オープンソース的思想から生まれたWebにコンテンツを載せるという行為が宿命的に抱えている問題だと思います。
前島
ですので、これからメディアで食べていくためにはクローズドなコミュニティを作っていくことが一つの方法としてありえると思います。紙だと簡単にコピーはできないし、それをファンに届けて行くことができるし。
佐藤
よく紙媒体の方がなぜ文化をつくりやすいのかということを考えますが、やはり、webのように1本1本バラバラに閲覧して消費するのではなく、紙媒体はパッケージのメディアなので編集者の一貫したメッセージや世界観をまとうことができるからでしょう。
佐藤
また、webだと何でも数字として出てしまうというのも一因としてあると思います。webでは売り上げが数字で出ますが、コンテンツがPVやランキングで可視化されてしまう。紙だとそういった評価無しにコンテンツと向き合えますから、そうしたことが文化形成に繋がり、読者の支持を得ていくのだと思います。そういった面でも紙に逆張りすることの必要性を感じます。
前島
新聞の強みはそこだったのだと思いますね。固定ファンがいて、毎月お金がもらえて、紙ベースのコンテンツなので順位づけされていない。だから思いきって些細だけど記者や編集部が重要だと思うことにリソースを割ける。そうすると、各紙の特色が出てくるし、文化ができてきて読者がついてくる。改めて良い循環だなあと思います。
小川
 僕は「モノ•コト」を作りたいですね。「コト」とつけているのは物質だけではないということを表しています。イベントやったり、webやったりということですね。来年からはリクルートに入社しますが、入ってからも紙だけではなく、ウェブ・イベント・キャンペーンなど色々編集する。そして、これから少なくとも10年は、現場でモノ・コトをつくっていきたいです。
小川
 具体的には、3・4年で編集長かメディアのリニューアルをやりたい。今後世の中に最大100万PVくらいのメディアが増えていくことは良いと思うんですけど、僕はひとつのメディアの運営者ではなくて、編集者として身軽に動いて行くなかで、会社でまずはマスなものをやりたいと思っています。今後マスなものを経験している編集者は減って行くと思うので。
前島
ありがとうございます。後編では二人が今日本のメディアにおける編集者やライターについて持っている問題意識について聞いていきたいと思います。

後編はこちらから

※イベントの予約は会場であるB&Bの下記webサイトからお願いいたします。

佐藤慶一×小川未来×前島恵ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集•メディア論

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