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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は3日、アメリカの連邦議会にて約40分にわたる演説を行いました。国内外の報道によれば、同演説でネタニヤフ首相は「イランは核兵器を入手するという野望をあきらめていない」等と主張し、イランとの対話を重視するオバマ政権を牽制したようです。

 

 中東以外でも大きな論争に

今回のネタニヤフ首相の演説は、米・イスラエル関係者のみならず、中東をはじめとした世界各国・地域において大きな論争となっています。ある調査によると、ネタニヤフ首相の演説内容に関するツイート数は、演説中に60万件を突破し、同日中には100万件以上に達したと言われています。

ネタニヤフ首相の今回の演説を受け、国内外の有識者の間では米・イスラエル関係の「終焉」や「冷え込み」等が囁かれていますが、スピーチ全体から受ける印象は、過去から現在そして将来における米・イスラエルの強い協力関係を強調したものであり、一概に反米的なものとは言えません(※1)。確かに同演説では、米国の対イラン外交が批判的に検討されています。しかしその一方で、イランが今後取るべき方向性を提示するなど、建設的な部分も含まれています。

では、ネタニヤフ首相は議会にて具体的に何を、どう語ったのでしょうか。そして米・イスラエル関係は今後どうなるのでしょうか。本記事ではこれらの問題意識のもと、ネタニヤフ首相による演説とその背景について解説します。

 

 ネタニヤフ首相は何を、どう語ったのか

ネタニヤフ首相の演説はまず、米国議会に対する賛辞から始まり、米・イスラエルによる同盟関係を「いつ如何なる時も、政治的関係を超えたものである」と評価しています。また、これまでの米国による対イスラエル支援については、オバマ大統領の名を挙げつつ、支援の具体的事例を挙げて最大級の謝辞を述べています。

その上でネタニヤフ首相は、同演説を「私たちの祖国の存命と人々の将来が『イランの核開発』により脅かされている問題について話す」機会であると述べ、米国による対イラン外交を検討しています。

 

 米国による2つの妥協とそれに続くもの

ネタニヤフ首相は、現在のオバマ政権による対イラン外交は「イランの核開発を阻止するものではなく」、むしろ米国はイランに対して2つの点で妥協しただけである、と主張しました。1つ目の妥協は、イラン国内の核関連施設に対する査察を棚上げし、核開発のための更なる時間を与えてしまったことであり、2つ目は10年余に及ぶ対イラン制裁を緩和したことである、と述べました。

同首相によれば、1つ目の妥協は「重大な懸念の源泉(a source of great concern)」であり、2つ目の妥協は「更に大きな危機を招くもの(an even greater danger)」であるとされます。

同首相は「イランの急進的な政権は、今回の交渉を経たからといって、良い方向に向かうとは思えない」と述べながら、今回の交渉は「中東全体を不安定化させるだけである」と指摘しました。「核の不拡散(nuclear proliferation)」ではなく、「核武装の競争(a nuclear arms race)」をもたらすものであるとも指摘しました。

 

 イランがすべきこと

ネタニヤフ首相はまた、現イラン政権がすべき3つのことを主張しています。それらは順に(1)近隣諸国への攻撃的行為を止めること、(2)世界中のテロリストグループへの支援を止めること、(3)イスラエルを殲滅しようとする威圧的な行動や脅しを止めること、です。

同首相は続いて、イランが今後取るべき選択肢として2つの可能性を提示しました。1つ目の選択肢は、イランの核開発への野望を一時的に隠しながら、核開発を着実に進めることが出来る交渉を行うことです。2つ目は、より厳しく難しい選択肢であると前置きしながら述べたもので、それは同国が核開発を止めることにより、中東の非核化が進むような交渉を行うことです。2つ目の選択肢については、全人類にとっても最良の状態を招くものであるとも指摘しました。

イランに第2の選択肢を取らせることは、イスラエルのみでは難しいと示唆しつつ、ネタニヤフ首相は「イスラエルが一人で立ち向かうことになれば、一人でも立ち向かわなければならない」が、「私は米国がイスラエルと共にあることを知っている」と主張し、米国とイスラエルとの強固な関係を支持しました。

 

 ネタニヤフ首相による演説の背景

ネタニヤフ首相による米議会での演説は、過去に2度ありましたが、今回の演説にはどのような背景があったのでしょうか。1つには、演説中にも幾度として言及された米国による対イラン外交の方向性が、今年に入りより鮮明になってきたことが挙げられます。オバマ大統領は1月の一般教書演説において「新たなイランへの制裁は、これまでの外交努力の失敗を保証するもの」とし、イランとの外交交渉を強く主張しました。これはイスラエルの対イラン外交と真っ向から対立する内容でした。

米国の共和党議員はこの機会を捉え、オバマ大統領の承認を得ずに、ネタニヤフ首相の訪米と演説に向けて動き出しました。当初は2月中の演説が予定されていましたが、最終的には今月3日となりました。

共和党議員による単独的な行為に対しては、当然のことながら民主党側からの批判が相次ぎました。実際、今回の演説に際して、民主党議員ら50名以上が演説をボイコットしました。バイデン副大統領も外遊を理由に欠席しました。

オバマ大統領は、ネタニヤフ首相との会談を拒否しました。米紙ワシントンポストが伝えているところでは、オバマ大統領はネタニヤフ首相の会談内容について、厳しく反論し「ネタニヤフ首相の提案は全く無意味なものだ」等と話したようです(※2)。

2つ目の背景としては、イスラエルの国内事情が挙げられます。イスラエルでは、約2週間後に選挙戦が控えており、今回のネタニヤフ首相の演説はイスラエル国民向けであったと指摘する記事もあります。真相は分かりませんが、ネット上の調査では、44%がネタニヤフ氏の支持を強めたと回答し、43%が特に影響はない、12%が支持を弱めたと回答しているようです(※3)。

 

 米・イスラエル関係の今後は

ネタニヤフ首相の演説を受け、国内外の有識者らの見解は大きく2つに分かれているのが現状です。肯定的な立場からは、今回の演説は米国による対イラン外交のみを批判したもので、米・イスラエル関係全体には特に影響はない、とする議論が提示されています。

他方、否定的な立場からは、米・イスラエル関係は歴史上最悪の関係悪化に陥り、イスラエル対イランとの交戦さえ危惧する議論もあります。

世界有数のシンクタンクである米国のブルッキングス研究所が、演説の翌日に載せた議論はタイトルからして論争的です。同タイトルは「イランよりも大きい:荒波が待つネタニヤフ・オバマ関係(“Bigger than Iran: stormy seas ahead for Netanyahu-Obama relationship”)」です。

米国による対イラン外交と今後の米・イスラエル関係から目が離せません。

注釈一覧】 Photo by thierry ehrmann

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