メディアのブランド化には「編集」の技が必要?人とお金を動かすメディアづくりのヒント【書評】

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Credoでは3月25日に開催されるイベント「ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集•メディア論」に合わせて、当日取り上げる本の書評記事を公開していきます。今回は嶋浩一郎著『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』についてです。(今回の記事はゲストである佐藤慶一氏からの寄稿記事です)

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2014年はキュレーションメディアやニュースアプリなどが盛り上がり、メディアやコンテンツをめぐるさまざまな可能性や課題について議論がされました。特に新興メディアにとって、信頼性やブランドづくりといった要素が課題としてあり、それらの解決が今後の可能性につながるものだと考えます。

人やお金を動かすメディアをつくるためには、どのようなことが必要なのでしょうか。そんな問いに対して、『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』という本はヒントを与えてくれます。

本書では、ヤフーニュースやR25、ブルータス、メトロミニッツ、テレビブロス、そのほか新書やブログ担当者など、11名の編集者の考え方を知ることができます。2010年に出版されたためデータなどは一部古い箇所があるものの、根底にある考え方や視点は参考になるものばかりです。本書で登場する数名の言葉を紹介します。

 

 顧客が求めるものを把握せずに、いい編集はできない

ヤフーニュースを当時担当していた奥村倫弘氏は「編集の妙味って、切り捨てることにあるんだと思う」と言います。13.5文字のトピックスタイトルを考えるのは、現代の編集(本書の中では俳句と呼んでいます)と言えるでしょう。テレビのテロップや映画の字幕、新聞の社説などもこの程度の文字数であり、パッと目に入ってくるボリュームであるとのこと。奥村氏がタイトルの短縮をどのようにしているのかというと、言葉を言い換えるか、一見関係のない言葉を使ってユーザーに想起させるように持っていくという2通りの方法をとっているそうです。ネットでは特に後者を考える力をもっているかどうかが絶妙な編集ポイントになるのではないかと思います。

また、奥村氏はヤフーニュースはメディアかそうでないかということに関しては明言できないとしていますが、「伝えるべきことを伝えたい」との思いを持っているようです。極端な話、社会問題など堅いトピックは目に入ってもらえればクリックされなくてもいい、との発言は月間100億ページビュー(当時は月間45億ページビュー)が集まるからこそ持てる姿勢なのだと感じます。

また、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「PVをとれるニュースサイトのつくり方」という章にて、PVをとれる要素を9つ挙げています。それぞれ、突っ込みどころがある、B級感がある、意見が鋭い、テレビが紹介したもの・ヤフトピが選んだもの、モラルを問うもの、芸能人関係、エロ、美人、時事性があるもの(当時ライブドアブログメディア事業開発室室長だった田端信太郎氏はこれらに「他人の不幸」を追加)。

ほかにも、「主体の人気度」×「ギャップ感」×「時事性」といった方程式も紹介されています。別の章では元光文社新書 新書編集者の柿内芳文氏は身近度、中身度、対話度、衝撃度の4つを紹介しているので、合わせて参考にできそうです。もちろんタイトル付けの技術は参考になりますが、中川氏は編集するメディアがなんであれ、顧客が求めるものを把握できないと良い編集もできないという重要な指摘をしています。

 

 「雑誌の編集は、常に『ちょっと先』を一生懸命見つけること」

ネットニュース編集者らの言葉を紹介しましたが、紙媒体の編集者についてもいくつか取り上げます。当時のメトロミニッツ編集長の言葉には、フリーペーパー編集で生まれたものばかりですが、ウェブメディアに通じる部分もありました。「今は買ってもらうことよりも、まず確実に情報に接触してもらうことが大切な時勢だと」考え、「雑誌を買って」ではなく、「あなたの時間を少しだけください」というアプローチの切り替えをおこなったとのこと。まずターゲット層の時間(メトロミニッツでは通勤時間)に入り込むことができなければ行動も消費も生まれない、という姿勢です。近年ではさまざまなアプリやゲームの登場により、いわゆる「時間の取り合い」が激化しているなかで、上記の言葉は示唆的です。

そんなメトロミニッツでは広告・企業情報の入れ方には特徴があり、3つの視点を取り入れているとのこと。ひとつはドラマに自然と商品が登場するドラマ型、2つ目は商品特徴を印象的に見せるライバルとの対比型、そして思いもよらない利用法を示す提案型です。特に提案型では、「意外性」「実現可能性」「物語性」が組み込まれていると良いとしています。

最後に、ブルータス編集長・西田善太氏の章「『ブルータス』が『ブルータス』であるために」について紹介します。売るため、広告を取るため、色を出すため、という3種類で特集を考えていることはブルータス好きの方は知っていることかもしれません。売れるものばかりではファン離れもしてしまう可能性もありますが、色を出すための号がブランドづくり、つまりブルータスがどんな雑誌であるかを表現することにつながる貴重な意味をもっているとのこと。

「雑誌の編集は、常に『ちょっと先』を一生懸命見つけること」とも書かれていますが、ブルータスでつくるストーリーは、いまの興味の「ちょっと先」を設定しており、広告クライアントにも同様に説明しているそうです。また、「すべてを過剰に」という姿勢もブルータスならではのこだわりです。なにを特集してもブルータス的になるほどブランドが確立されている媒体ですが、徹底的に調べ、切り口を考え抜くことで、確固たるブランドをもったメディアになっているのでしょう。関係ないと思われていることや、無理だとされていることを横断し、つなぐためにオーバーアチーブすること、そこに編集者としての矜持を感じることができます。

紙・ウェブ媒体の世界を知りたい。ライター・編集者をしているなかで著名なプレイヤーがどのような考え方のもとでメディアづくりをおこなっているか知りたい。そんなとき、『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』は必ず推進力になるような本であると思います。

【プロフィール】

佐藤慶一
編集者。1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。学生時代にNPO法人グリーンズが運営するウェブマガジン「greenz.jp」のライターインターンやコンテンツマーケティングを手がけるメディア企業での編集アルバイト経験を経て、フリー編集者として講談社「現代ビジネス」の企画編集・ライティングをおこなう。ブログ「メディアの輪郭」を運営。

Photo by Marc Smith

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