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 クールジャパン機構が新たな投資案件を発表

2015年3月4日、日本の魅力的な文化を”クールジャパン”として海外に発信していくための官民ファンドであるクールジャパン機構が新しい投資案件の決定を発表しました。以下、日本経済新聞より引用いたします。

“政府と民間で出資するクールジャパン機構は4日、衛星放送大手のスカパーJSATと共同で日本の魅力を海外に広める番組配信会社を設立すると発表した。出資額は110億円で、うち60%をスカパー、40%を機構が出す。日本のアニメや映画、Jリーグのサッカー中継などを現地語に訳し、2020年度に世界22カ国での放送をめざす。

クールジャパン機構は政府と民間が3対1で出資する官民ファンドだ。日本のコンテンツを海外に伝える「国策メディア」を官民一体でつくる初めての試みとなる。

新会社に機構が出資する44億円のうち4分の3が公的な資金といえる。政府はNHKの国際放送に約34億円(13年度)を補助しており、今回の出資金はNHKへの単年度の交付金に匹敵する。

同日の記者会見で機構の小糸正樹専務執行役員は「海外で放送されている日本のコンテンツが圧倒的に少ない」と指摘した。国策として韓流ドラマやK―POPを積極的に輸出する韓国に対する危機感も背景にある。”

 

 ”クールジャパン”に対する世間の印象は良くない?

このように、主に日本の文化の魅力を伝えることを目的として展開されているクールジャパン政策ですが、世間の受け止め方には些かネガティブな部分もあるようです。

次に引用する文章は2013年にジャーナリストの山田順氏が述べたものです。

“私は出版界を中心としたメディア業界で仕事をしているので、今日まで、「クールジャパン政策」に関して政府の動き、マスコミ報道、識者の意見、ブロッガーの意見などを注視してきた。しかし、正直、知れば知るほどわけがわからなくなった。いったい、なにをやりたいのだと突っ込みを入れたいが、どこに入れていいのかもわからない。

とりあえず、わかったのは、経産省の肝いりで税金500億円を投入する官民ファンド「クールジャパン推進機構」が設立されること。そして、漫画、アニメ、ゲーム、音楽などの日本のコンテンツの海外進出をバックアップするということだ。

しかし、ここになぜか他の省庁も絡んでくる。農水省では、食もクールジャパンということで、料理人や学識経験者らを海外でのイベントに派遣する。また、日本食を広めるための「食の伝道師」を育成するという。さらに、総務省管轄では、この8月をメドに放送、音楽、映像や商社らが参画する社団法人を設立するという。また、日本に観光客を呼ぶのもクールジャパンらしく、国土交通省も予算を計上する。そのほか、文化庁、外務省なども関連予算を計上するという。

となると、これはクールジャパンではないではないか?「バラマキジャパン」「天下りジャパン」と言ったほうがいいだろう。”

こうしたもの以外にも、「ただの天下り団体が増えただけなんじゃないのか?」といった意見がネットでは散見されるように思われます。

そこで、本稿ではクールジャパン政策のもと設立された官民ファンド、”クールジャパン機構”がこれまでにどういった投資プロジェクトを行ってきたのかについてまとめていきたいと思います。

 

 投資を行う目的や理念など

まず”クールジャパン機構”の活動内容、目的、理念について確認しておきましょう。

政府、民間から出資金約375億円を集めて2013年に設立されたファンドである”クールジャパン機構”の活動内容は主に民間企業が実施するプロジェクトへの投資です。クールジャパンを発信していくプロジェクトに対して、将来より大きなリターンが得られるという見通しが立った場合に限って投資を行い、その事業を支援します。※1

最終的には民間のみで海外展開が出来るような地盤を形成していくことがその目的とされています。

また、その活動理念については、公式サイトで次のように記載されております。

“機構は「民業補完」に徹し、民間部門のみでは事業が十分に実施できない分野に対して支援を行うことを原則とし、海外展開のための民間投資を促す「呼び水」としての役割を果たすこととします。”

投資に関する条件は厳密にどのようなものなのかを調べることは出来ませんでしたが、公式サイトによれば次の三つが大きな条件とされています。

1.政策的意義…日本の魅力を海外に発信、展開していくことが出来るプロジェクトであるか
2.収益性…収益が見込めるか、出資した資金を回収できるか、経営が安定しているか
3.波及効果…国内の他企業との連携、呼び水としての役目を果たせるか

 

 クールジャパン機構が持つ全体像とは

ではクールジャパンを発信していくために、具体的にどのようなプロジェクトに対して投資を行っていくのでしょうか。その全体像は次のような図で表されます。以下、用いられる図は全て筆者が公式サイトで得られる情報から作成しました。クリックで拡大されます。

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(投資ポートフォリオの考え方 より作成)

日本の魅力ある商品・サービスを、世界を相手にした市場でも負けないように確固たる地位を築くことが出来るようにするためのプラットフォーム整備事業、海外での商品販売においてスムーズな流通を確保することで販売力を高めるためのサプライチェーン整備事業、そして独自に日本の商品や文化を販売し発信していこうとしている地域の中堅企業などの支援を行う地域企業等支援事業という三つがその柱となっています。

更に、これら三つそれぞれに分野が存在しています。それがメディア・コンテンツ、食・サービス、ファッション・ライフスタイルです。

これらを組み合わせてクールジャパンを発信していくための土台を作っていく、というのが”クールジャパン機構”のスタンスです。

 

 これまでの投資先をまとめる

では実際に、その投資プロジェクトがどのようなものであったのかをまとめてみていきましょう。次に示す表は筆者が公式サイトで公開されている投資プロジェクトを表にしてまとめたものです。クリックで拡大されます。

尚、産業区分の中に”文化発信”というものがありますが、これは筆者が3つの産業間にまたがったプロジェクトだと判断して独自に設けた区分となります。予めご了承下さい。

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2015年3月11日時点で、10種類のプロジェクトに対する投資が行なわれてきました。その額はどれも億単位で、その規模の大きさが計り知れます。

またその目的などを見ても、ここで分かる限りにおいてはどれも日本の魅力を海外展開するのに十分なプロジェクトであるように思われます。

 

 注力しているのはメディア・コンテンツのプラットフォーム、手薄なのはサプライチェーン

これら投資プロジェクトを、先ほど示した全体像における区分、すなわち事業区分及び産業区分に分類して投資額を合計したのが次の表です。

まだ10種類のプロジェクトしか発表・実施されていませんので、以下の文言は参考としてご覧頂ければ幸いです。

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事業区分で最も大きな額を示したのは地域企業等支援事業となりました。これについては、企業支援という目的の大きな事業であるために他の二つに比べて比較的大きな投資額になったのでないかと思われます。またプラットフォーム整備事業も大きな額を記録しました。

続いて産業区分についてはメディア・コンテンツが圧倒的な額となりました。現在、海外が注目する日本発の産業はアニメや漫画などのコンテンツ産業であるという言説を反映しているのかもしれません。プラットフォーム整備事業に投資されたのは全てこのメディア・コンテンツに対するものでした。

対照的に投資規模が小さかったのは、事業としてはサプライチェーン整備事業、産業としてはファッション・ライフスタイルとなりました。無形資産であるコンテンツ産業の盛り上がりは、逆に形ある商品と関わりの深いサプライチェーン整備事業への相対的に低い投資額を表すことになりました。

ファッション・ライフスタイルが産業区分の中では低い額となりましたが、総合的な文化発信を行う投資プロジェクト(中国への展開[株式会社杉並公司,H2O]、アジア全域への展開[MCIPホールディングス])への投資額は120億と潤沢な資金を獲得しており、こちらについては資金注入が行なわれていないというわけではないようです。

ただし、ファッション・ライフスタイル単体での投資はあまり多くはなく、エンタテイメント施設という総合的な商業施設の中で展開する以外の形はあまり見られませんでした。

 

 ”民業補完”の姿勢を貫くクールジャパン機構

ここまで、簡単に”クールジャパン機構”が行ってきた投資プロジェクトを概観してきました。どのプロジェクトも活動理念が示すように”民業補完”の姿勢のもとで投資が行なわれています。

クールジャパン機構は、本当にただの天下り団体にすぎないのでしょうか。ここまで見てきた限りにおいては、そうとは言い切れないのではないでしょうか。

投資が行なわれたあとも、”クールジャパン機構”に対しては事業の進捗度や計画などを逐一報告することが決められており、投資後の管理も徹底されています。

また法律(株式会社海外需要開拓支援機構法第35条)に基づいて行なわれる経済産業省からの事業評価も昨年度は問題ないとされています。(平成25年度株式会社海外需要開拓支援機構の業務の実績評価について)

クールジャパン政策の全てが支持すべきものだとは言い切れないかもしれません。しかし、少なくとも政策を担う機関である”クールジャパン機構”はその役割を果たすべくこれまで活動してきました。

私たちは先入観を捨ててクールジャパン政策を再評価すべきなのではないでしょうか。

Photo by wikimedia  【参考文献・脚注

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