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お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんの小説『火花』(文藝春秋社)が今月11日に発行され、すでに25万部を超える売上を記録し話題になっています。

マンガ『ONE PIECE』の新巻が250万部超[注1]、百田尚樹『永遠の0』の300万部超[注2]など話題となった出版物と比べてみるとこの数字はたいしたことがないように思えるかもしれません。

しかし、普段純文学に接するものにとってはこの数字はとてつもない数なのです。この記事では、普段小説に興味のない人に、この25万部という数字がどれほどすごいことなのか簡単に解説します。

 

 公表されない売上部数

そもそも出版社から売上部数が公表されることはまずありません。少部数の出版物の売上データを公表してしまうと「売れていない」という評判がたってしまい今後のその著者の作品の売上や名声に関わるからです。

出版社が出版物の売上部数を公表するのは「その本が売れている」ことを示す宣伝材料として使うためです。ですから、一般の人が目にする出版物の発行部数は当然「売れている」ものの数字になります。また、そのために10万部(ベストセラーの境目)を超えない出版物の売上データは普段目にする機会がないともいえるでしょう。

 

 売れない文学

現在、ほとんどの純文学の書籍は全然売れていません。

普通、純文学とは『文学界』『新潮』『群像』『すばる』『文藝』の五大文芸雑誌(ないし『早稲田文学』を加えた六誌)に掲載されるような作品を指します。これらの作品は運よく単行本化にまでこぎつけたとしても多くが5000部から1万部を割る発行部数にとどまります。[注3]

そもそも、これらの雑誌でさえ毎月せいぜい1万部程度の部数しか発行されていないのです。

さらに、純文学界隈で年間を通して最も話題となるのが芥川賞ですが、芥川賞の受賞作品でさえも冒頭に挙げた作品ほどの売上に達するわけではありません。

たとえば、映画化もされ話題となった西村賢太『苦役列車』で35万部超[注4]、最高齢受賞が話題となった黒田夏子『abさんご』で14万部[注5]など最も売れている作品ですら100万部に達しません。

 

 純文学がエンタメ小説にどこまで迫れるか

こうしたなかでお笑い芸人という他ジャンルからの参入者が純文学というフィールドで驚異的な部数を記録していることはもっとインパクトをもって受け止められてもよいのではないかと思います。

これまで劇団ひとり『陰日向に咲く』や千原ジュニア『14歳』などお笑い芸人の小説が話題になることはありました。『陰日向に咲く』は100万部を超して大きなニュースになりましたが、お笑い芸人が純文学に殴りこみをかけ、これほどの期待がされるということは初めてのことです。

純文学というジャンルの中で、他のお笑い芸人が出したエンタメ系小説の発行部数を超えることができるのか。楽しみでもあり注目をしたいところです。

photo: 又吉直樹『火花』(文藝春秋社) 【参考・注釈

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