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米民主党の有力な次期大統領候補、ヒラリー・クリントン前国務長官が苦境に陥っています。同氏は、国務長官在任中の2009年~2013年、個人メールアカウントを公務に利用していたことが分かっており、国家の最重要機密事項を扱う立場にあった者として、その情報管理のあり方が問われています。

 

 ファーストレディ時代

ヒラリー氏は、イリノイ州シカゴで生まれ、東部の名門・イェール大学のロー・スクールを卒業。アーカンソー大学ロー・スクールで教鞭を取るなどした後、ビル・クリントン元大統領と結婚しました。1993年、ビル氏が第42代合衆国大統領に就任すると、ファーストレディとして、また実質上、大統領のアドバイザーとしてビル氏を支えました。

ヒラリー氏とビル氏の関係を語る上で、どうしても言及しなければならないのがモニカルインスキー事件でしょう。1998年、ビル氏の大統領在任中、かつてホワイトハウス実習生だったルインスキー氏との不倫スキャンダルが報道されました。

当初、肉体関係を否定していたビル氏ですが、メディアなどに追い込まれ、「ルインスキーさんと不適切な関係を持った(I did have a relationship with Ms Lewinsky that was not appropriate.)ことを認めました。その発言を縮めた「不適切な関係(inappropriate relationship」というフレーズは当時アメリカで流行語となりました。

この事件は単なる大統領の醜聞にとどまらず、ビル氏は、アメリカ大統領として史上2人目となる弾劾裁判法令により特別に身分を保障された公務員に職務違反や非行があった場合に、議会、その他の国民代表機関の訴追を受けて、他の国家機関が審議して当該公務員を罷免または処罰するための裁判)にかけられることとなりました。

結局、大統領罷免には至りませんでしたが、国民から大統領の倫理観が問われ、その権威は大きく損なわれました

事件の渦中でヒラリー氏は、「夫の行為を好ましく思っていないが、それと弾劾は結びつくものではないとビル氏を擁護し、プライベートな問題によって大統領が弾劾されるべきではないという世論形成によって、ビル氏を窮地から救ったとされています。

 

 ヒラリー氏が抱える問題

ビル氏が大統領を退任した後、政治的野心を持つヒラリー氏はニューヨーク州から上院議員に立候補し当選。ファーストレディの国政選挙出馬は前代未聞のことでした。2008の民主党大統領予備選ではバラク・オバマ大統領に敗れはしましたが、その後、2009年から2013の間、オバマ政権の国務長官を務めました。

こうした華麗な経歴を持つヒラリー氏は、民主党の次期大統領最有力候補とされてきましたが、今回の事件に端を発した報道などで、同氏は大きな打撃を受けています

 

 1-個人メールアカウント問題

ヒラリー氏は今月10日に記者会見を開き、公務に関連した電子メールの印刷コピーを国務省に提出し、個人サーバーに残る私用メールは削除したと説明し、責任は全て果たしており、同サーバーは今後も公開しない」と述べました。

また、人アカウントを使用したのは便利だったからだとし、「私用と公用で2つのアカウントを持つよりも1つにした方が事が運びやすかった」と説明しました。

しかし、その釈明会見だけでは問題は終息せず、12日付ロイターによれば、2012年にリビアのベンガジで起きた米領事館襲撃事件を調査している下院特別委員会のガウディ委員長(共和党)は、クリントン氏に証言を求める考えを表明し、「証言は4月までに行うべき」としています。

現在は共和党が議会の過半数を占めているため、ヒラリー氏が厳しい質疑にさらされるのは必至とみられています。

 

 2-クリントン財団への献金問題

今回のメール問題以外でも、クリントン家が運営する慈善団体・クリントン財団への、外国企業などからの献金が問題視されています。

16日付米CBS News”Chinese company pledged $2 million to Clinton Foundation in 2013”によればクリントン財団は毎年何百万ドルというお金を、エイズ対策、女性の地位向上などの分野に投資しており、少なくとも42百万ドルを外国政府から、17千万ドルを海外の団体や個人から受け取っているとのことです

その中には中国政府と関係の深い億万長者が経営する企業からの献金も含まれています。

米中関係について複数の著作を持つジム・マン氏は、「クリントン財団は間接的に政治的な影響力を持っている。だから人々は財団に献金する。クリントン財団に献金するのはそれがクリントン家であり、クリントン家はアメリカで影響力のある政治一家だからだなどと述べ、外国人に対する有力政治家の影響力行使を懸念しています。

 

 アメリカ国民の評価

CNNが行った調査では、ヒラリー氏に「好感が持てる」と答えた人は、昨年11月の調査から6ポイント下がり53%、一方で、「好感が持てない」は6ポイント上がり44%となっています。メール問題に関する同氏の説明については、「十分だった」と答えた人は46%、「十分でなかった」は51%で、世論を二分しています。

17日付米紙ワシントン・ポストが、CNNの調査について興味深い分析をしています。

「ヒラリー・クリントンはますます不人気。それは個人メールアカウント問題が原因ではない(Hillary Clinton is increasingly unpopular. It’s not because of her e-mails.)」と題された記事によれば、今回のCNNの調査では、ヒラリー氏に「好感が持てない」とした人は6ポイントの上昇にとどまっているものの、その数字は2008年以来最低となっており、好感度低落がここ数年の傾向だとしています。

実際、20119月には、ヒラリー氏に「好感が持てない」と答えた人は26%に過ぎませんでした。しかしその数字2013年には30%を超え、今回の調査では50%に迫っています。

同紙は、今回の過去最低を記録した46%という数字は、単にメール問題によるものではなく、長期的なトレンドだと指摘しています。つまり、ファーストレディと上院議員の両方の顔を持っていた彼女にとって、政治の世界で人気であり続けることは難しいことだったということです。

 

 大統領選挙への出馬表明について

ヒラリー氏は今年4月に来年11月に行われる米大統領選挙への出馬表明を行うものとみられていましたが、共和党の主張通り、4月にメール問題に関する証言が行われることになれば、出馬表明が先送りされる可能性もあります。

また、上述の献金問題、あるいはワシントン・ポストが指摘する長期的な傾向の推移次第では、選挙戦略そのものを見直す必要も出てくるでしょう。

2008民主党大統領予備選では、オバマ大統領に敗北したヒラリー氏。今回は雪辱を果たすことができるのでしょうか。アメリカ史上初の女性大統領誕生するのかどうか。それは、今後有権者がヒラリー氏をどう判断するのかにかかっていますし、そのプロセスは世界中の注目を集めることになるでしょう。

photo by Mike Mozart参考文献・注釈

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