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中国は、今月5日から15日にわたって開催された全国人民代表大会(全人代)にて、2015年の国防費を88689800万元(日本円で約169千億円)とする予算案を提示しました。この額は前年に比べ、約10%増であり、5年連続の2桁増となりました。

毎年拡大し続ける中国の国防費ですが、この背景にはいったい何があるのでしょうか。

そして私たちはこれをどう捉えればいのでしょうか。本記事では、中国の国防費の背景やその傾向、今後の日中関係等について解説します。

 

 主権と安全、発展の利益を守るため

李克強首相は全人代にて、中国の国防費について「強固な国防と強力な軍隊の建設は、国の主権と安全、発展の利益を守る根本的な保障だ」と説明しました。

そして「国家の海洋権益を断固として守り、海上の紛争を適切に処理し、他国との海洋協力をすすめて海洋強国の目標にまい進していく」と海洋権益について決して妥協をしない姿勢を示しました

これらの説明は特に新しいことではなく、中国が近年、繰り返し主張していることです。しかし先の全人代では、これまでと少し異なった興味深い様子が伺えました。

それは李首相の報告を受け、人民解放軍の陸軍 中将が実務者レベルでの見解を示したことです。

 

 陸軍中将が海洋強化を指摘することの意味とは

NHKが伝えるところでは、鐘志明陸軍中将軍は「中国は『海洋大国』だが、まだ『海洋強国』ではない。『海洋強国』に向け、発展を促さなければならない。李首相が今日報告したとおり、われわれは『海洋強国』をつくるべきだ」と主張しました

陸軍中将が中国による「海洋強国」の必要性について述べているは理由は、現在、中国では陸軍と海軍による緊密な関係強化が図られているからです。具体的には、水陸両用に特化した師団の増強等が挙げられます

この背景には、尖閣諸島を含む、アジア周辺海域における中国による支配体制の強化があることは容易に想像がつきます。実際、中国人民解放軍はこの数年、水陸両用師団による軍事演習や陸空の三軍による合同演習等を頻繁に行っています。

 

 日本防衛省による分析は

中国による国防費の増大について、日本防衛省はどのように分析しているのでしょうか。『平成26年版 防衛白書』は、中国の国防政策について以下のように述べています

「中国は、国家の安全と発展の利益に見合った強固な国防と強大な軍隊の建設を、国家の近代化建設のための戦略的な任務であると位置づけており、国防政策の目標と任務は、主に、国家の主権、安全、発展の利益を擁護すること、社会の調和と安定を擁護すること、国防と軍隊の近代化を推進すること、ならびに世界の安定と平和を擁護することであるとしている。」

継続的に高い水準で国防費を増加させ、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力を広範かつ急速に強化しており、その一環として、いわゆる「A2AD」能力の強化に取り組んでいるとみられる。また、統合作戦能力の向上、戦力を遠方に展開させる能力の強化、実戦に即した訓練の実施、情報化された軍隊の運用を担うための高い能力を持つ人材の育成および獲得、国内の防衛産業基盤の向上に努めている。」と分析しています。

文中の「A2/AD」とは、接近阻止(Anti-Access:頭文字Aが2つという意味でA2)と領域拒否(Area Denial)を意味しています。幾つかの文献等を参考にすれば、文中の「A2/AD」能力とは、中国の軍事能力の一部を言い表わしたものであり、アジア・太平洋地域及び中国近海における他国からの軍事的介入や侵入を阻むための能力と言えそうです。

いずれにせよ、中国からすれば、広大な海域を守るための統合作戦能力の向上―つまり陸海空の三軍による合同作戦能力の向上―が必要不可欠となるわけです。先に記した水陸両用に特化した師団の役割も「A2/AD」戦略の一環として理解することが出来ます。

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Photo by wikipedia

 

 今後の日中関係

以上のよう中国による国防費増大とその背景を考えれば、今後の日中関係は決して予断を許すことの出来ない状況であると言えるかもしれません。しかしながら、今月19日に4年ぶりとなる「日中安保対話」が開かれたことも見逃すことが出来ません。

各社報道によると、この対話には杉山晋輔外務審議官らが、中国からは劉建超外務次官補らが出席したようですそこでは、偶発的な衝突回避のための「海空連絡メカニズム」に向けた協議が行われた他、安保対話」を今後継続していく必要があるとの認識で一致しました。

本対話において、安倍総理による「戦後70年対話」の話題が出たかどうか、さらには尖閣諸島に関する議論がなされたのかどうかは現時点では分かりません。しかし対立的な側面ばかりが強調される昨今の日中関係だからこそ、協力関係の構築に向けた議論が行われたことは極めて重要なことと言えるのではないでしょうか。

photo by Official U.S. Navy Page [参考文献・注釈

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