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 就活本格開始から約一ヶ月

例年より3ヶ月遅く、3月開始になった今年の就活。企業説明会や面接が解禁されて1ヶ月経ちますが、リクルートスーツに身を包み、忙しなく歩く就活生の姿をよく見かけるようになりました。

そうした就活に関しては、毎年様々なデータが公開されます。中でも、しばしば注目されるのが、「志望企業ランキング」ではないでしょうか。

この手のランキングは、様々な媒体によって調査・発表されますが、いずれにせよ「1位は三菱商事だった」「今年はトヨタが順位を下げた」など、個別の企業の結果や前年との比較が語られるばかりで、なかなかそれ以上の議論に発展してはいないようです。

そこで本稿では、過去10年という長いスパンで、特に業界単位での就活市場の動向をグラフ化し、俯瞰することを試みました。

明らかにしたいのは、志望企業ランキングは、単なる「企業イメージの人気投票」ではなく、ある程度「世相を反映したもの」なのかどうかということです。

まずは、この10年を通して学生の志望度が安定していた/していなかった業界について見ていきます。さらにその後、各業界を概括し、経済指標などとの関連性が見られるかどうかについて考察していきます。

 

 「志望企業ランキング」について

今回用いた志望企業ランキングは、大学生を対象とした2004年から2014年までのものです。2004年から2010年まではリクルートワークスが発表していた”採用ブランド調査”からデータを取得しました。

2010年以降はリクルートがランキングの発表を中止したため、楽天が運営する”みんなの就職活動日記”に掲載されているランキングを使用しました。※1

今回見ていく業界の分類は、みんなの就職活動日記における分類表を用いています。それに基づいて筆者が企業ごとのカテゴライズを行いました。

用いた業界名は、

都銀・信託・外銀医薬・化学・化粧品機械・電機・材料証券・投資情報処理・システムトラベル・航空・運輸建設・住宅・不動産テレビ/ラジオ通信・ネットワーク人材繊維・アパレル , インフラ・官公庁広告ホテル・レジャーコンサル生命保険・損害保険食品・農林・水産総合商社・専門商社出版・教育

の全19個です。

以降のグラフで用いられる数字は、”ランキング中にその業界に属する企業が何社あるのか”を表したものとなります。

 

 10年を通じて不変的な業界

まず注目するのは、10年を通じて比較的変化が少なく、常に志望企業が多い業界です。

筆頭に上がるのは、食品・農林・水産業界です。中でも食品に関わる企業はランキングでの出現頻度が非常に高いものになりました。

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棒グラフに示されている値はランキング中にその業界に属する企業が何回出てきたか、いわばその業界の人気度を表わしています。つまり、食品関連業界はこのように、常に人気を保ち続けてきたと言えそうです。

この10年間で私たちを取り巻く経済状況はめまぐるしく変化してきましたが、年経過による変化がほとんど見られないこの業界は、それだけ私たちの生活と長く密接に関わっており、経済的にも安定した馴染み深い企業が数多く存在していることを表しているのだと考えられます。

 

 この10年間で凋落した業界

続いて見ていくのは、この10年間で出現回数が低くなってしまった業界です。最たる例は、自動車関連企業などを中心とした機械・電機・材料業界です。

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2007年までははっきりと分かる人気を保っていましたが、2008年以降、平均以上を保ってはいるものの急激にその値が減少したことが分かります。これを引き起こした原因が2007年から2008年にかけて起きたリーマン・ショックであることは明らかでしょう。

2007年、米国で起きたサブプライムローンバブルの崩壊を皮切りに、米国経済は、主に金融業界を中心に大打撃を被りました。日本でその影響を大きく受けたのが、米国経済に大きく依存していた輸出産業、中でも自動車産業です。

具体例としてトヨタの株価推移を見てみます。用いたのは調整後終値です。

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2007年2月の8002円を最高値としていますが、それ以降2009年12月まで下降トレンドが続いていました。

勿論これはトヨタに限った話ではなく、日本経済全体が大きくネガティブな影響を受けたのですが、自動車産業の受けたショックは特に大きいと言えます。就職活動を行う学生側もその厳しさを感じ取っていたのかもしれません。

 

 横断的な視点:1.学生の志向は多様化しているのか

ここまでは特定の業界に限定してその推移を確認してきました。ここからは、様々な業界を横断的に見ていきたいと思います。

一つ目は、「学生の志向が多様化しているかどうか」です。

冒頭で、リクルートは2010年以降ランキングの発表を取りやめたと書きましたが、その理由は「学生の志向が多様化している」からというものでした。

次の文章は2011年4月13日に共同通信が報じたニュースから引用したものです。

“リクルートは13日、毎年4月に発表していた大学生・大学院生の就職人気企業ランキングについて、今年から公表しないことを明らかにした。大学・短大への進学率が50%を超え、学生の志向が多様化する中、一律のランキングを提示する意味が薄れたとしている。”

では、実際にその「多様化」は確認できるのでしょうか。

どれだけ多様化しているかを表す指標として参考にするのは、標準偏差というものです。

標準偏差は、平均からのばらつきを示す指標だと言われています。この値が大きければ大きいほど平均から離れている項目が多いことを示し、小さければ小さいほど平均に近い項目が多いことを示しています。

このことを念頭に置いて、次のグラフを見ていきましょう。

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このグラフでは、左軸に平均値(業界ごとに何社がランクインしたか)、右軸に標準偏差を表しています。

標準偏差が年を追う毎に多少なりとも下降傾向が見られる一方で、平均にはそうしたトレンドが見られないことが見て取れるのではないでしょうか。

つまり今回用いたデータで見る限りにおいては、各項目が平均に近づいており、項目毎の差が少なくなっているため、リクルートの言葉を用いれば、「学生の志向が多様化している」と言えるでしょう。学生たちはこの10年を経て、興味の幅を広げてきているようです。

 

 横断的な視点:2.経済指標との関連性

次に、各業界に対する学生の関心と経済指標との間にどれだけ関連性が見られるのか探っていきます。

世相を反映してきたという志望企業ランキングですが、具体的にどういった経済指標との関連性が示されるかを調べました。

関連性を示す指標として参考にしたのは相関係数です。1から-1の範囲で表され、1に近ければ近いほど同じ推移をしており、-1に近ければ近いほど逆の動きをしていることを示します。※2

本稿を執筆するにあたり様々な指標との相関係数を調べましたが、今回ご紹介したいのは経済成長率-インフラ・官公庁業界と、インフレ率-生命保険・損害保険業界の二つです。

まず経済成長率(右軸)とインフラ・官公庁業界(左軸)の推移を合わせてみていきます。

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計測された相関係数は-0.5でした。値以上に、視覚的には非常に強い負の相関性があるように感じられます。
経済成長が鈍っている年にはやはり堅実な業界が人気になるようです。

このようにはっきりとその理由が分かるものもあれば、反対に原因は明確でないものの興味深い結果もありました。それがインフレ率(右軸)と生命保険・損害保険業界(左軸)です。

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計測された相関係数は0.83と非常に高い正の相関性を示すものとなりました。グラフとしても両者はそれほど単純な推移ではないにもかかわらず似通った動きをしています。

ここでインフレ・デフレと保険商品との関わりについて説明しておきます。

デフレインフレである同じ値段の商品を買う場合を想定してみましょう。

デフレのように貨幣価値が高い場合であれば商品を購入するのに必要な貨幣は少なくなり、結果として安い値段で購入できます。

しかしインフレはその逆で、貨幣価値が低くなっているため、同じ商品を購入する場合により多くの貨幣が必要となります。その結果、物価が高いと感じられるのです。

このことを前提として保険という商品を買う場合を考えます。保険とは、加入料を支払うことで何らかの事故などが起こった場合に一定額を支払ってくれる制度一般を指しています。

ここでいう一定額とは、インフレ時においてもデフレ時においても一定という意味です。つまり、インフレ時のように貨幣価値が下がっている場合というのは、保証されている支払額が目減りしてしまうというリスクを持っています。保険の商品としての価値は一般的にインフレに弱いのです。

このように考えれば、保険を商品として販売し利益を得ている保険業界が、なぜ商品価値の落ちる、インフレ率が高い時にも人気を維持しているのかを説明がつきません。

勿論、単純な偶然として考えるべきなのかもしれませんが、非常に興味深い結果となりました。

 

 ランキングは指標として機能し得るがバイアスもある

ここまで見てきたことを踏まえれば、志望企業ランキングはある程度の世相を反映していると考えることも出来そうです。

しかし、リクルートがランキングの発表を「学生の志向が多様化している」という理由から取りやめたように、こうしたランキングだけでは測りきれない部分が出てきたことも事実です。

企業側も情報技術の発達やベンチャー企業の隆盛などを反映して、一概にある一つの業種としては捉えられないような事業を行う所も見受けられます。

学生側にとっても、そして企業側にとっても就職活動に際する指標としてランキングではない、より正確なものを求めている段階が近づいているのではないでしょうか。

Photo by Pixabay 【参考文献・注釈

[参考データ:10年分の志望企業ランキングまとめ]

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