記事がバラバラに読まれる時代に、雑誌のような文化をどう築くか『ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集・メディア論』前編

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「編集」とはなにか? 従来の紙媒体における「編集」の概念はウェブメディアの登場やソーシャルメディアの普及、そしてニュースアプリの登場、キュレーションメディア、バイラルメディアの勃興により、急激に変容しつつあります。

佐藤慶一氏、小川未来氏、前島恵氏、ウェブ出身の20代若手編集者3名が、リアルスペースとして「編集」された本屋B&Bで、ウェブ編集のあり方や、これからの編集について語りました。

 

 若手編集者3名のこれまでと、これから

前島恵氏(以下前島):前島恵と申します。今はCredoというWebメディアをやっています。大学院生のような専門性のある人がニュースを解説することをコンセプトにしたメディアです。そちらの運営をやりつつ、東大の学際情報学府の修士課程を終え、この4月からリクルートホールディングスに行きます。

佐藤慶一氏(以下佐藤):Webメディアの編集をしております、佐藤慶一と申します。経歴をお話しますと、大学4年生のときにNPO法人グリーンズが運営しているgreenz.jpでライターインターンを経験しました。同時期にコンテンツマーケティングを手掛けるメディア企業でも編集アルバイトをして、その次の年から講談社の「現代ビジネス」というビジネスメディアにてエディターをしています。個人的には海外のメディア動向を追うブログ「メディアの輪郭」を運営しているので、メディア周りを追いつつWebメディアの編集者として働いているという形になります。

小川未来氏(以下小川):小川未来といいます。大学1年次に米光さんという方がやっている編集・ライター講座に通ってから編集・ライターを始め、ゲームの企画、あるいは新しい編集手法としてのツイッター実況、スタディーツアーの企画・実施、そして電子書籍の制作。

あるいは佐藤慶一君が編集者として働いている講談社の「現代ビジネス」の中で連載コラムを書いたり、企画、プランニング、ライティング、電子書籍制作、いろいろな意味で幅広い編集業務をやってきました。そして4月からはリクルート住まいカンパニーに入社し、部署はフリーペーパー制作になる予定です。

 

 『POPEYE』の編集後記に込められたイデオロギー

参考記事:今は「編集者の時代」なのか?【書評】

小川:まずは1冊目『編集者の時代』について説明します。これはマガジンハウスの『POPEYE』という雑誌の創刊から数年以内の編集後記をまとめたものです。この編集後記が今のWeb、あるいは一部の紙雑誌にはないテンション、文化、イデオロギーが込められていて、とても偏った編集後記が書かれている。そして、それだけで本として体を成している。これはものすごく稀有なことです。なぜなら今のWebメディアには編集後記はなくて、そういった編集長の独善的なものや、偏りを押し出す姿勢自体が欠けていると思ったので、選書しました。

前島:それを象徴するような文がひとつあります。「POPEYEはこう思う」という一文です。これは媒体に疑似的に人格を持たせ、ある種のイデオロギーを打ち出しているということですね。こういったことが『POPEYE』には許されていたけれども、今のWebメディアでは万人受けするようなコンテンツをつくってPVを稼ぐということに、それだけではダメだろうと思っている面があるんですよね。ですので、Webのコンテンツをどうやったらおもしろくできるんだろうというテーマを扱いたいと思います。

小川:そうですね。まず、キュレーションや引用だけでつくられた記事は面白みに欠ける。『編集者の時代』の書評を書く際に、クラウドソーシングや求人サービスで「編集」と検索すると、キュレーションサービスのインターン職が、求人数ですごく上がっている。それだけが編集になり過ぎるとよくないなと明らかに母数からして思っていてますね。

 

 Web上でイデオロギーを持つコンテンツやメディアをうみだすには?

前島:ではなぜWebだとイデオロギーを打ち出せないんですかね?

佐藤:Webだと、キュレーションとかバイラルメディアの、いわゆるソーシャル上で拡散されるようなコンテンツや、コピーしやすいようなコンテンツが多く見られるようになってきました。それを見ていて思うのはWebメディアというのはトレンドに乗っかる人が多かったり、時代に合わせる媒体社であったり、編集者の人、キュレーターの人が多いです。

だけど、紙の人は時代を手繰り寄せていて、本当に潜在的な、まだちゃんと伝わっていないような価値観をちゃんと編集者としてひとつのパッケージで、手に取れるフィジカルなものとして打ち出すことで、こういう価値観だったり、時代っていうのがくるんじゃないかということを伝えているのが雑誌の編集。そういう要素を例えば、特集系のWebメディアでやるというのもひとつの解決策にはなるのかなという中で、広告モデルがネックになる感じですね。

前島:もちろん広告というのは原則として見られれば見られるほど高収益になるので、要するにたくさんの人に見られるっていうのは、どんどん「らしさ」すなわちイデオロギーや独自の文化みたいなものが希釈していくんですよね。誰にでもわかるようなものにしていくっていう。もう1個あると思うのが、数値としてPVが見えちゃうと、迎合せざるを得ない。媒体のあり方が数的指標によって、より読まれるほうに寄っていかざるを得ないということがよくあると思うんですけど、その辺の媒体の運営のされ方に関して、紙との違いはどうですか?

佐藤:あとはいわゆる雑誌をパラパラめくるようなものではなくて、雑誌でいうところの36ページだけとかを読むみたいな、ソーシャルメディア時代になって、アンバンドルというURL単位で読まれる現象が起きているので、本当にパッケージができないというところで、どうやってそこにソリューションを持っていくかが難しいです。

紙はやっぱりトップの表紙から読まれるんですけど、Webだと自分もできればそのサイトのトップから来てほしいけれども、結局自分が書いている記事っていうのは、途中のページのどこかひとつ。それを一生懸命拡散しなきゃいけないというところで、すごくジレンマは感じますね。

 

 紙メディア、Webメディア、テクノロジー、ビジネスのバランス感覚

前島:次は『5年後、メディアは稼げるか』を取り上げます。東洋経済オンラインの元編集長でPVを急激にのばし、今はNewsPicksの編集長をしている佐々木紀彦さんが、紙からWebにうつりつつあるメディアが、マネタイズモデルをどうしていくのかについて書かれた本です。

こちらも一文を紹介します。「稼げるWebメディアづくりが健全な民主主義に寄与する」というものです。これは民主主義じゃなくて、文化でも何にでも当てはまると思うんです。Webを使って「何かある考え方」を広めよう、文化をつくっていこうという理想は掲げやすい。しかしそれを実現するためにはお金を稼げないと意味ないよというのことを、再度言ってくれたのがいいなと。本の中で述べられているスキルや能力にもとづいてメディア人を分類すると、紙メディア、Webメディア、テクノロジー、ビジネスの4つにわかれます。テクノロジーはニュースアプリやアルゴリズムで、ビジネスはWebメディアのマネタイズを担当している営業であったり、広告であったり。

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小川:ナカムラケンタさんとか分かりやすいかな。求人サイトとインタビューサイトが一緒になっている「日本仕事百貨」というメディアをやっている人です。全部の求人記事が、広告なわけですね。例えば地方の商店の求人が多いとか、あるいは職人的な求人が多いだとか、クオリティコントロールを整えつつ広告もやっている。そういう意味でWebメディアをわかりつつ、広告的な観点でのメディアをやられてる。しかも会社経営者でもあるので、ナカムラケンタさんみたいな人はわかりやすい例かなと。求人広告メディアビジネスと、メディアをやっているところで、それがひとつだなと思います。

佐藤:SmartNewsの松浦茂樹さんとか。今はニュースアプリをやっていて、もともとエンジニアでその後、ライブドア、WIRED、グリー、あとこの前はハフィントンポストの日本版の編集長をやっていたというので。

小川:編集もできるし、裏側のアルゴリズムもわかる人。あとは嶋さんとか。今一番メインでやられてるところだと、実はB&Bの共同オーナーでもあるし、博報堂ケトルの社長でもあるし、紙の雑誌『ケトル』の編集長でもあると。なので、会社経営も広告もプロだし、紙の雑誌の編集長でもあるからプロだし、Webもわかる人。

次に田端信太郎さんっていう方が、この『5年後、メディアは稼げるか』という本の中で、とても礼賛されていて。NTTデータにもともと就職した人なので、数字とかテクノロジーとかがわかる。そして学生時代もWebサイト構築とかで食ってた方なので。そこからリクルートに行って、R25というフリーペーパーを立ち上げた。その時は編集ではなくて、どちらかというと広告営業側で、プロデューサーとしてやられてたと。その後ライブドアに行って、ライブドアニュースのディレクションをやっていて。

Webメディアの編集もわかってるし、その後コンデナスト・ジャパンという『WIRED』や『VOGUE』の編集をやられてる会社に行って、そのWeb版を立ち上げた。だから紙とWebの翻訳者であり、プロデューサーであり、今はLINEの執行役員。どこでもコミュニケーション、SNS、オンライン、オフラインの全てを手掛けている方です。

 

 編集者志望の学生は、どこの会社に行くべきか

前島:リクルート入ってもそうですけど、テクノロジーを使ってメディアを育てて、いかにお金を稼いでいくかっていうとこですね。それと学術。スマートニュースの会長の鈴木健さんという方がいて、東大博士までいって、思想的にも極めてるし、テクノロジーも天才エンジニアだし、サービスも立ち上げてて、ビジネスでも展望がある。

佐藤:僕は新潟県の佐渡島という島から大学進学を期にでこっちに来たので、考え方とか価値観がすごい田舎な感じで。なので、今は地元ではできないことやろうと思って、Webメディアの編集をやっているんですけれども、将来的には島に戻ると思うので、島でWebメディアは機能しないっていうことを感じているので、あと現状としてはWebメディアの編集を長くやろうとも思っていないので、多分……。

紙経由の佐渡島行きみたいな感じになって、紙メディアに行きたいと考えてます。すごくシンプルな例だと、佐渡島は朱鷺っていう鳥が有名なんですけれども、「佐渡=朱鷺」みたいな、そういうパブリックイメージをよく言われるんですけど、編集やっていることにも繋がりますけど、別の魅力であったりとかをちゃんと掘り起こして、編集して、外に伝えるっていう部分をやりたいですし。同級生とかはずっと島にいる人が多いので、自分自身のようなキャリアの多様性であったりとか、選択肢の広さみたいなのを帰って還元できたらと思っています。

小川:島自体がメディアになったら一番面白い気がしますけどね。

佐藤:かっこいいこと言うね(笑)。

小川:僕は4月からフリーペーパーを作るんで、メディア、ビジネス、紙メディアの3つかなと思ってると、リクルートっていう会社は広告だけでメディア作ってる会社なんで。そういう意味で、もっと広告もビジネスも極めるし、おそらくフリーペーパー製作、1年から2年ぐらいかかると思うので、紙のこともわかるようになると。なので、メディア、ビジネス、紙メディアの3つは被ってると思ってます。

あとリクルートのことに関して言いたいんですけど、今、編集をやりたいって方がどういう会社に行けばいいのかが、すごくわかりづらいと思っていて。この3人で正規就職したのは僕だけです。前島くんは起業兼正規就職、慶一くんはフリーランス。僕だけちゃんとした就活一本で会社に入るつもりでいて、とても会社選びに苦悩しました。

編集者やりたいっていうのは先に決まっていて、でもじゃあどの会社に入るのっていうところがすごく難しい時代になっていて。何でかっていうと、この4つが一番わかりやすいですよね。紙メディアもあるし、Webメディアもあるし、そこに広告ビジネスも繋がってくるし、テクノロジーもWebやれば必要だし、この4つを全部やってる会社ってすごく少ないんですよ。僕がリクルート住まいカンパニーっていう会社を選んだのは全部あるからなんですよ。これが全部あって、それなりにマス向けの仕事をしているから。

後編へ続く

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