【読了時間:約 10分

欧州各国が続々と参加を表明した、中国主導のアジアインフラ投資銀行(以下、AIIB)に日本とアメリカはなぜ参加しないのでしょうか?様々な専門家の分析とともに一連の流れを説明します。

 

 申請期限を過ぎても日米の参加を待つ中国

中国が設立を主導しているAIIBについて、その創設メンバーになるための期限として同国が設定した3月31日が過ぎ、日本は参加を見送ることになりました。この決定については、様々な立場から議論が提起されており、日本はどう行動するのがベストなのかが、なかなか見えてきません。

中国の楼継偉財政相は3月20日、申請期限を過ぎても日本と米国の参加を待ち続けると表明していますので、現段階での不参加は必ずしも最終的に参加しないことを意味しません。

米国は同盟国に対してAIIBに参加しないよう呼びかけていましたが、3月中旬にイギリスが参加表明をすると、フランス、ドイツなどのEU諸国を始め、オーストラリア、韓国などの同盟国が堰を切ったようにそれに続きました。

これは米国にとって計算外の事態であり、世界のリーダーとしての面目が丸つぶれになってしまったことは否定できません。

アメリカ同様、不参加を決定した政府に対しては、民主党の岡田克也代表は、「先進7カ国(G7)の結束が乱れたのは大きな失態だ。(安倍晋三首相は)あれだけ首脳外交をしていてなぜ統一歩調を取ろうとしなかったのか」と答え、維新の党の江田憲司代表は「日本外交の完全な敗北だ。参加しないのは米国が反対しているからで、米国の呪縛から解き放たれるべきだ」と激しい批判を浴びせました。

 

 AIIBに対する日本側の懸念点

AIIBとは、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)では賄いきれない、アジアにおけるインフラ整備のための資金ニーズに応えることを目的に据え、中国が主導して設立を目指している国際開発金融機関を指します。

インド、韓国、インドネシアなどアジアの主要国、イギリス、ドイツ、フランスなどEU諸国、ロシア、オーストラリアなど50以上の国と地域が参加を申請しています。その一方で、日本とアメリカは、AIIBの各種基準や運営面に懐疑的な見方を示し、現時点での参加を見送りました。

日米が懸念している点はいくつか考えられますが、ひとつは理事会の構成や、融資基準の透明性や公平性など、純粋に国際金融機関としての在り方の問題です。

AIIBは本店を北京に置き、総裁は中国人、出資額は1000億ドルの半分を中国が拠出し、25%はアジアから、残り25%はその他の地域からの出資で賄うとされています。

国際通貨基金(IMF)で最も出資比率の高いアメリカの割合が17.67%、ADBでは日米がそれぞれ15.65%であることと比較すると、AIIBにおける中国一国の出資比率は極めて高いと言えます。

ADBでは理事会で最終的に融資案件を承認していますが、その際、出資比率が高い国の議決権を減らし、途上国など比率の低い国の議決権を増やすことにより、出資比率が高い国が圧倒的に有利にならないよう議決権を調整しています。

一方、AIIBではその点が不透明で、中国主導で運営される可能性があり、その場合には、融資先決定などに際して中国が決定権を握り、自国に利益のある案件を優先するということも考えられます。

 

「ADBでは賄いきれないニーズに応える」の裏側

7日に行われた参院外交防衛委員会での岸田文雄外相の発言によれば、日本が参加することになれば、1千億円単位の出資が求められるとのことですので、その場合、中国の出資比率は相対的に低下する可能性はあります。

それでも、融資案件決定の方法に関して現段階では何の情報もないため、日本が出資額に見合う影響力を行使できるかどうか分かりません。

また、「ADBでは賄いきれない資金のニーズに応える」ために融資を行うというAIIBの役割を考えると、貸出条件はより緩くなる可能性が高く、その場合には、融資先について適切な審査を行わないと膨大な不良債権が発生することもあり得ます。

こうした、国際金融機関としての運営上の問題は、日米に大きな懸念を与えていると考えられます。

次に、日米は公式には明確に主張していないものの、上述のように中国主導の融資が行われた場合、それに伴って発生する可能性のある外交・安全保障上の問題も両国にとっての懸念事項だといえます。それは中国による対外援助を考えるとよく理解できます。

中国政府による対外援助政策の実績をまとめた「中国対外援助白書」によると、2010~12年の援助総額は893億4000万元(約1兆4500億円)で、援助対象国は計121カ国。地域別ではアフリカが51カ国で最多、次いでアジアが30カ国でした。

 

 中国側の真の狙いとはなにか

国際コラムニストの加藤嘉一氏は、習近平・李克強政権下における中国による対外援助の特徴について、経済外交という側面だけではなく、「お友達作り」や「対米国」という要素があるとしています。

同氏によれば、「お友達作り」とは、「昨今の国際政治経済情勢からしても、これまで以上に“お友達”を作り、中国の政治体制や成長モデルを支持してくれる国・地域を拡大していく戦略的必要性に(中国が)直面している」ということを意味しています。

「対米国」とは、「習近平国家主席が抱く米国への対抗心、あるいは、少なくとも米国と対等の国として国際社会を統治していく野心は際立って」いて、アジア、中東、ラテンアメリカなど、あらゆる地域で米国の威信と求心力が低下している現在、勢力範囲を拡大すべく政治・外交資本を投入していくということです。

つまり、中国は対外援助を通じて国際政治における自国の支持者を増やし、米国に対抗できる世界的リーダーになろうとしているのです。

国際金融機関であるAIIBの「盟主」として、多国籍の枠組みの中で途上国への援助を行うことは、こうした中国の目的に合致していると考えられます。

とはいえ、日米が国際金融機関としてのガバナンス、そして外交・安全保障上の観点からAIIBに対して懸念を抱いているとしても、アジアにおけるインフラ整備の需要という現実に鑑みれば、その有用性を否定することは難しいでしょう。

4月11日付の東洋経済ONLINEによれば、「ADBは、アジアでは2010年から2020年までインフラ整備に関し8兆ドル(約960兆円)の資金需要が生じる、と試算している」とし、ADBなど既存の国際開発金融機関だけでその需要に対応するのでは不十分だとしています。

 

 専門家は慎重な対応を日本政府に求めている

この点について、3月25日付の英フィナンシャル・タイムズは、「AIIBは貴重な貸し手になる可能性を秘めている。アジアの発展途上国は、このようなインフラ投資を切に必要としている。リスクがあって期間も長いプロジェクトとなれば、そこに投じられる民間の資金は存在しないか金利が高いかのどちらかである場合が多い。また、世界銀行とアジア開発銀行の資源は、途上国のそうしたニーズに比べればかなり不足している」と指摘しています。

では、今後日本はどのようなスタンスでAIIBに関与していくべきなのでしょうか?

第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生氏は、「創設メンバーとして活動したほうがメリットが大きいのか、今後、アジア開発銀行(ADB)の融資との協調を模索することができるのか、という点を検討することが重要だ」「実際にAIIBのスキームが固まってきてから、ADBなどを通じた協調を推進しても遅くない」とし、日本にとってのメリットベースでどのように関わるべきかを慎重に検討すべきだとしています。

元国際通貨基金(IMF)副専務理事で国際金融情報センターの加藤隆俊理事長も、「AIIBがこれからどう育っていくのか、見極めた上で判断することが必要だ。参加を表明した欧州の立場は、ビジネスの上で『とりあえず座席を確保しておく』ということではないか。日米はアジア開発銀行(ADB)の最大の株主であり、安全保障や外交なども計算に入れた上で慎重に判断するのは当然だ。まだ『入る』と決断するだけの材料はないのではないか」とし、AIIBの今後の展開を見ながら、様々な要素を勘案して参加するか否かを判断すべきだとしています。

 

 アメリカに追随するのではなく、国益を第一に考える

日本はAIIBに参加して内側からその運用を厳しく監視するべきなのか、それともAIIBには参加せず、外側からADBなどを通しての関与に止めるのかについては、専門家の間でも意見が分かれる非常に難しい決断です。

いずれにせよ、現時点ではAIIBの運営に関する情報が十分ではないので、今後の中国の動きを見極める必要があります。

一つ言える事は、参加するにせよしないにせよ、日本の国益を第一に考えて判断する必要があるということでしょう。単純な米国追随、あるいは義理立てによって決断すると、長期的には日本の利益を失う可能性がありますし、国民の支持を得ることも難しくなってくるでしょう。

思想家の内田樹氏は自身のブログで、「AIIBへの不参加が客観的な情勢判断に基づいて『国益に資する』としてなされた決定であるなら、それがひとつの政治的見識であることは私も認める。けれども、その決定の根拠が『アメリカによく思われること』であるというのなら、それは主権国家のふるまいとは言いがたい。主権国家はまず自国の国益を配慮する」と述べています。

最終的な決定に当たっては、こうした視点が重要だと考えられます。

photo by flicker, [参考文献]

Credoをフォローする