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webメディアが日々力を付ける中、「紙媒体としての新聞」の危機が叫ばれています。

たしかに、デジタルメディアの一般化に伴って、大手新聞の発行部数は軒並み減少していますが、だからといって新聞(社)の価値が無くなってしまうわけではありません。高い使命感を持った優秀な編集者や記者を多数抱えた新聞こそが新時代のメディアを作り出す存在なのかもしれません。

今回のイベントでは、あえて新聞社だけではなくwebメディアやベンチャー企業からゲストを呼び、「作り手」だけではなく「読み手」の視点、そして新聞の駆逐者となるかもしれない新しいメディアの「作り手」の視点も取り入れつつ、「新時代のニュースとメディア」について語り合いました。

 

 ゲストの紹介

山川 一基氏(以下山川):朝日新聞メディアラボの山川一基と申します。1995年に朝日新聞社に入社しまして、経済部の記者として働いていました。2010年から渡米し、アメリカの経済を取材してきました。メディアラボでは、記者から外れて、新規事業開発や経営企画などをしています。

川原崎 晋裕氏(以下川原崎):ログミーの川原崎晋裕と申します。前職はサイゾーでweb事業の立ち上げをやっていて、2年前に独立して、橋渡し役としてコンサル業をやっていました。ログミーで書き起こしをやっているのも、イベントという局所的なチャネルに留まってしまうコンテンツをwebという媒介を通してチャネルを広げるためにやっています。

中野渉氏(以下中野):中野渉と申します。朝日新聞から出向してハフィントンポストで記者と編集をしています。朝日新聞に入社後は紙の編集(見出し付けなど)をしたこともあり、またパキスタンなどの紛争地の国際取材などもしていました。web、紙両方の立場から今日は話していきます。

前島恵(以下前島):司会を務める前島恵と申します。株式会社kairo代表取締役を務めています。ニュース解説メディアCredoの編集をやっています。2011~2013年静岡県にて地域振興事業に携わっていました。今春東京大学大学院(メディア論、コミュニケーション論専攻)を修了し、現在はkairoをやりつつ、リクルートホールディングスにてwebエンジニアをやっています。

今日はこのお三方と一緒に、

・人(記者やジャーナリスト)

・コンテンツ(ニュースのあり方)

・メディア(メディアのあり方)

と大きく3つにトピックを分けて、話していきます。

 

 記者やジャーナリストのあり方

前島:早速ですが、記者の役割ってどのようなものなのでしょうか?

山川:記者やジャーナリストというのは、取材して、記事にまとめるというのが基本的な役割ですね。それに加え、独自のとくダネ(世の中に出ていないもの)を書くことを目標にして、日々努力しています。

他にも、記者会見など発表的なものを書くという仕事もありますが、一方で、速報性を求めすぎると、独自性、テイストのある記事が減ってしまうという課題もあります。

前島:つまり、誰が見ても同じような記事で溢れるということですか?

山川:そうですね。記者として、足で稼ぐ記事、追加取材を通して書いた記事こそが価値のあるものだと思っています。記者会見を追い続ける人や、「番記者」といって一人の政治家を一日中追いかけている担当の人もいて、その活動のなかで独自の視点がある記事が生まれ事もありますが。

前島:ログミーでも記者会見というのは非常に重要なコンテンツですけれども、webにおける記者の役割はどのように意識されていますか?

川原崎:あまり意識していないです。そもそも、web独自の記者って存在していないと思います。だって、やっていることは皆一次情報をシェアしているだけですからね。だから、「webの記者」、「新聞の記者」という区割りはないと思います。

前島:確かに、今のwebメディアですと紙媒体の記事がwebに平行移動しているだけといった印象はあります。逆に、web特有の記事を書くことを意識していたりはするんですか?

川原崎:「誰でもできることを誰よりもうまくやる」か「誰も出来ないことをやる」この二種類しかwebの優位性は生まれないと思います。

前者として、nanapiさんは凄く面白いと思います。ログミーの話をすると、ログミーも前者のような「誰でもできることを誰よりもうまくやる」メディアにしたかったです。実は、みなさんのイメージとは違って「書き起こし」というのは、意外と手間がかかることなんですよ。

会話を書き起こすので、文法、趣旨がバラバラだし、雑談に近いです。それを一つの記事にまとめるのは相当な編集力が必要とされます。その割にPVには結びつきにくいんですよ。ログミーが登場した後、他のメディアも書き起こしをしていましたが、だいたい更新が止まっていますからね。

前島:紙とwebでは様々な違いがありますが、記者としてその両方を経験していらっしゃる中野さん自身はそれらの違いに関してどのように感じていますか?

中野:webだと、編集者、記者を判断する指標としてPVは重要な要素になりますよね。しかし、数字(PV)が伸びる記事は、写真ばかりの記事、猫のスライドショーなど柔らかいネタが多いんですよね。それがジャーナリズムと言えるかどうかは、疑問ですけどね。ログミーさん同様、記者会見の全文書き起こしはハフィントンでもやります。この種の記事も数字の取れるコンテンツなんですよ。昨年で言うと、小保方、佐村河内、野々村県議など多くの会見スターが現れましたからね(笑)。全文といっても、全文載せると非常に読みづらい記事になるので、編集はします。

オリジナルコンテンツとして、インタビューもよく行っています。仮に、そのインタビューを新聞に載せるとすると、相当な文字数を削らなきゃいけないんですが、webだと、それなりに分量を削ることなく載せることができます。そこがwebジャーナリズムの利点ですよね。

他の違いは編集者、記者の数です。ハフィントンは編集者が10人もいないのですが、朝日新聞社は2000~3000人くらいいますから。そういう違いがあるからこそ、インタビュー、会見全文など出来る限りユニークなことをするというコンセプトを持ってやっています。webで新聞と同じことをやってもしょうがないですよね。

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 大手メディアと新興ベンチャーメディア

前島:新興メディアと大手メディアの違いとしてはリソースの面から見ても、「お金、人材が多い/少ない」など様々な違いがあるかと思いますが、川原崎さんは大手メディアをどのように意識していますか?

川原崎:webの台頭で既存マスコミの仕事が減っていますよね。会見書き起こし一つとっても、それって元々、マスコミの仕事ですからね。ちなみに僕はログミーをメディアだと思っていません。ログミーは記録、ログなんですよ。

今まで記者さんがやっていた「書き起こし→執筆」というプロセスの「書き起こし」という部分はログミーがやります。そのログを利用して、記事にするのは人間(記者)にしかできないことです。その部分を優秀な記者さんがやってくれれば良いと思っています。

PVだけ稼げばいい時代はもう終わって、今後は、社会の仕組みと上手く噛み合っていかないといけないと思っています。そういった観点から考えれば、対立軸というよりかは、大手メディアが出来ない隙間を埋めていく、補完的な部分がログミーの役割です。

前島:なるほど、大手メディアではやりきれない部分を埋めていくイメージですね。逆に、大手メディアでしか出来ないことというのを改めて考えると何なんでしょうね。

山川:大手メディアは“みんなにとって重要な”モノをニュースにします。しかしながら、そういう“みんなにとって重要な”ニュースはwebだと数字が取れないことが多いんですよ。そういう意味でその種のニュースが価値を産んでいない可能性も大いにあります。大手メディアは多大なコストをかけて番記者を多くの政治家をつけていますよね。しかしながら、今やこれが成り立っているのは日本と韓国くらいで、アメリカではホワイトハウス番くらいしかいません。

アメリカにはエース記者がいて、たいてい彼らには弟子、助手がついています。その弟子が情報を持ってきて、それを利用して、エース記者が執筆をします。読者は自分の好きな記者を目当てに購読する新聞を選択するケースも多いようです。アメリカでは、独自色のある記事を売り物にして購読者数を維持していている面があり、日本のような集団的取材ではなく、個人的な取材で名前を売っています。

川原崎:日本の大手メディアは記者よりも機能の方が強いんですかね?

山川:記者クラブ、配達網などがあるので、機能の方が優位ですね。どうしても個人の力よりも、大きい組織、システムとして今まで維持してきました。しかし最近は、アメリカのエース記者のように、記者としての個人の力を育てる努力はしています。記者の署名だけでなく、顔写真も記載している新聞社もあります。

前島:僕の中で、新聞は公共性を重視するが故に、色のないニュースを出すイメージがあります。昔はニュースを届けられる媒体がテレビや新聞くらいしかなかったので、とりあえずみんなが知っておくべきニュースを届けるメディアとしてそうしたあり方で良かったのだと思います。しかし、最近はwebの台頭によってプレイヤーが増え、色のあるニュース、つまり独自性のあるモノが必要とされているのではないかと感じています。

山川:まさにその通りです。「今のままではまずい」「独自性を出してこう」という雰囲気はあります。一方で、web の台頭は、どこの新聞社がどういう内容を書いているかわかるようになって、偏向的な記事になりすぎると叩かれます。朝日新聞社もよく叩かれていますが、社内の人間は偏向的ではないですよ(笑)そういう観点では、独自色を出しながらも、バランスを維持しなくてはけないと思っています。

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photo by Yoshikazu TAKADA

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