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  ミス・ユニバース日本代表、宮本エリアナさんを巡る人種問題

日本人の母親とアフリカ系アメリカ人の父親を持つハーフとして初めて、ミス・ユニバース日本代表に選ばれた宮本エリアナさんに対するインタビューが、5月9日のハフィントンポストに掲載されました。

記事によると、宮本エリアナさんが出場を決めたきっかけは、自分と同じハーフの友人がアイデンティティを見つけられずに悩み、自殺してしまったことだと言います。

“日本で生まれ、日本で育っているのに、日本人ではないのであれば、ハーフの私達は何人なのでしょう?そして、それはつまり外国人に対する偏見につながっていると思うので、そういった認識を変えていきたいのです。”

(2015年5月9日, 宮本エリアナさん「日本と世界から人種への偏見をなくしたい」【ミス・ユニバース日本代表】 ハフィントンポストより引用)

このように人種問題というのは、これほどグローバルな時代を迎えても、むしろ迎えたからこそ、考えていかなくてはならない問題となってきています。

その人種問題の中でも歴史的に根の深いものの一つが「分居問題」です。最近では曽野綾子氏が「異なる人種の人々とは分かれて住むべき」という趣旨のコラムを産経新聞に掲載したことが話題となりました。

こうした人種問題を考えるには、社会学、文化人類学など様々な学問からのアプローチが試みられます。本稿では、中でも、「人が自分と異なるものを避けようとするときのメカニズム」について、コンピュータシミュレーション(分居モデル)を用いて考察してみたいと思います。

 

 分居モデルとは

1978年にシェリングという研究者が考案したこのモデルは、人々の些細な考えが社会全体にどのような影響をもたらすかを考察するために作られました。

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(サイバー大学,松本幸子コラムより引用)

マス目で区切られた世界に、赤と青の二種類の人々が存在していると仮定します。

この人々はマスの中を動き回りますが、自分の周囲8マスがある一定の割合、この図では4割以上を同じ色の人に囲まれると満足し、その場に居座ります。

しかしそうでない場合は不満を抱え、別の場所に移って再び周囲にいる人たちの色を確認します。

この処理を一定時間繰り返すと、最終的には全員が満足した状態、つまり同じ色同士で集まった”分居状態”が完成します。

つまりこのモデルから分かるのは、自分の周囲4割を同種に囲まれていたいと思うだけで、はっきりとした住み分け状態が形成されてしまうということです。「4割」という数字を小さいと感じるか大きいと感じるかは人によるかもしれませんが、「半分ちょっとは異人種と接していても良い」という、ある程度の寛容さをもってしても、明確な住み分けは行われてしまうのです。

 

 実験の条件について

さて、本稿ではこの分居モデルに関して、幾つかの値を変化させて実験した結果を追っていきたいと思います。※1

以下に述べる値を変化させて考えてみたいのは、現実世界との対応です。

シェリングの元々のモデルは分居メカニズムの確認には使えますが、現実世界にそのまま当てはめて考えるには、いささか単純化しすぎているところがあります。
そこで、現実世界での都市環境が人種の数や密集率など様々であることを考慮し、それらを変数にすることで出来る限り現実世界に対応したシミュレーションができないだろうかと考えました。

変化させたのは、次の3つの値です。

1. 人種の数…分居モデルでは人種は2種類で考察されていますが、本稿では16種類まで種類を変化させてみます。

2. 密集率…現実世界で言うところの都市内の人口密度に対応しています。例えば50%であればマス目の半分に人々が生成され、99%であれば殆ど全てのマス目に人々がいることになります。

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この値を10%刻みで変えていきます。

3. 分居志向率…人々が「自分の周囲にどの程度同じ色の人がいれば満足するか」を示す値です。50%であれば、自分の周囲にいる人の半分(つまり4コマ)が同じ色であれば満足しますが、100%であったならば周囲にいる人々全員(つまり8コマ)が同色でなければ満足しません。

この値を30%刻みで10%,40%,70%,100%と変化させます。

以下グラフを示してまいりますが、多少読み飛ばして頂いても構いません。主張のみご理解されたい方は結論部分を読んで頂ければ幸いです。

 

 2種族の場合

まず基本となる2種族で実験した結果を見てみましょう。以下に示すグラフは横軸に密集率、つまりマス目全体をどれくらいの人々が埋めているのかという値を、縦軸に最終的な平均分居率、シミュレーションが終了した時にそれぞれの人々がどれくらいの割合で住み分かれているのかを示す値を取っています。

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まず全体の傾向として分かるのは、密集率が上がればそれだけ分居率が低くなっていくということです。これは考えてみれば当然で、人々の数が増えればそれだけ満足できる位置を見つけ出すことが難しくなってしまいます。

次に分かるのは、分居志向率との関係です。10%,40%,70%という順で分居率が高まっていく様子が分かります。しかし、70%が限界値なのか、嗜好率が100%になると分居率は密集率の高まりとともに急激に落ちていきます。

これもまた感覚として理解できる部分ではありますが、周囲全てを同人種に囲まれていたいと望んでも、そこに無理が生じてしまうことは当然だと言えます。

続いて、不満率の推移を見てみましょう。人々は周囲を分居志向率で決めた数以上に同じ人種で囲まれなければ不満を感じます。

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先ほど見た分居率のグラフで、分居志向率100%の場合ではシミュレーションが破綻してしまいました。シミュレーションは全員が満足した状態になることで終了するので、満足できなかった人が存在していることを意味します。

そのグラフと対になる形で、不満率は密集率の上昇に伴ってより高くなっていきます。100%より低い分居志向率の人々は不満を感じることなく分居状態を完成させました。

 

 16人種での場合と、人種を増やした影響の概観

続いて16にまで人種を増やした場合の結果を見ていきましょう。

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全体の傾向は2種の場合と同じですが、分居志向率の限界値がより低くなっています。

分居率に関して言えば、先程は分居志向率70%が限界値で、100%で急激に分居率が下がるという推移となっていました。対して16種の場合は40%の時点でもう急激な減少を確認することが出来ます。

また、人種の数が増えることによる影響をまとめて見るために、密集率毎に分居率・不満率を平均したグラフも作成してみました。

 

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人種が増えることによって平均分居率は全体的に下方へ、また不満率は上方にシフトします。さらにどちらの場合でも密集率の影響は強く受けるようです。

 

 分居に固執する時点で不満を覚えることは避けられない

ここまで見てきて分かったことをまとめていきたいと思います。分居志向率・密集率・人種数の順に見ていきましょう。

*分居志向率…この値が大きくなればなるほど条件がシビアになるので、分居率の低下及び不満率の上昇を招いてしまうのは当然でしょう。ただ、分居志向率が下がればそれだけ不満率が下がる、つまり「広い心であれば満足しやすい」というある意味当たり前の事実を、数字でも確認することが出来たことには意義があるでしょう。

*密集率・人種数…これらの値が大きくなるほど人々の不満度は増していきます。人口が多くなれば、またはその種類が多くなれば、分居を前提とする限り、満足するための条件が難しくなってしまうことは自明の理でしょう。

さて、ここでもう一度今回のシミュレーションの目的を振り返ると、それは「分居モデルを現実世界に出来るだけ対応させるとどんなことが分かるだろうか」というものでした。

分居志向率が下がれば下がるほど、満足度は上がります。しかし、それは人種数・密集率が低い段階での話です。人々の数や種類が多種多様になれば分居志向率が低くても不満を感じる人が出てきてしまいます。

つまり、現実世界での都市空間でも同じように、どんなに心を広く保とうとも、分居することを前提とする限り、誰しもが多少なりとも不安を感じてしまうのではないでしょうか。

 

 隣の人が異人種であっても何もおかしくない

私たち人間が人種という分かりやすい指標で相手を分類しようとするのは自然なことです。ですが、このグローバルな時代に、出来るだけ同じ人種同士でいたい、と固執することはもはや難しくなってきているのかもしれません。

例えば東京を歩けば様々な国の人達を見かけます。大学や職場にも外国人の方々は大勢おり、コンビニの店員が日本人だけのところを見かけることも都内では珍しいのではないでしょうか。

言葉の壁こそありますが、私たちが生きているこの世界は様々な人種の人達が織りなす世界であることを今一度意識していきたいものです。

分居を前提とするのではなく如何にして彼らとコミュニケーションを取っていくか、という前向きな考え方を、多くの人たちが実践していくことが出来ればと思います。

Photo by pixabay [参考文献 注釈]

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