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 10年後に無くなる可能性が高い職業とは

突然ですが、まずこちらの画像をご覧下さい。

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ラーメン調理人から機械組立工、そしてコックなどの職業が90%以上の確率でなくなると推定されています。この結果はどのように導き出されたものなのでしょうか。本稿ではそのことについてお話ししたいと思います。

 

 オックスフォード大学が「10年後に無くなる可能性が高い職業」を発表

2014年11月頃、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文が話題となりました。准教授は現代ビジネスに対するインタビューには次のように答えています。

“これはほんの一例で、機械によって代わられる人間の仕事は非常に多岐にわたります。私は、米国労働省のデータに基づいて、702の職種が今後どれだけコンピューター技術によって自動化されるかを分析しました。その結果、今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いという結論に至ったのです”

この論文で発表された内容は非常にセンセーショナルなものでした。

これまでルーティン化できないと思われていた仕事も、コンピューターの計算能力向上に伴い、人工知能が扱うことが出来るようになっている、ということを多くの人が実感させられたからです。

現代ビジネスのこのインタビューは3000回以上のTwitterシェアを獲得し、多くの人々の目に留まることになりました。ぼんやりと聞いた記憶がある方も多いのではないでしょうか。しかし、そうした方々もどのようにしてその調査結果が導き出されたのか、過程まで知っている方はあまり多くないかもしれません。

実はこの結果自体も、人工知能技術の基盤である、機械学習によって明らかになったものなのです。

 

 正解例を基に機械に学習させる”教師あり学習”

この論文で用いられた手法は、”ガウス過程分類”――教師あり学習という機械学習手法の一つです。機械学習には”教師あり学習”と”教師なし学習”がありますが、ここでは教師あり学習について説明したいと思います。

教師あり学習とは、一言で言えば、正解例を予め用意し、それを基に機械に判断基準を作らせる手法です。イメージ図と共に見ていきましょう。

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教師あり学習では、まず見本として”教師データ”がプログラムに与えられます。プログラムはこの見本を基にして判別の際の基準となるモデルを作成し、そのモデルを当てはめることで、未知のデータについても分類ができるようになるのです。

先ほど述べたように”ガウス過程分類”はこの教師あり学習に分類されます。

実際の論文では70個の教師データを作成し、それらデータから構成される判断基準の性能が高いことを確認した上で700近くの職業全体にそのモデルを適用し、コンピュータに取って代わられる可能性が高い職業なのか、人間がこれからもこなしていく職業なのかを判別していたようです。

本稿で筆者が用いたのも教師あり学習に分類される”ランダムフォレスト”と呼ばれる手法です。

教師データとして用いたのは先の論文で示されていたものの中から、なくなる可能性が高い職業と低い職業をそれぞれ50個ずつ抜き出し教師データとしました。※1

 

 日本語版、「10年後になくなる職業」を推定する

今回の判別を行う際に用いた数値データは、労働政策研究・研修機構(独立行政法人)が2014年3月30日に発表した論文から引用させて頂きました。

『職務構造に関する研究―職業の数値解析と職業移動からの検討―』

この研究では、様々な数値的尺度から全部で601の職業を評価しようという取り組みが行われています。本稿ではその数値的尺度の中から、人工知能が代替出来る指標として関係が深いと考えた

スキル…「基盤」「数理」「テクニカル」「ヒューマン」「コンピュータ」「モノ等管理」

知識…「科学・技術」「芸術・人文学」「医療」「ビジネス・経営」「語学」「土木・警備」「化学・生物学」

仕事環境…「座り作業」「他者とのかかわり」「屋外作業」「影響度・責任」「流れ作業」

という三つのカテゴリの指標を用いました。※2

このデータを用いて教師あり学習による判別を行った結果、導出されたのが冒頭で示した表となります。特に日本においてなじみ深いと思われる職業について掲載しました。(2015/5/28,一部加筆修正)

判別の結果、約63%の職業が人工知能、コンピュータに取って変わられる可能性が今後高いことが分かりました。※3

 

 人工知能はコックの代わりを務められるのか?

では、具体的に今、コンピューターの能力はどの段階まで来ているのでしょうか?

ここでは、表において、単純作業が多い組立工や店員と違って目を引く、創作性が強い職業の代表としてコック、そして重大な責任が伴う航空管制官を例に見ていきたいと思います。

まずコックについて見ていきましょう。

コック、つまり料理人ですが一見非常に創作的な思考が求められる上、料理スキルという築き上げられた経験によって構成される能力がなくては務まらない、人間にしか出来ない仕事であるように思われます。

しかし、実際に人工知能に料理を作らせようとする取り組みは始まっています。次の文章はGIZMODO JAPANより引用したものです。

“メリーランド大学とオーストラリアの研究センターNICTAの研究では、人間が料理をする88本のYouTube動画を見せ、それを使ってロボットシェフ=人工知能に学習させているといいます。ポイントとなるのは、このYouTube動画はただのYouTube動画だということ。ロボット仕様に手が加えられたものではないのです。研究員たちも「既存の料理データよりも、視覚的問題があり今まで以上の挑戦となった」と語っています。でしょうね。

研究チームのロボットシェフは、動画で人が扱う様々なツールをきちんと理解したということです。つまり、料理動画を理解しただけでなく、その情報を元に異なるツールの使い方も学習できたわけです。”

更に、人工知能にレシピを学習させ、創作レシピを作らせる取り組みもあるようです。IBMが開発を進める人工知能”Watson”が編み出した創作レシピ本が発売されています。

 

 航空システムの最適化に向けて

続いて航空管制官について見ていきます。

航空管制官というのは、空港の航空管制塔などからレーダーや無線を用いてフライト中のパイロットに適切なルートの指示や情報を伝える仕事です。航空管制官が状況を俯瞰して最適な情報をパイロットに与えることで空の安全は守られています。

多くの人々の安全にかかわる仕事であり、また経験や知識に基づいて臨機応変な判断が求められる場面も多い職業だと思われます。

しかし、モナシュ大学クレイトン情報技術スクールの准教授であるデイヴィッド・ダウ氏が昨年12月4日に発表・寄稿した文章によれば、人工知能は既にこうした領域にも及びつつあると言います。

“既に今、仕事の多くの部分をコンピュータが担うようになってきている。単純計算や繰り返し計算はコンピュータに任せているし、GPSシステムもそうだ。そうして既に置き換えられているものがある一方で、人工知能が及びつつある分野もある。航空管制システムやミサイル軌道計算、自動運転車などがそうだ。”
(筆者意訳。小見出し: Machines already taking overの一文目より)

自動操縦の技術は飛躍的に進んでおり、今や離陸以外の操作は条件さえ整っていれば自動操縦のみで行うことが出来るとまで言われています。非常に責任の伴う航空管制という仕事についても、今後更に人工知能が担う部分が多くなっていくのかもしれません。

現在日本で行われている取り組みとしては、CARATS(将来の航空交通システムに関する長期ビジョン)というものが立ち上がっています。アジア・太平洋地域において今後一層航空機の需要が増える見込みですが、今の航空システムでは人間が処理する部分が多すぎて処理能力をオーバーしてしまい、重大な事故に結びつくリスクが非常に高い状況です。

そうした状況を変えるべく、CARATSは発足されました。具体的なビジョンについてですが、現在航空管制は限られたエリアごとに航空機を管理し、その現在位置を捕捉して将来位置を予測する仕組みとなっています。これを、航空機それぞれの軌道を把握する仕組みを作り上げることでより正確に将来位置を算出することを目指すようです。

そのためには、航空機の自動操縦技術の発達及び航空管制システムの情報処理効率化が必要不可欠となります。

まだまだ人工知能が航空管制システムの中で主たる役割を担っているとは言えないかもしれませんが、今後こうした取り組みが進んでいくにつれて意識せざるを得ないものになっていくことは間違い無いでしょう。

 

 後編ではマクロな視点に基づく分析を

今回の前編ではオックスフォード大学が発表した論文で用いられている機械学習手法を用いて、日本版なくなる可能性が高い職業を具体的に見てみました。

次回の後編では、なくなる可能性が高い職業・可能性が低い職業それぞれについてどのような数値的特徴がみられるのか、広いマクロな視点に基づく分析をしてみたいと思います。

(2015/5/29)後編を公開いたしました。人工知能とうまく付き合っていくために人間に必要なスキルを考える:日本版・10年後に無くなるかもしれない職業とは(後編)

最後に、今回の分析結果(ランダムフォレストとSVMによる推定結果)をまとめたPDFへのリンクを貼っております。お時間のある方は是非ご覧ください。

日本版、10年後に無くなる職業とは(Credo,深澤祐援)

Photo by Pixabay 【注釈・参考文献

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