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2014年の6月には1バレルあたり110米ドルであった石油の市場価格が、2月末には約48米ドルにまで下落しました。いったいなぜ石油の価格は急激に下落したのでしょうか。

 

 石油価格下落の理由

その理由は、実に単純で、市場に石油が余っているからです。

世界最大の石油消費国であるアメリカでは、2013年、シェール革命と呼ばれる技術革新が起こりました。

地下の岩体に高圧の液体を注入して亀裂を生じさせる「水圧破砕法」を用いることで、シェール層に埋まっている石油を掘り出す事が可能になりました。

そのため、アメリカにおける石油生産量が激増し、国外から輸入する石油量が激減しました。

さらに、中国、ヨーロッパなど諸先進国の経済も失速しているため、石油の需要は下がっています。こうして需要が下がっている状況で、アメリカからの供給が増えたことにより、世界中で石油が余り、市場価格が下落したのです。(*1)

今まで、このように石油価格が下落すると、OPEC (石油輸出国機構)が石油を減産し、石油の市場価格を調節していましたが、今回、OPECが石油の減産をしていないため、石油の価格が下がり続けているのです。

では、なぜ、OPECはいつも通りの対応を取らなかったのでしょうか。

 

OPECが対応しない理由

 OPECが石油の減産をしなかった理由については、アメリカで石油ブームを巻き起こしたシェールオイル産業を弱体化させることを狙った動きだとささやかれていました。

しかし、3月に行われたドイツとアラビア諸国の会合で、OPEC最大の石油輸出国であるサウジアラビアの石油大臣であるである アリ=アルナイミ氏がその説を否定しました 。

アルナイミ氏は、石油の減産をしなかった理由について、それが市場を安定させる為に最善の策であったと主張しています。

しかし、「フィナンシャルタイムズ」のジェフ・ダイアー氏とエド・クルックス氏は、OPECが下した決断の裏にはもっと複雑な理由があったのではないかと考えています。

彼らは、石油の生産を続行するというOPECの決定は、緻密に計算されたサウジアラビアの作戦であったのではないかと言及しています。

現在行われている核協議(※)の結果次第では、イランに対する経済制裁が解かれる可能性や、イランが核開発を続ける可能性もあり、イランが経済的、軍事的に力を取り戻す可能性があります。

(※先日決裂した国連本部で開かれた核拡散防止条約再検討会議とは別のものです)

しかし、シーア派イスラム教を国教とし、国民の大半がペルシア人であるイランと、国民の大半がアラブ人であり、スンニ派イスラム教を国教とするサウジアラビアは宗教的にも民族的にも対立関係にあるため、イランが力を持つ事はサウジアラビアにとって好ましくありません(*2)。

そこで、安全保障の為にも、アメリカとの良好な関係を保つ必要があると判断したサウジアラビアは、アメリカが利益を得られるようにあえて石油価格を下落させたのではないかと、ダイアー氏とクルックス氏は述べています。

 

 アメリカにもたらされる利益

それでは、石油の市場価格の下落がなぜアメリカにとって利益となるのでしょうか。

石油1バレルあたりの生産コストを埋め合わせるのに必要な売却価格は、 生産コストが最も高い国で約150米ドル(2013年のデータより)(*3)ですから、石油価格が48米ドルまで下がると、多くの産油国が損をする事になります。特に、石油の生産コストの高いロシア、イラン等の経済的損失は大きいと見られています。

この石油価格の下落によってアメリカの石油産業も例外なく打撃を受けますが、それが『アメリカにもたらされる利益』によって相殺される事を期待して、サウジアラビアは賭けに出たのだと思われます。

この『アメリカにもたらされる利益』とは、石油価格下落によってロシアとイランが経済的損失を受けることです。

ロシアはウクライナ危機以降、アメリカとヨーロッパ諸国より経済制裁を受けており、この石油価格の下落によってさらにロシア経済は失速すると考えられます。

ロシアはこれ以上の経済制裁を避けるため、当面は今年2月に合意したウクライナとの停戦を守るとみられています。ロシアがウクライナを取り込み、勢力を拡大する事はアメリカとって避けたい事態ですから、ロシア経済の失速はアメリカにとって有利に働くわけです。

前述した通り、現在アメリカはイランと核協議中です。

イラン経済もまた石油価格の下落によって失速することが予想されます。さらなる経済制裁を受ける事はイランにとって避けたい事態ですので、アメリカの要求通り核協議に妥協し合意する可能性が高まります。

このように、石油市場価格の下落は、アメリカが外交政策を優位に進める上で好条件となるため、「サウジアラビアはアメリカとの関係を良好にするためにあえて石油価格を下落させた」というのがダイアー氏とクルックス氏の見解です(*4)。

OPECが石油を減産しない理由については、この他にもイラク国内の油田から利益を得ているイスラム国の弱体化等、諸説あるため、本稿内で断言することはできませんが、今回のOPECの決断が世界経済に大きな影響を与えたことは間違いありません。

 photo by kanegen [参考文献一覧]

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