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MERS(Middle East Respiratory Syndrome, 中東呼吸器症候群, 以下MERS)の患者が隣国韓国でみられ、話題になっています。

2015年6月3日現在、韓国国内で1300人以上が隔離対象となり、約400人が感染の疑いとされ、2人が死亡しています。

MERSに関して、情報をまとめました。

 

 MERSとは?

MERSは、Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERSコロナウイルス)というコロナウイルスの一種であるウイルスの感染によって発症します。コロナウイルスは、もともとは鼻風邪の一原因となるウイルスとしか考えられていませんでしたが、2002年に中国で発生したSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome, 重症急性呼吸器症候群)の影響により、注目されるようになりました。

SARSは、SARSコロナウイルスによって発症します。MERSコロナウイルスとグループは一緒ですが、細かな分類でいうと違うウイルスになります。SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスはそれぞれ、新種のコロナウイルスと言われています。MERSは2012年9月に初めて報告され、中東の国々を中心に発生があったため、Middle East=中東という地域名が名前に入っています。

MERSコロナウイルスは、人から人に感染します。今のところ、一般的な風邪と同じく、せきやくしゃみなどからうつるとされています。感染源となる動物として、ヒトコブラクダが想定されています。ただし、これらはあくまで可能性であり、はっきりとしたことはまだよくわかっていないのが現状です。

初期症状として、発熱、せき、のどの痛み、腹痛、嘔気など一般的な風邪と同じようなものがみられます。

今回の韓国での最初のMERS患者は、中東からの帰国者でした。韓国でMERSになったのではなく、他の国から持ち込まれた症例ということになります。

 

 致死率40%?

MERSがこれだけ話題になるのは、原因ウイルスが新種であることに加え、高い致死率を持つからです。

2012年から現在までのWHO(World Health Organization, 世界保健機関)の調査によると、MERSコロナウイルス感染が同定された1179人中、442人の死亡が確認されています。

これは致死率約37%と高い数字になります。ただ、この数字の分母の1179人は、検査でウイルスが同定された人に限られていますので、実際は感染していたけれど検査で同定されていない人もいた可能性を考えると分母が増え、致死率としてはもう少し低い可能性もありますが、真相は不明です。いずれにしても、高い数字であることは推測されます。

MERSコロナウイルス感染者の70%に重い肺炎を合併をすることや、腎臓機能低下も報告されています。このような重篤な合併症によって高い致死率となると考えられます。

残念ながら現時点でMERSコロナウイルスの治療薬はなく、ワクチンも開発されていません。患者の症状に合った治療を行います。

 

 リスクの高い、”院内感染”

2015年2月にthe New England Journal of Medicine誌の中で 発表された論文に、2014年にサウジアラビアのジェッダという街で起きた大規模なMERS流行について記載がありました。

論文によると、感染者の致死率は36.5%(93/255人中)であり、年齢の中央値は45歳、そのうち68.2%が男性だったということです。そして感染者のほとんどは医療関係者もしくは入院患者や外来受診患者だったとのことです。

このことは、MERSにおいて院内感染が大きなリスクファクターになることを示しています。患者として病院にかかる方は何らかの病気を持っている可能性が高いため、感染しやすくなります。また、医療関係者は患者と近い距離で接触しますので、健康であっても感染しやすくなります。

このことは、今回の韓国でのMERS発生が医療施設を中心に起きていることと一致します。

言い換えると、今のところMERSの流行は医療施設内や濃厚接触のあった家族内に限られているということです。インフルエンザのように、街中で次々に人にうつっていく、「社会の中での持続的な感染」が起きる証拠はないとWHOも6月2日に発表しました。

 

 日本のヒトコブラクダにMERSコロナウイルスはいない

MERSの感染源となる動物がヒトコブラクダであると想定されていることは先ほど触れました。2015年3月にJapanese Journal of Infectious Diseases誌の中で発表された論文によると、日本各地で飼育されているヒトコブラクダのうち20頭(全体の約87%ということです)を調べたところ、MERSコロナウイルスの検出はなかったとのことです。

日本で飼育されているヒトコブラクダのうち、MERS流行地域から近年輸入されたものはおらず、国内のヒトコブラクダが感染源となる可能性は極めて低いと結論づけています。避けるべきは、MERS流行地域(アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、ヨルダン、レバノンなど)でのラクダとの接触です。

 

  気をつけること

6月3日のWHO公式見解によると、韓国を含め、特別な渡航制限の必要はないとしています。

医療機関に関係する人たちは、今一度感染対策を強化する必要があります。

一般の方に対して厚生労働省は、中東地域から帰国後に風邪症状を認めた場合、すみやかに検疫所を受診することや、先述の中東地域でのラクダとの接触を避けることなどの注意喚起をホームページに掲載していますので、参照してみてください。

「社会の中での持続的な感染」が起きているわけではないので、過剰に恐怖をあおられる必要はないと思われますが、MERSについてはまだわからないことも多くあり、今後の動向に注目が集まっています。

Photo by NIAID【参考文献】

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